今回は、以前にホールシステムアプローチに関する記事で紹介した

はじめてのホールシステムアプローチ

の中から、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)という手法について解説していきます。以下、アプリシエイティブ・インクワイアリーはAIと略します。AIというと生成AI(人工知能)を思い浮かべる方が多いですが、組織開発や人材育成の分野ではAIといえばアプリシエイティブ・インクワイアリーを指します。エンゲージメントや心理的安全性といったテーマが経営課題として注目される2026年現在、問題解決型ではない「強みに光を当てる」アプローチとして、AIは再評価が進んでいます。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは何か?

まず、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは具体的に何でしょうか。代表的な書籍による定義を見てみましょう。

AIは組織の強みに光を当てて、個人や組織の活力の源を探求し、潜在力が発揮された将来とそれに向けての行動を計画していくアプローチです。
by 入門 組織開発
AIは人や組織の弱点や問題点に注目するのではなく、強みや可能性に着目して、未来を創造しようとするアプローチです。
by ワールド・カフェをやろう
AIとは機能していない部分ではなく、機能している部分を調査して組織を変革するプロセスだ
by スイッチ!

共通するのは「強み/上手くいっている部分に光を当てる」という態度です。Appreciative は「真価が分かる」、Inquiry は「探求」を意味し、AIは自分たちの持つ「真の価値」を「探求」するアプローチと訳せます。AIは対話型組織開発(Dialogic OD)の代表的手法として位置づけられており、診断型ODとは異なる問いのデザインが特徴です。

問題解決型アプローチとの違い

AIが注目される理由は、多くの現場で行われてきた「問題解決型」アプローチとは順序もエネルギーの流れも逆だからです。

ステップ 問題解決型(Problem Solving) AI(Appreciative Inquiry)
1 問題を特定する 強み・うまくいっている点を探す
2 原因を分析する 強みを活かした望ましい未来を描く
3 解決策を考える 実現に向けた仕組みをデザインする
4 実行プランを作る 一人ひとりが自分の行動宣言をする

問題解決型は「なぜできないか」を掘る時間が長くなり、対話が重苦しくなりがちです。AIはまず「できていること」から入るため、参加者の発言量・表情・関係性が変わりやすく、組織のエンゲージメント低下に悩む現場ほど効果を感じやすい手法です。ただし、AIは問題を無視する手法ではなく、問題の裏にある「本当に実現したい姿」を問い直す手法である点に注意が必要です。

ポジティブ・コアと4Dサイクル

AIでは組織や個人の強みをポジティブ・コアと呼び、それを発見し未来につなぐ一連の流れを4Dサイクルと呼びます。4Dは頭文字のDで始まる4つのフェーズの総称です。

フェーズ ねらい 代表的な問い
①Discovery(発見) 組織・個人の強みを発見する 「これまでで最もイキイキと仕事ができた瞬間は?」
②Dream(理想) 強みが最大化された未来を描く 「その強みが10倍発揮されたら、組織はどう変わる?」
③Design(設計) 理想を実現する仕組みを設計する 「その未来に必要な制度・習慣・関係性は何か?」
④Destiny(実行) 一人ひとりの行動として定着させる 「明日から自分が始める一歩は何か?」

4Dサイクルは1回で完結するものではなく、DestinyからDiscoveryへと戻る螺旋構造でまわすことで、継続的な組織変革のリズムが生まれます。ワールド・カフェやOSTといった他の対話型OD手法と組み合わせて設計されることも多く、オンライン/ハイブリッド環境でも実施可能です。

AIが向いている場面・向かない場面

AIはどの組織にも万能というわけではありません。導入検討時には、以下の向き不向きを押さえておくと設計の精度が上がります。

向いている場面 向かない場面
組織の停滞感・閉塞感を打ち破りたい 緊急のコンプライアンス違反対応
M&A・統合後の文化融合 役員間の利害調整(構造の問題)
中期ビジョンづくり・理念浸透 個別の人事評価・処遇決定
エンゲージメントサーベイの下がり対策 単発イベント(フォロー設計なし)

とくに注意したいのは、AIは「ポジティブに語り合えば組織が変わる」魔法ではないということです。Discoveryで得たポジティブ・コアをDesign/Destinyまでつなぎ、制度や日常の行動に落とし込む設計がなければ、実施後の熱量がすぐに冷めてしまいます。

まとめ

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)は、組織や個人の「強み/うまくいっている部分」に光を当てる対話型組織開発の代表的手法です。ポジティブ・コアを発見し、4Dサイクル(Discovery → Dream → Design → Destiny)を回すことで、問題解決型とは異なるエネルギーで組織変革を進めることができます。エンゲージメント・心理的安全性・理念浸透といった2026年以降も続く経営テーマにおいて、AIのような「強みから未来を描くアプローチ」は、研修設計の引き出しとして持っておく価値があります。


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