ハラスメントを生まないアサーションのDESC法
2020年のパワハラ防止法(労働施策総合推進法)施行、2022年の中小企業への適用拡大を経て、ハラスメント対策は企業の必須テーマとなりました。しかし実態として、管理職が「厳しく指導する必要があるが、どこまでがハラスメントか分からない」と萎縮してしまうケースも増えています。
この「指導とハラスメントの境界線」を実務で越えないために役立つコミュニケーションスキルがアサーションであり、その実践手法がDESC法です。本記事ではDESC法の4ステップと、ビジネスシーンでの具体例を解説します。
アサーションとは
アサーションは以下のように定義されます。
「相手の主張を尊重しつつも、自身の主張を発する」というアサーティブなコミュニケーションが注目されている背景には、パワハラを含む攻撃的なコミュニケーションが組織の様々な問題の原因になっている現実があります。
3タイプのコミュニケーション
アサーションの理解には、3つのコミュニケーションタイプを整理するのが近道です。
1. アグレッシブ(攻撃的)
自分を中心に考え、相手の主張を無視して自分の意見を通すタイプ。パワハラや威圧的な指導がこれに該当します。「なんでできないんだ」「言われたことだけやれ」など、相手の人格や状況を考慮しない発言が典型例です。
2. ノンアサーティブ(非主張的)
自分の意見を抑え込み、相手に合わせ続けるタイプ。アグレッシブな相手との関係で発生しやすく、本人のストレス蓄積や、本来伝えるべき情報が共有されないリスクを生みます。
3. アサーティブ(適切な自己主張)
相手を尊重した上で、自分の意見や要望を率直に伝えるタイプ。これが本記事のテーマで、アグレッシブとノンアサーティブの中間に位置する、組織コミュニケーションの理想形です。
ハラスメントを生まないアサーションのDESC法

DESC法はDescribe・Explain・Specify・Chooseの頭文字をつなげたもので、自分の意見を主張しつつも、攻撃的な印象を与えないコミュニケーションフレームワークです。
D: Describe(描写)
まず客観的に状況や事実を述べるステップです。この段階では意見や感情を切り離すことが重要です。
部下の営業成績が不振な場面での例:
・NG: 「お前、どうなってるんだ!全然ダメじゃないか!」
・OK: 「現状、目標に対して10%未達だよね」
事実ベースで始めることで、相手が身構えず話を聞く姿勢になります。
E: Explain(説明)
自分の主観的な気持ちを伝えるステップです。Express(表現)やEmpathize(共感)と呼ばれることもあります。ここでは「Iメッセージ」(私は〜と感じている、という主語が「私」の表現)を使います。
例:
・「もっとできると思っていたから、僕はちょっと驚いている」
・「同じチームとして何とか一緒に改善したいと思っている」
建設的・明確に・感情的になりすぎずに伝えるのがポイントです。
S: Specify(提案)
相手に望む具体的・現実的・小さな行動変容の提案を行うステップです。
例:
・NG: 「明日から1件取れるまで帰ってくるな」(現実的でない・何をすべきか不明)
・OK: 「明日から、お客様との会話を(許可を得て)録音して、帰社後に2人で確認するというのはどうかな」
相手が「それなら試せる」と感じられる具体性と実行可能性が鍵です。
C: Choose(選択)
提案に対してYesと言われた場合とNoと言われた場合の両方の選択肢を提示します。
例:
・「それをやることで、説明の仕方でまずい部分に気づけるかもしれない。録音が難しいなら、一緒に同行する形でもいいけど、どっちがやりやすい?」
・「君が目標達成してくれたら、僕も嬉しいよ」
最後に自分の気持ちを添えると、よりアサーティブな印象になります。
DESC法の活用シーン
1. 部下への指導
成績不振・遅刻・報連相の不足など、改善を求めたい場面で有効です。パワハラ的な叱責を避けながら、改善を促せます。
2. 上司への意見具申
「上司の方針に懸念がある」「無理な納期を依頼された」といった場面でも、DESC法は機能します。事実→自分の感情→提案→選択肢の順で伝えることで、一方的な不満ではなく建設的な提案として受け取ってもらえます。
3. 同僚・他部署との交渉
リソース配分や優先順位の調整など、部門間交渉でもDESC法は使えます。立場が対等な相手に対して、攻撃的にならず自分の主張を通す手段として有効です。
4. 家庭・プライベートでの活用
DESC法はビジネス専用ではありません。夫婦間コミュニケーションや親子の話し合いなど、対人関係全般で活用可能です。
DESC法を定着させる研修
DESC法の使い所を体感できる研修ゲームとして、日常業務の事例集をもとに管理職が「これはハラスメントか?」の判断を練習するハラスメントフラグがあります。指導とハラスメントの境界線を、シナリオベースで議論しながら言語化していく体験ができます。
DESC法は「知っている」だけでは使えません。管理職研修やコミュニケーション研修で、以下のようなワークを入れると実務で使えるレベルになります。
・実際の部下指導シーンのロールプレイ(D/E/S/Cの各段階を口に出す練習)
・NG例からOK例への変換ワーク
・部下役・上司役を交代して双方の視点を体験
参考書籍
アサーションについて詳しく知りたい方には以下の書籍がおすすめです。
