以前に「人狼はコミュニケーション研修に使えるのか?」という記事で、人狼ゲームを大学生研修に用いた結果、社会的スキルの向上が見られたという研究結果を紹介しました。

本記事では、その研究で用いられた社会的スキル測定尺度「KiSS-18(Kikuchi’s Scale of Social Skills / 菊池章夫 1988)」の全体像と、人事・教育担当者が新入社員研修や内定者研修で使う際のポイントを解説します。18項目の質問内容・採点方法・6つのサブカテゴリーに加え、ビジネス・教育現場での具体的な活用アイデアと、社会的スキルを伸ばす体験型研修ゲームまで一気通貫でまとめました。

KiSS-18とは何か

KiSS-18は、早稲田大学の菊池章夫氏が1988年に著書『思いやりを科学する』(川島書店)で発表した18項目からなる社会的スキル測定尺度です。正式名称は Kikuchi’s Scale of Social Skills 18 で、頭文字をとって KiSS-18 と呼ばれます。

ここでいう「社会的スキル (social skills)」とは、対人関係を円滑に進めるために必要な言動のレパートリーのことを指します。具体的には、会話の開始・維持、感情表現、意見の伝達、葛藤の調整、謝罪、目標設定などが含まれます。

KiSS-18は日本国内で広く利用されており、心理学・教育学・看護学・人材開発などの分野で社会的スキルを測定する際の標準的な尺度の一つです。信頼性・妥当性の検証論文も多数公開されており、学術研究から企業研修の効果測定まで活用されています。

KiSS-18の18項目

KiSS-18の質問項目は以下の通りです。

1. 他人と話していて、あまり会話が途切れないほうですか。
2. 他人にやってもらいたいことを、うまく指示することができますか。
3. 他人を助けることを、上手にやれますか。
4. 相手が怒っているときに、うまくなだめることができますか。
5. 知らない人でも、すぐに会話が始められますか。
6. まわりの人たちとの間でトラブルが起きても、それを上手に処理できますか。
7. こわさや恐ろしさを感じたときに、それをうまく処理できますか。
8. 気まずいことがあった相手と、上手に和解できますか。
9. 仕事をするときに、何をどうやったらよいか決められますか。
10. 他人が話しているところに、気軽に参加できますか。
11. 相手から非難されたときにも、それをうまく片付けることができますか。
12. 仕事の上で、どこに問題があるかすぐに見つけることができますか。
13. 自分の感情や気持ちを、素直に表現できますか。
14. あちこちから矛盾した話が伝わってきても、うまく処理できますか。
15. 初対面の人に自己紹介が上手にできますか。
16. 何か失敗したときに、すぐに謝ることができますか。
17. 周りの人たちが自分とは違った考えをもっていても、うまくやっていけますか。
18. 仕事の目標を立てるのに、あまり困難を感じないほうですか。

引用: KiSS-18 研究ノート 菊池章夫 2004
https://ci.nii.ac.jp/naid/110004677435

各項目は会話・対人調整・感情処理・目標設定など、日常の業務コミュニケーションに直結する内容になっています。

採点方法と解釈の目安

KiSS-18は、回答者自身が18項目それぞれに対して、以下の5段階のうち自分に最も合致する選択肢を選ぶ自己評定式です。

「いつもそうだ」   = 5
「たいていそうだ」  = 4
「どちらでもない」  = 3
「たいていそうでない」= 2
「いつもそうでない」 = 1

全18項目の合計点は18〜90点の範囲を取ります。先行研究では、次の目安で分類されることがあります。

・得点が54点以下: 下位25%の「低社会的スキル群」
・得点が63点以上: 上位75%の「高社会的スキル群」

参考: 社会的スキルと学業パフォーマンスとの関連性 内藤誼人 2013
http://repository.ris.ac.jp/dspace/bitstream/11266/5228/1/shinrikenkiyo_011_063.pdf

ただしカットオフ値は対象集団(大学生・社会人・年代など)によって異なるため、絶対的な基準ではなく集団内での相対的な位置づけと、研修前後の変化量を見るための目安として使うのが実務的です。

KiSS-18の6つのサブカテゴリー

KiSS-18の18項目は、菊池 (1988) により以下の6つのサブカテゴリーに分類されています。

1. 初歩的スキル — 会話を始めたり、質問したり、自己紹介したりするなど
対応項目: Q1, Q5, Q15

2. 高度なスキル — 人に助けを求めたり、指示を与えたり謝ったりするなど
対応項目: Q2, Q10, Q16

3. 感情処理のスキル — 自分の感情に気づき、それを表現したり、恐れを処理するなど
対応項目: Q4, Q7, Q13

4. 攻撃に代わるスキル — 他人を助けたり、和解したり、自分をコントロールするなど
対応項目: Q3, Q6, Q8

5. ストレスを処理するスキル — 難しい会話に応じたり、失敗を処理したり、非難を処理したりするなど
対応項目: Q11, Q14, Q17

6. 計画のスキル — 目標を設定したり、自分の能力を知ったり、決定を下すなど
対応項目: Q9, Q12, Q18

出典: 菊池章夫 1988『思いやりを科学する』川島書店

この6分類は、どのスキル領域が強く・どこに課題があるかをセクションごとに可視化できる点で便利です。総得点だけでなく、サブカテゴリーごとのレーダーチャートとして研修レポートに使うと、個人の強み・弱みが一目で分かります。

ビジネス・教育現場でのKiSS-18活用

KiSS-18は質問数18項目と短く、所要時間5〜10分程度で実施できるため、研修の事前・事後アセスメントとして導入しやすいのが実務的な利点です。

新入社員研修では、入社直後と3ヶ月後の2回実施して変化量を見るパターンが一般的です。内定者研修では、内定式時と入社直前の2回で、集合研修の効果測定に使えます。若手社員の昇格・異動前研修でも、自己理解ツールとして機能します。

教育現場では、学部新入生のキャリア教育プログラム前後での計測や、ゼミ・サークル活動の効果検証に使われます。看護・医療教育では、実習前後の対人スキル変化を可視化する目的で頻繁に登場します。

実施時のポイントは3つです。第一に、結果を個人に開示する運用を決めておくこと。点数が低いことを叱責の材料にすると回答が歪むので、あくまで自己理解と成長のためのデータとして扱う旨を事前に伝えます。第二に、サブカテゴリー別に結果をフィードバックすること。総得点だけでは行動変容につながりません。第三に、事前・事後の2時点で測定し、変化量を個人・集団の両面で追うこと。絶対値よりも変化の方向が学びの実感を生みます。

社会的スキルを高めるアプローチ

KiSS-18のスコアは生まれつきの気質ではなく、適切な介入(研修・実践・フィードバック)によって向上させられることが先行研究で示されています。

代表的な介入アプローチは次の3つです。

ロールプレイによる行動レパートリー拡張

「指示を出す」「謝る」「和解する」などの場面をロールプレイで繰り返すことで、行動レパートリーが増えます。KiSS-18のサブカテゴリーごとに課題場面を設計すると、効率的に弱点領域を鍛えられます。

グループワークによる対人調整の経験

数人のチームで共通課題に取り組む中で、意見調整・役割分担・葛藤処理の経験を積みます。ワーク後の振り返りで「うまく伝えられた瞬間」「対立に直面したとき何をしたか」を言語化すると、社会的スキルの自己認識が深まります。

ビジネスゲームによる疑似体験

意思決定・交渉・情報共有などの課題が内在化されたビジネスゲームは、短時間で複数の対人場面を凝縮して体験できるため、社会的スキル育成の有力な手段です。人狼ゲームをはじめとする対話型ゲームは、感情処理・ストレス処理・高度なスキル(交渉・謝罪)を同時に要求するため、KiSS-18の複数サブカテゴリーを一度に刺激できます。

社会的スキルを育てる体験型研修ゲーム

株式会社HEART QUAKEでは、社会的スキル向上に資する研修ゲームを多数提供しています。KiSS-18の観点で相性の良い2本をご紹介します。

人狼取締役会

人狼取締役会

人狼取締役会は、企業研修向けにカスタマイズされた人狼ゲームです。取締役会という設定のもと、限られた情報から真偽を推理し、発言・質問・沈黙を使い分けて仲間を見つけ出す協働型の対話ゲームです。

KiSS-18のサブカテゴリーで言えば、「感情処理のスキル」「高度なスキル(質問・指示)」「ストレス処理のスキル」が強く要求されます。特に、疑われたときや非難されたときの冷静な応答力は、ストレス処理スキル(Q11/Q14/Q17)の実戦的なトレーニングになります。

スペック
推奨人数: 4〜100名
所要時間: 1〜3時間
形式: カード版(対面)・Web会議にも対応可
料金: レンタル5万円〜/講師派遣15万円〜

詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
人狼取締役会紹介ページ

ベストチーム

ベストチーム

ベストチームは、タックマンモデル(チーム形成の4段階)を疑似体験できるチームビルディングゲームです。メンバーそれぞれに異なる役割・情報が配られ、話し合いを重ねながらチームの意思決定を進めます。

KiSS-18の観点では、「初歩的スキル(会話・自己紹介)」「高度なスキル(指示・謝罪)」「計画のスキル(目標設定・決定)」を幅広くカバーします。チーム形成の混乱期を通じて、意見の衝突や役割の譲り合いが自然に発生するため、対人調整スキルの実践機会として優れています。

ベストチーム(カード版) 導入社数・満足度グラフ

2026年4月現在、ベストチーム(カード版)の導入社数は約180社、受講者満足度は4.91(5点満点)となっております。

ゲームを通して、チーム内での自身の役割が、普段の業務や仕事のスタンス・やり方とつながる点が見られるため、改めて自身の仕事の仕方における「強み」や「弱み」といった気付きが得られたと思います。内省を深める機会に繋がっていてほしいと思っています。

スペック
推奨人数: 15〜100名
所要時間: 2〜4時間
形式: カード版(対面)・Web会議対応
料金: レンタル4万円〜/講師派遣15万円〜

詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
ベストチーム紹介ページ

よくある質問(FAQ)

Q1. KiSS-18は自由に利用できますか?

A. 研究・教育目的での利用は、適切な出典明記(菊池章夫 1988)のうえで広く行われています。商用利用や大規模配布を行う場合は、出版社(川島書店)や原著者への確認を推奨します。

Q2. 対象年齢や属性に制限はありますか?

A. 元々は大学生を対象に開発された尺度ですが、社会人・中高年層でも広く使われています。ただし質問文に「仕事」という語が含まれるため、就業経験のない中学生以下には文言調整が必要です。

Q3. KiSS-18以外の類似尺度は?

A. 代表的な類似尺度として、ENDCOREs (小塩ら 2004)、大学生用社会的スキル尺度 (相川・藤田 2005) などがあります。それぞれ測定範囲や項目数が異なるため、研修目的に応じて選択してください。

Q4. 研修前後で変化が出ない場合、どう解釈すべきですか?

A. 2時点の差だけで判断せず、サブカテゴリー別の内訳・受講者の自己記述コメント・上司評価と組み合わせて多角的に見ます。1回の研修で全領域が伸びることは稀で、特定サブカテゴリーに絞って変化を追うのが実務的です。

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その他、実施時期や受講人数など(300文字以内)

まとめ

本記事では、社会的スキル測定尺度KiSS-18の全体像と、ビジネス・教育現場での実践的な使い方を解説しました。

要点は次の3つです。第一に、KiSS-18は18項目・5段階評定・6サブカテゴリーという軽量な構造でありながら、社会的スキルを多面的に可視化できる標準尺度であること。第二に、絶対得点よりも研修前後の変化量・サブカテゴリー別の内訳を見る使い方が実務的であること。第三に、社会的スキルはロールプレイ・グループワーク・ビジネスゲームなどの介入で向上させられ、介入効果の測定ツールとしてKiSS-18が有効であること。

内定者研修・新入社員研修・若手研修で社会的スキル育成に取り組む際は、KiSS-18を事前・事後アセスメントとして組み込み、体験型研修と組み合わせることで、学びを定量・定性の両面から実感できる研修設計が可能になります。


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