アクティブ・ブック・ダイアログ(ABD)という新しい本の読み方

アクティブ・ブック・ダイアログ(ABD、アクティブブックダイアログとも表記)は、1冊の本をグループで分担して読み、要約・プレゼン・対話までを数時間で一気に行う参加型の読書手法です。分厚い本が積ん読になりがちな方、チームで共通言語を作りたい組織、新入社員や新任管理職の導入研修を設計している研修担当者に特に向いています。本記事ではABDの起源と通常の読書会との違い、6つのステップ、5つのメリット、企業研修での5つの活用シーン、成功させる5つのポイント、よくある質問までをまとめて解説します。
ABDとは?起源と通常の読書会との違い
アクティブ・ブック・ダイアログの起源は、京都にあるNPO法人「場とつながりラボHOME’S VI」の正会員である竹ノ内壮太郎氏によって開発されました。その後、同法人の代表理事である嘉村賢州氏らの活動を通じて、企業研修やコミュニティ学習の現場に広がってきた手法です。
従来の読書会では、各参加者が事前に本を読んできて当日に感想を共有するのが一般的でした。このやり方は「読まずに参加する人が出る」「読書のスピード差で議論が噛み合わない」といった課題が起こりがちです。これに対してABDは、当日その場で本を物理的に裁断し、ページを分担することで「全員が必ず担当ページを読む」状態を強制的に作るのが特徴です。結果として、全員が同じ熱量で参加でき、読書+要約+プレゼン+対話のサイクルが1日のうちに成立します。
ABDの6ステップ完全ガイド
ABDの基本手順は6ステップで構成されています。各ステップを順に解説します。
ステップ1: 本を裁断する
最初のプロセスは本を物理的に裁断することです。最初は「せっかく買った本を切ってしまうなんて」ともったいなさを感じますが、実際に行うと参加者の表情が変わり、どこか爽快な空気が生まれます。裁断にあたっては、背表紙の糊を切る位置、章の区切りを意識したページの分け方、クリップでまとめて配布する準備の3つがポイントになります。

この裁断作業は、ABDの「全員が分担して読む」前提を物理的に成立させる重要なステップです。参加者にとっては「本は大切に1冊を通読するもの」という既成概念を壊す体験にもなり、ここから後のセッション全体の空気が作られます。
ステップ2: 担当ページを割り振る
裁断したページを章ごと、あるいはページ数に大きなばらつきが出ないように分担し、参加者に割り振ります。この時、自分が興味のある章を選んでもらう方式にすると参加者のモチベーションが上がります。
割り振りの際は、ページ数を事前に書き込んでおき、読書スピードが遅めの参加者に分厚いパートが偏らないよう配慮することも大切です。ファシリテーターは「このパートは少し軽めです」「こちらは数字が多めです」など、難易度の情報を添えながら割り振ると、参加者の心理的負荷が下がります。
ステップ3: 各自で担当ページを読む
担当ページが決まったら、各自が集中して読み込みます。時間の目安は担当ページ量にもよりますが、1人あたり30〜60分程度を確保するケースが多いです。この段階で重要なのは、次の要約ステップを意識しながら読むことです。「要約しなければならない」という制約が、普段の読書では働かない集中力を引き出すのがABDの面白さの一つです。
ステップ4: B5数枚で要約する
自分が担当したページをB5用紙4〜6枚程度で要約します。ここで言う要約とは、原文を短くするコピーではなく、自分の言葉で重要ポイントを再構成することです。要約を作ろうとすると、読んでいる最中から「ここは要る」「ここは捨てる」という判断が走り、集中度が一段上がります。

要約のコツは、1枚1論点を原則にする、図や矢印を積極的に使う、著者の主張と具体例を分けて書くの3つです。文章でびっしり埋めるよりも、後のプレゼンで話しやすいレイアウトを意識すると、続くステップが格段に楽になります。
ステップ5: リレープレゼンする
全員の要約が壁に張り出されたら、自分のパートの要約を使って1人3分程度のリレープレゼンを行います。リレープレゼンとは、本の冒頭パート担当者から順に発表者が変わっていく進め方を指します。

リレープレゼンによって、参加者は自分のパートを他のメンバーにわかりやすく伝えるプレゼンテーションの練習になると同時に、他の参加者のプレゼンから「自分が読んでいない部分の内容」をその場で吸収できます。本全体を通して聞き終わった時、参加者の頭のなかには自分が読んだパートと他者から受け取ったパートが接続された状態で、1冊分の理解が立ち上がります。
ステップ6: 全員で対話する
全員のリレープレゼンが終了したら、参加者全員で疑問や感想について話し合う対話の時間に移ります。この対話は単なる感想の発表会ではなく、「この本の主張を自分たちの仕事にどう活かすか」を掘り下げる問いを中心に設計するとABDの効果が一段上がります。
対話のプロセスがあることで、本への理解が深まるだけでなく、自分だけでは思いつかない解釈や、他者からのフィードバックを得られるのが大きなメリットです。ファシリテーターは問いを用意しておき、話題が発散しすぎないよう舵取りする役割を担います。対話の設計に不安がある方は イノベーションを生む対話の4つの要素 も参考になります。
ABDの5つのメリット
ABDを実際に運用すると、次の5つのメリットが実感できます。それぞれ具体例とともに解説します。
メリット1: 分厚い本が短時間で読める
最大のメリットは、これまで手が出せなかった分厚い本を短時間で読破できることです。実際にハートクエイクで実施したセッションでは、8人で1日3冊を読破し、そのなかには『LIFE SHIFT』のような400ページを超える書籍も含まれていました。「読みたいけれど手が出せない」といういわゆる積ん読状態の本は、8人で分担すれば1人あたり約50ページで済みます。結果として、リレープレゼンと対話の時間を含めても3時間程度で1冊を読み終えることができました。
メリット2: 参加者同士に共通言語が生まれる
同じ本を同じ時間で読むため、参加者の間に共通言語が生まれます。たとえば内定者研修、新入社員研修、新任管理職研修で活用すると、前提知識や認識を一気に揃えられます。「先週読んだ『ティール組織』で言っていたあの概念」という短い呼び出しで議論が進むようになり、以降のチーム活動が軽くなります。
メリット3: 要約する能力が身につく
担当ページをB5数枚にまとめる作業を通じて、要約力が鍛えられます。要約力はビジネス文書、議事録、プレゼン資料、上司への報告、あらゆる場面で求められるスキルです。ABDでは要約を強制されることで、普段の読書では流してしまう情報を意識的に取捨選択する訓練になります。
メリット4: プレゼンの練習になる
1人3分という制約のなかでリレープレゼンを行うため、プレゼンテーションの練習にもなります。1日で3冊読めたセッションであれば、1人が最低3回はプレゼンを経験したことになります。また、他の参加者のプレゼンを聞いて「この伝え方は分かりやすい」「この構成は自分も真似したい」と学び、自分の中でPDCAサイクルを回せるのも大きな価値です。
メリット5: インプット・アウトプット・フィードバックが一度に得られる
ABD全体を通して一番の特徴は、読書というインプット、要約とプレゼンというアウトプット、対話によるフィードバックが1回のセッションで成立することです。通常の研修では「読ませる」「書かせる」「議論させる」をそれぞれ別の時間で設計しますが、ABDはこれらを密結合させているため、学習効果の歩留まりが高くなります。
ABDを企業研修で活用する5つのシーン
ABDは教育コミュニティや個人の学びの場だけでなく、企業研修の現場でも有効な手法です。ハートクエイクがおすすめする活用シーンを5つ紹介します。
活用1: 内定者・新入社員の導入研修
入社前後のメンバー向けに、自社で「課題図書」としている本をABDで読む方式です。長時間の講義よりも、自分で読み、要約し、仲間に伝えた体験のほうが記憶に残ります。加えて、内定者同士の関係構築も同時に進むため、エンゲージメントの高い導入になります。
活用2: 新任管理職・リーダー研修
リーダーシップ論やマネジメント書籍は分厚いものが多く、忙しい管理職ほど読み切れないジレンマがあります。ABDで1冊を3時間程度にまとめれば、マネージャー陣が同じ理論を同時にインストールでき、その後の会議で共通語彙として使えるようになります。
活用3: 部署横断プロジェクトのキックオフ
部署横断の新規プロジェクトを立ち上げる際に、プロジェクト関連テーマの本をABDで読むと、メンバー間の認識差を一気に縮められます。「デザイン思考」「アジャイル」「顧客体験」など、前提の揃っていないメンバーが同じ言葉で会話できるようになるのが強みです。
活用4: 組織内の読書文化醸成
月1回など定例でABDを開催することで、組織内に読書文化を醸成できます。個人の自主学習に任せるよりも、「その日の3時間は全員で読む」と時間を固定したほうが、学習習慣が定着しやすくなります。
活用5: 経営層・役員合宿
経営合宿でABDを1セッション組み込むと、役員メンバーの戦略議論に共通の土台が作れます。合宿前に課題図書を配って「各自読んできてください」と伝えても、忙しい役員層は読み切れないことが多いため、合宿の場で一気に読んでしまう運営が有効です。
ABDを成功させる5つのポイント
ABDは手順通りに進めれば成立しますが、研修効果を最大化するにはいくつかのコツがあります。現場で手応えを得られる5つのポイントを紹介します。
ポイント1: 本の選び方
ABDに向くのは主張と構成が明快な本です。章立てがはっきりしていて、各章で独立した論点が立っている本ほど分担しやすくなります。逆に、物語やストーリーが連続している小説、論点が全編に散らばっている本、図版が多すぎて紙面のコピーが難しい本は不向きです。
ポイント2: 参加人数の設計
参加人数を決める最も実用的な指標は、1人あたりの担当ページ数を10〜15ページに収めることです。少なすぎると要約するだけの情報量が確保できず、多すぎると読書時間内に読み切れません。この指標で逆算すると、一般的なビジネス書1冊であれば10〜30名程度が適正範囲の目安になります。
ポイント3: 時間配分
目安は、裁断と割り振りに20分、読書60分、要約30分、リレープレゼン30〜50分(3分×人数)、対話40分で合計3〜3.5時間です。本の厚みに合わせて読書時間を、参加人数に合わせてリレープレゼン時間を伸縮させます。初めてのABDでは、慣れた人の想定より読書時間を10〜15分多めに取っておくと安全です。
ポイント4: ファシリテーター役の準備
ABDはファシリテーターの事前準備が成否を分けます。本を事前に通読しておく必要はありませんが、章立ての確認、対話フェーズの問いの用意、時間管理の段取りは必須です。ファシリテーションの基本を固めたい方は グループワークが盛り上がる面白いアイデア・工夫9選|研修ファシリテーションのコツ も参考になります。
ポイント5: 対話の後に行動計画まで落とす
対話で満足して解散するだけでは、学びが行動に結びつきません。対話の最後に「この本を読んで、明日から自分の仕事をどう変えるか」を各自が宣言する時間を5分程度組み込むと、ABDの効果が実務に繋がります。ワールドカフェ形式と組み合わせる場合は 社内でのワールドカフェのやり方(準備編) も参考にしてください。
アクティブ・ブック・ダイアログに関するよくある質問
Q1. オンラインでもABDは実施できますか?
実施可能です。物理的な裁断の代わりに、電子書籍のページ範囲を分担する、または紙の本をスキャンしてPDFで共有する方式が使われます。要約はGoogleスライドやMiroなどの共同編集ツールで作り、リレープレゼンはZoomなどのオンライン会議ツールで行うのが一般的です。ただし、裁断という物理的な儀式が持つ「空気を変える効果」は得にくくなるため、対面とオンラインでは体験の質が少し異なります。
Q2. 1回のABDで何冊くらい読めますか?
参加人数、本の厚さ、参加者の読書速度によりますが、1日8時間の合宿形式で2〜3冊、3時間セッションで1冊が現実的な目安です。1日で3冊を読んだ実例もありますが、対話の深さを確保するなら欲張らず1〜2冊に絞る運用がおすすめです。
Q3. 裁断した本はどうすればよいですか?
セッション後の扱いは主催者の判断に委ねられます。参加者にページ単位で持ち帰ってもらう、コピーを取って配布する、1冊分として残す場合はクリップでまとめて保管するなどのパターンがあります。図書館や他人から借りた本は絶対にABDで使わないこと、また著作権の観点から、配布物として大量に複製しないことには留意してください。
アクティブ・ブック・ダイアログの公式サイト
最後に、アクティブ・ブック・ダイアログの公式サイトを紹介します。ABDの理念や運用のヒントを一次情報で確認したい方はこちらも合わせてご覧ください。
