行動変容を起こす5段階モデル

【結論】行動変容段階モデルを研修設計に応用することで、受講者の行動変容を効果的に促すことができます。各段階に応じた適切な介入は、研修効果を最大化し、持続的な行動変容の実現に繋がります。

研修の効果を測る代表的な理論として、カークパトリックの4段階評価が知られています。レベル3以上の効果(行動変容・業績)を引き出すには、研修内容そのものよりも「受講者の行動が実際にどの段階にあるのか」を見極めた設計が欠かせません。本記事では、心理学者ジェイムス・プロチャスカが提唱した行動変容段階モデルを研修設計にどう応用するかを、5段階別に整理して解説します。

目次

1. 行動変容段階モデルとは
2. 行動変容段階モデルの5段階と研修設計のポイント
3. カークパトリック4段階評価モデルとの組合せ方
4. 研修担当者が各段階で打つべき施策マトリクス
5. 無関心期を動かす2つのビジネスゲーム研修「財務の虎」と「ハラスメントフラグ」
6. まとめ

行動変容段階モデルとは

行動変容段階モデル

行動変容段階モデル(トランスセオレティカルモデル)は、もともと禁煙や依存症などの治療のために、心理学者ジェイムス・プロチャスカが提唱したモデルです。健康教育や保健指導の現場で広く活用され、近年は企業の人材育成・研修設計の理論的バックボーンとしても注目されています。

このモデルでは、人が新しい行動を獲得し定着させるまでに、次の5つのステージを段階的に通ると考えます。

1. 無関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期
2. 関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
3. 準備期:1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
4. 実行期:明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ6ヶ月未満である時期
5. 維持期:明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期

研修設計の文脈で重要なのは、受講者全員が同じステージにいるわけではないという前提を持つことです。同じ集合研修を受けていても、無関心期と準備期が混在しているケースは珍しくありません。だからこそ、各段階に合わせた介入を意識する必要があります。

行動変容段階モデルの5段階と研修設計のポイント

無関心期:気づきと半強制の組み合わせ

無関心期では、課題や問題行動の存在自体に気づいていないケースが多くなります(例: 財務会計が経営判断にどう影響するか実感していない、ハラスメントが自分の言動に該当するとは思っていない、メンタルヘルスケアの重要性に気づいていない、など)。財務会計やハラスメント、コンプライアンスといった分野は「自分には関係ない」と思い込まれやすく、無関心期の受講者が特に多くなりがちなテーマです。また、過去に挑戦して挫折した経験から、無関心を装っているケースも考えられます。

企業における研修は半強制的に受講させるものが多いですが、無関心期の従業員を任意参加で集めるのは現実的に難しいため、半強制的な受講設計はむしろ妥当といえます。重要なのは「受講前に動機付けが弱くても良い」と割り切り、研修内で気づきを生む仕掛けを用意することです。

ここで特に有効なのがビジネスゲーム形式の研修です。座学に対しては身構える人でも、ゲームと聞けば抵抗感が下がり、半強制受講でも参加のハードルが低くなります。さらに、ゲーム内で勝敗や判断ミスといった感情体験が自然に生まれるため、無関心期の受講者も「自分には課題があるかもしれない」と気づきやすく、関心期へ移行する起点を作れます。

ビジネスゲーム研修の様子

関心期:4つのプロセスで「動こう」と思わせる

関心期では、なんとなく課題を認識しつつも(例: 会計を勉強した方が良い、メンタルケアは重要だ)、行動変容のメリットや具体策が見えず迷っている状態です。多くの人がこのステージに長期間滞留するとされ、研修担当者にとって最も介入価値の高い段階でもあります。

このステージでは以下の4プロセスが有効とされています。

1. 気づき:情報の提供
2. 感情体験:感情が揺さぶられる体験
3. 自己の再評価:自分の思考プロセスの振り返り
4. 環境の再評価:業務や組織との繋がりの理解

研修に当てはめると、講義で情報を与えて気付きを促し、ワークやロールプレイで成功・失敗の感情体験を作り、振り返りで現状の知識・能力・考え方を再評価し、それが業務や組織にどう影響するかを理解してもらう、という流れになります。これにより、関心期から準備期への移行が促されます。

関心期の受講者は「学びたい」というモチベーションが立ち上がっている状態です。この火種を消さないためには、本人が動こうと思った瞬間に学べる環境を整えることが欠かせません。具体的には、いつでも視聴できるeラーニングコンテンツの整備、外部セミナー・公開講座の受講補助、書籍購入支援などを用意し、「学びたいときに学べる」インフラを組織として持つことが、関心期から準備期への移行を加速させます。

準備期:上司を「行動変容の支援者」にする

準備期は、課題に対して前向きに行動を起こそうとする時期です。ここで決定的に重要なのが支援者の存在、特に直属の上司の関わり方です。

以前の 研修での学びを現場で活かすにはどうすればよいのか? でも触れましたが、研修で学んだ内容を現場で実践しているかを上司が追跡し評価する仕組みが必要です。研修担当者は、上司向けに「部下が学んできた内容」と「現場で観察すべき行動」を共有しておくと、準備期から実行期への移行が滞らなくなります。

実行期:4つの強化メカニズムで継続を支える

実行期では、いかに継続するかが鍵となります。プロチャスカは以下の4つのメカニズムで行動を強化できるとしています。

1. 褒美:褒める、ポジティブフィードバック
2. 逆条件付け:NG行動を引き起こす条件を見つけ別の行動に置き換える
3. 刺激統制:行動を妨げる刺激を環境から排除する
4. 援助関係の利用:複数人で実施し相互に支え合う

研修文脈では、褒美は他者からの正のフィードバックに置き換えられます。1on1での承認、社内表彰、上司からの具体的な行動承認などが該当します。また、複数人で同時に行動変容を起こすことで、援助関係が自動的に立ち上がる効果も見逃せません。同じ研修を部署単位で受講させ、研修後にチーム単位で実践宣言を共有する設計が効果的です。

維持期:成果のアピールで他者を巻き込む

維持期では、行動変容によって生まれた成果を他者に周知(アピール)することで、自分自身の行動を強化しつつ、組織内に水平展開する役割を担えます。研修担当者は、成果が出た受講者を社内勉強会や事例共有の場に登壇させる仕組みを作ると、維持期の人を「次の研修の伝道師」に転換できます。

カークパトリック4段階評価モデルとの組合せ方

カークパトリック4段階評価モデル

カークパトリックの4段階評価は研修効果測定の代表的フレームワークです。詳細は カークパトリックによる研修効果の測定(4段階評価) を参照ください。簡単に整理すると、レベル1=満足度、レベル2=学習定着、レベル3=行動変容、レベル4=業績・成果となります。

行動変容段階モデルと組合せると、各レベルがどの段階の受講者を対象としているかが明確になります。

カークパトリック 主な測定対象 対応する行動変容ステージ
レベル1:反応 受講者の満足度 無関心期〜関心期
レベル2:学習 学習定着率(理解度テスト等) 関心期〜準備期
レベル3:行動 研修後の行動変容 準備期〜実行期
レベル4:業績 業績・成果数値 実行期〜維持期

レベル3以上の効果測定が難しいと言われる理由は、行動変容段階モデルで言えば、研修終了時点で受講者がまだ準備期〜実行期初期にいることが多く、変容の観測には時間がかかるためです。研修と効果測定のタイミングを段階モデルから逆算すると、ムリのない測定設計ができます。

研修担当者が各段階で打つべき施策マトリクス

実務上、研修担当者は「いま受講者がどの段階にいるか」を仮説立てしつつ、複数の施策を組み合わせる必要があります。下表は研修前・中・後の介入を段階別に整理したものです。

段階 研修前 研修中 研修後
無関心期 受講案内で課題の重要性を提示 ビジネスゲームで感情体験から気づきを促す 短い振り返りアンケート
関心期 事前課題で自己評価 講義・ワークで自己/環境再評価 eラーニング・外部セミナー受講補助・書籍購入支援
準備期 上司との面談セット 具体的アクションプラン作成 上司による進捗確認1on1
実行期 同僚との並行受講 ロールプレイでの強化 ピアレビュー・社内表彰
維持期 登壇者として位置付け 後進への指導役を任せる 事例共有会・社内勉強会

どの段階にどの介入を当てるかを明確にすることで、研修単発で終わらず、現場での行動変容に繋がる設計に近づきます。

無関心期を動かす2つのビジネスゲーム研修「財務の虎」と「ハラスメントフラグ」

行動変容段階モデルで最も介入が難しいのが無関心期です。「財務知識は経理の仕事」「ハラスメントは自分には関係ない」と本人が思い込んでいる領域では、講義で正論をぶつけても響きません。だからこそ、ゲームを通じた疑似体験で「自分ごと」に変えるアプローチが効果を発揮します。ここでは、無関心期の受講者が多くなりがちな2つのテーマで使えるビジネスゲーム研修を紹介します。

財務の虎 — 経営シミュレーションで財務の無関心を動かす

財務の虎

「財務の虎」は、プレイヤーが経営者役となりPL/BS/CFを動かしながら会社経営を疑似体験するカードゲーム型の研修ツールです。財務諸表に苦手意識を持つ営業・企画・開発職にとって、「自分の意思決定が翌期の数字をどう動かすか」を体感できるため、これまで他人事だった財務指標への当事者意識が一気に芽生えます。無関心期から関心期への移行を起こす起点として、特に若手・中堅マネージャー層に有効です。

財務の虎の詳細を見る

ハラスメントフラグ(カード版) — カードゲームでハラスメントの無関心を動かす

ハラスメントフラグカード版

「ハラスメントフラグカード版」は、上司・部下・同僚それぞれの言動について「これはハラスメントか?」をカード形式で判定し合う体験型研修ツールです。「自分はハラスメントなんてしない」と無関心期にいる管理職・先輩社員に対し、グレーゾーン事例を通じて「実は自分の何気ない一言が該当するかもしれない」と気づかせる仕掛けがあります。判定の正解・不正解で議論が起き、感情体験と自己再評価が同時に生まれるため、無関心期から準備期へ一気に進みやすいのが特徴です。

ハラスメントフラグの詳細を見る

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よくある質問

行動変容段階モデルを研修に活用すると、どのような効果が期待できますか?

このモデルを研修に取り入れることで、受講者の現在の行動段階に合わせたアプローチが可能になります。例えば、行動を変える意図がない人には気づきを促し、変えようとしている人には具体的な方法を提供します。結果として、研修内容がより響きやすくなり、実際の行動変容へと繋がりやすくなるでしょう。受講者一人ひとりに寄り添った効果的な研修設計に役立ちます。

カークパトリックの4段階評価モデルと組み合わせるメリットは何ですか?

カークパトリックモデルで研修効果を測る際、行動変容段階モデルを併用することで、より深く受講者の変化を捉えられます。例えば、行動変容段階モデルで「準備期」にいる受講者が、研修後に「実行期」へ移行したかをカークパトリックの「行動レベル」で評価するといった具体的な測定が可能です。単なる知識習得だけでなく、実際の行動変化までを多角的に評価し、研修の真の価値を見極めるのに役立ちます。

「財務の虎」や「ハラスメントフラグ」が無関心期の受講者に効果的な理由は何ですか?

両ゲームとも、受講者が「自分には関係ない」と思い込みやすいテーマ(財務/ハラスメント)を、ゲームの疑似体験で「自分ごと」に変える設計になっています。財務の虎ではPL/BS/CFを動かす経営者役として、ハラスメントフラグでは判定者・当事者役として、受講者は強制的に意思決定を迫られます。この体験で生まれる感情体験と自己再評価が、無関心期から関心期への移行を一気に加速させるため、座学では届きにくい層に有効です。

研修の参加者が現在どの行動変容段階にいるか、どのように見極めれば良いですか?

参加者の行動変容段階を見極めるには、事前アンケートや研修中の発言、行動を注意深く観察することが有効です。例えば、行動を変えることへの関心度や、具体的な行動計画の有無などを尋ねる質問を盛り込むと良いでしょう。また、グループディスカッションでの意見交換を通じて、それぞれの意識レベルを把握することも可能です。これにより、各段階に合わせた個別のアプローチを検討できます。

研修中に複数の行動変容段階の受講者が混在する場合、どのように対応すれば良いですか?

複数の段階の受講者がいる場合は、一律の進め方ではなく、多様なアプローチを組み合わせることが重要です。例えば、共通の基礎知識は全員に提供しつつ、グループワークではそれぞれの段階に合わせた課題を設定したり、個別フィードバックの時間を設けるなどの工夫が考えられます。異なる段階の受講者同士が交流することで、互いに刺激し合い、学びを深める機会にもなります。柔軟な研修設計が鍵となります。

まとめ

行動変容段階モデルは、研修担当者にとって「受講者がいまどの地点にいるかを見極める地図」として機能します。特に関心期での感情体験と自己再評価、そして実行期での上司・同僚からの正のフィードバックは、研修効果を行動変容レベルに引き上げる鍵となります。カークパトリックの効果測定とセットで設計すれば、研修投資が業績に繋がるストーリーが描けるはずです。研修設計の参考になれば幸いです。


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