信頼を高めるための「トラストフォール」のやり方

企業研修では身体的リスクの低い「2人ペア型」が推奨され、1ペアあたり5分、全体で20〜30分程度で実施可能。8ステップの手順で、最初は10〜20cmから距離を伸ばします。
ただし、初対面同士では不信感を招くため、5〜10分のアイスブレイクで下地作りが必須です。
目次
1. トラストフォールとは
2. トラストフォールの2つのバリエーション
3. 2人ペア型トラストフォールのやり方
4. 実施前に必要なアイスブレイクと下地作り
5. トラストフォールの効果エビデンス
6. 実施時のリスクと注意点
7. 採用すべきか?判断チェックリスト
8. トラストフォールの代替アクティビティ
9. よくある質問
10. まとめ
チームビルディング研修で「信頼関係を体感で学ぶ」代表的なアクティビティがトラストフォール(Trust Fall)です。名前の通り、1人が目を閉じて後ろに倒れ、もう1人がそれを受け止める——ただそれだけのシンプルなワークですが、研修現場では「本当にやって大丈夫なのか」「どう導入すればいいのか」で迷う担当者が少なくありません。
この記事では、2人ペア型トラストフォールの具体的なやり方に加えて、効果エビデンス・実施リスク・採用判断チェックリスト・代替アクティビティまでを整理します。ワーク単体の解説ではなく、「自社の研修に入れるべきか」を判断するための実践ガイドとして使ってください。
トラストフォールとは
トラストフォールは、1960〜70年代のアメリカで体験学習の文脈から広まった信頼関係を体感で学ぶチームビルディングのアクティビティです。日本では新入社員研修や合宿型のチームビルディング、部活動の結束強化などで実施されてきました。
ワークの目的は大きく2つあります。1つ目は「相手を信じて身を委ねる」感覚を体験すること。頭で「仲間を信頼する」と考えるのと、実際に体を預ける体験をするのでは、内省の深さがまったく違います。2つ目は「受け止める側の責任感」を引き出すこと。「自分がここで手を離したら相手が倒れる」という緊張感が、通常のグループワークでは得にくい当事者意識を生みます。
トラストフォールの2つのバリエーション
トラストフォールには実施方法に複数のバリエーションがあります。大きく分けると2種類です。
高所型(複数人で受け止めるタイプ)
台やテーブルなど高さ1m程度の場所から、1人が後ろに倒れ、複数人で作った「キャッチャーライン」(両手を組んでレール状にする)で受け止めます。海外のアクティビティ研修でよく見る形式で、映像として印象的ですが、身体的リスクが高く企業研修での実施は推奨しません。打ち所が悪ければ骨折・打撲・頭部外傷につながる可能性があり、保険や安全管理の観点でも負担が大きすぎます。
2人ペア型(肩を支えるタイプ)
立ったままの姿勢で、倒れる側がまっすぐ後ろに傾き、後方に立った受け手が両手で肩を支えるタイプです。身体が床まで落ちる距離が短く、受け手が一対一で責任を持つので、企業研修やチームビルディング・アクティビティとしては2人ペア型が現実的な選択肢になります。この記事ではこちらを前提に手順を解説します。

2人ペア型トラストフォールのやり方
具体的な手順を8ステップに分けて整理します。所要時間は1ペアあたり5分程度、ファシリテーションを含めると全体で20〜30分が目安です。
2. どちらが倒れる役・どちらが受ける役かを決める
3. 倒れる役は両足を揃えてまっすぐ立ち、両腕を胸の前で組む(または体側に自然に下ろす)
4. 受ける役は倒れる役の真後ろに立ち、片足を前に出して踏ん張れる姿勢を作る。両腕を前に出し、倒れる役の肩を支えられる位置で構える
5. 倒れる役が「準備はいいですか?」と声をかけ、受ける役が「準備OKです」と答える
6. 倒れる役の合図で、体全体を一本の棒のようにまっすぐ後ろに倒す(膝や腰を曲げない)
7. 受ける役は倒れる役の肩をしっかり受け止め、ゆっくり元の位置まで押し戻す
8. 役割を交代してもう一度実施。最初は受ける役のすぐ後ろ、次第に距離を伸ばす
倒れる距離は最初は10〜20cm程度から始めて、慣れてきたら徐々に距離を伸ばします。いきなり最大距離で始めると失敗時のリスクが高く、成功体験も生まれにくいので段階的な設計が重要です。
実施前に必要なアイスブレイクと下地作り
トラストフォールをいきなり実施するのは絶対に避けてください。初対面や関係性の薄い相手に身を預けるのは、それ自体が強いストレス反応を引き起こし、かえってチームへの不信感を強めることがあります。
ペアを作ったあとは、5〜10分程度の自己紹介系アイスブレイクを挟み、お互いの名前・所属・雑談レベルの共通点を把握してからワークに入るのが基本です。アイスブレイクの引き出しがない場合は、以下の記事にまとまっているので参考にしてください。
アイスブレイクで使えるゲーム12選|30分でできる研修向けアクティビティ【比較表つき】
トラストフォールの効果エビデンス
トラストフォール単体の効果を直接検証した査読論文は国内にはほぼ存在しませんが、トラストフォールを含む構成的グループ・エンカウンター(合宿・自発参加型)の効果について、同志社大学の水野邦夫ら(2013)が報告しています。
水野邦夫、嶋原栄子、田積 徹、新美秀和、興津真理子
論文リンク(同志社大学リポジトリ)

この研究では、トラストフォールを含む4日間のエンカウンター合宿を通じて、他者への信頼感や自己理解に関する指標に有意な変化が見られたと報告されています。注意したいのは、これが4日間の連続セッション全体の効果であり、トラストフォール単体に同等の効果があることを示すものではない点です。研修設計上、トラストフォールは「体験学習サイクル全体の一部」として位置づけるのが妥当で、単発での効果を過度に期待するのは避けるべきです。
実施時のリスクと注意点
トラストフォールは身体接触を伴うアクティビティのため、実施前に確認しておくべき注意点がいくつかあります。
身体的リスク: 倒れる役が体幹を意識せずに腰や膝を曲げると、受け手の支えが不十分になり転倒する可能性があります。腰痛・頸椎疾患・めまいなどの既往がある参加者には事前に申告してもらい、無理せず見学に切り替えられる選択肢を最初に提示してください。
体格差のリスク: 受け手と倒れる役の体格差が大きすぎると、支えきれない場合があります。組み合わせを決める際は、体格が近い人同士でペアを作る配慮が必要です。
心理的リスク: 「信頼できない相手に身を預けろと言われる」ことは、参加者によっては強いハラスメントに感じられる場合があります。特に過去に転倒事故の経験がある・身体接触に強い抵抗感がある・チーム内の心理的安全性が低い場面では実施を見送る判断が必要です。
強制参加にしない: 参加を「任意」にするだけでなく、見学を選んでも不利益がないことを冒頭で明言してください。「全員で体感しよう」と煽る演出は、本来のワーク意義と逆行します。
採用すべきか?判断チェックリスト
トラストフォールは強力な体験学習ですが、すべての研修に向いているわけではありません。以下の条件をすべて満たす場合に採用を検討してください。
第一に、参加者同士が既に最低限の関係性を持っているか。初対面のメンバーばかりの新卒集合研修の初日にいきなり入れるのは避け、2日目以降・部活やプロジェクトで数週間以上関わったメンバー同士で実施してください。
第二に、ファシリテーターが身体的なリスク管理に精通しているか。ワークの目的を理解していても、安全管理の経験がない講師だと事故時の対応が遅れます。外部講師に依頼する場合は、実施経験の有無を必ず確認しましょう。
第三に、実施後に体験を言語化する振り返りセッションを15〜20分確保できるか。やりっぱなしでは「信頼とは」のテーマが抽象的なまま消えます。倒れた側の感情・受け止めた側の責任感をペアで共有する時間が必須です。
上記のどれかが満たせない場合は、次のセクションで紹介する代替アクティビティを検討してください。
トラストフォールの代替アクティビティ
身体的リスクが気になる場合や、初対面チームで信頼構築ワークを入れたい場合は、以下の代替アクティビティを検討してください。いずれも怪我のリスクが少なく、研修設計に組み込みやすいものです。
マシュマロチャレンジ: パスタとマシュマロで自立するタワーを作る有名ワーク。協力・役割分担・試行錯誤を通じて信頼関係が自然に育ちます。

NASAゲーム(コンセンサスゲーム): 月面遭難という状況設定のもと、限られたアイテムの優先順位をグループで合意形成するワーク。議論を通じた相互理解で信頼感が高まります。

ブラインドドローイング: 1人が目隠しをし、もう1人の言葉だけを頼りに絵を描くワーク。言語によるコミュニケーションだけで相手を信じる練習になります。
チームビルディング向けの具体的なゲーム選択肢を幅広く知りたい場合は、以下の記事が参考になります。
チームビルディング研修におすすめのゲーム15選|目的別の選び方と導入事例
また、信頼関係そのものの研究知見については以下の記事で詳しく扱っています。
上司と部下の信頼関係|研究が示す信頼される要素の違いと相互信頼の育て方
よくある質問
Q. 所要時間はどのくらいですか?
アイスブレイク10分+ワーク本体15分+振り返り15分で、合計40〜45分が目安です。参加人数が多い場合はペア数に応じて時間を伸ばしてください。
Q. 何人から実施できますか?
最小2人、つまり1ペアから実施可能です。上限は特にありませんが、ファシリテーター1人で安全管理できるのは10ペア(20人)程度までが目安です。それ以上の場合はサブファシリテーターを増員してください。
Q. オンライン研修でも実施できますか?
トラストフォールは身体接触を前提とするため、オンラインでは実施できません。オンライン環境で「信頼」をテーマにするなら、ブラインドドローイングやNASAゲームなどの言語ベースのワークに置き換えるのが現実的です。
Q. 中学生・高校生でも実施できますか?
可能ですが、ふざけて手を離すリスクが上がるため、事前ルール説明と教員・指導者の監督下での実施が必須です。学校現場ではトラストフォールより安全性の高い代替アクティビティが推奨される傾向にあります。
Q. 企業研修で取り入れるときの法的なリスクはありますか?
研修中の事故は業務災害として扱われる可能性があります。社外で実施する場合の傷害保険・賠償責任保険の加入、および参加同意書の取得は、リスク管理の基本として準備しておくのが無難です。
まとめ
トラストフォールは「信頼を体感する」強力なアクティビティですが、実施には身体的・心理的リスクがあり、すべての研修に適しているわけではありません。本記事で紹介した判断チェックリスト(関係性の下地・ファシリテーターの経験・振り返り時間)をクリアできる場面で採用すれば、記憶に残る体験学習になります。
逆に条件が揃わない場合は、無理にトラストフォールにこだわらず、マシュマロチャレンジやNASAゲームといった代替アクティビティで「信頼」のテーマを扱うほうが安全で効果も安定します。研修の目的と参加者の状態に合わせて、最適な選択をしてください。
研修転移(研修での学びを実際の職場行動に移す設計)や、アクティビティ単発ではなく研修全体を設計する視点については、以下の書籍が参考になります。
