ポジティブ心理学のPERMAと組織開発
ここ数年、ウェルビーイング経営や従業員エンゲージメントという言葉を経営アジェンダで耳にすることが増えました。2025年現在は、健康経営・人的資本開示といった流れもあり、「社員の幸福度と組織の繁栄をどう両立させるか」が経営の現実的な関心事となっています。
本記事では、その理論的土台となるポジティブ心理学のPERMAモデルを紹介し、それを組織開発に落とし込むときの視点を整理します。
ポジティブ心理学とは
ポジティブ心理学は、米国の心理学者マーティン・セリグマン教授が1998年に提唱した、比較的新しい心理学の分野です。「なんとなく怪しそう」と感じた方もいるかもしれませんが、次のように定義されています。
(Wikipedia)
従来の心理学が「病気を治す」ことに重きを置いていたのに対し、ポジティブ心理学は「健康な人がさらに良い人生を送るための条件」を科学的に研究してきました。セリグマン教授のTED講演も参考になります。
ウェルビーイングの5要素「PERMA」
ポジティブ心理学では、ウェルビーイング(心身および社会的に良好な状態)を構成する5つの要素としてPERMAを提示しています。

| 要素 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| P | Positive Emotion | ポジティブ感情を感じている |
| E | Engagement | 活動への没頭・フロー状態 |
| R | Relationship | 他者とのつながり・良い関係性 |
| M | Meaning and Purpose | 意味・目的のある人生 |
| A | Achievement | 何かを成し遂げた感覚 |
5つがバランスよく満たされると、人はより長く持続する幸福感を感じやすいというのが、ポジティブ心理学の重要な発見です。
PERMAと組織開発|職場でPERMAをどう設計するか
ポジティブ心理学は個人のウェルビーイングだけでなく組織の繁栄も射程に入れています。各要素を”仕事・職場”の文脈に引きつけて整理します。
| 要素 | 職場で高めるには | 具体的な打ち手 |
|---|---|---|
| Positive Emotion | ネガティブ感情への組織的コーピング | サンクスカード/週次の感謝共有/小さな成果の可視化 |
| Engagement | 雑務を削り、集中できる環境を整える | 雑務の外部化/集中タイムのルール化/権限委譲 |
| Relationship | 心理的安全性を土台に関係性を育てる | 1on1/チームビルディング研修/相互理解ワーク |
| Meaning and Purpose | 仕事の意味づけとパーパス浸透 | ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)浸透/キャリア対話 |
| Achievement | 短期的な達成体験の積み重ね | OKR/短期明確ゴール+長期ゴールのセット |
P|ポジティブ感情を職場で設計する
ネガティブな出来事を完全に避けることは不可能ですが、その後にポジティブな感情に転換する仕組みは組織として設計できます。
サンクスカードとウェルビーイングの関係
バーンアウトを防ぐ問題焦点型コーピングとポジティブ感情
E|フローを生み出す職場
フロー状態には専念と集中が欠かせません。雑務・雑音に振り回されない環境を用意することが、エンゲージメントの土台になります。
ワークエンゲージメントが社員の健康と業績を向上させる
従業員エンゲージメントとチームの力(HRB 2019年11月号より)
R|関係性は心理的安全性から
職場の関係性の土台は心理的安全性です。その上で、相互理解やアサーティブなコミュニケーションが積み重なることで、良質な関係性が育ちます。
エドモンドソン教授による心理的安全を診断する7つの質問
心理的安全性が無い組織で起きること
M|仕事の意味づけ(パーパス)
自分の仕事が何に繋がっているのかという意味づけは、PERMAの中でも個人差が出やすい要素です。ミッション・ビジョン・バリューの浸透、1on1でのキャリア対話、パーパス経営などが打ち手になります。
働き方改革(働く場所改革)とウェルビーイングの関係性
A|短期と長期の達成感をセットで設計
「年1回の大きな目標」だけでは達成感が薄まります。短期的で達成基準が明確な目標と、積み上げ式の長期的な目標をセットにすることが、継続的な達成感のコツです。OKRの考え方とも親和性が高い部分です。
OKRのやり方〜KRの設定と因果ループ図〜
カードゲームで社員のウェルビーイングを高める方法
PERMAを棚卸しするチェックリスト
自分のチームでPERMAがどれくらい整っているかを、次の質問でセルフチェックしてみてください。
| 要素 | セルフチェック質問 |
|---|---|
| P | チームで1週間に何回”感謝・称賛”のやり取りが起きているか? |
| E | メンバーが”集中して仕事に没入できた日”は週に何日あるか? |
| R | 誰もが安心して本音を言える空気が作れているか? |
| M | 自分の仕事がチーム・会社の目的にどう繋がっているか、メンバーは答えられるか? |
| A | 週次・月次で達成感を感じる小さなゴールがあるか? |
5問のうち「あまりできていない」が2つ以上あれば、そこがチームのウェルビーイングの弱点です。
まとめ
ポジティブ心理学のPERMAは、Positive Emotion/Engagement/Relationship/Meaning/Achievementの5要素でウェルビーイングを捉えるモデルです。
組織開発の文脈では、“社員の幸福度”と”組織の繁栄”を両立させる設計図として活用できます。自分のチームで弱い要素から打ち手を考えるのが、実務での現実的な使い方です。
