「学力の経済学」は社会人に適応できるのか?「ご褒美」の効用
教育経済学者の中室牧子さんの著書 「学力の経済学」を読んでいます。
この本は、基本的に「子供の育て方」、特に学力を上げることにフォーカスして書いてある本ですが、本書の内容が社会人に適応できるのか?という視点でも読んでいました。
この本の面白いところは、教育に対する風説に対して、科学的な根拠に基いて書かれているところでもあります。
例えば、「少人数学級は本当に効果的なのか?」などを実際の実験結果を用いて分析している点です。
このようなエビデンスを用いた分析は、学校教育同様、企業研修も弱い部分ではあります。
子供を「ご褒美」で釣ってはいけないのか?
さて、今回はこの本の第2章に記載されている「子供を「ご褒美」で釣ってはいけないのか?」という部分に注目したいと思います。
本の中でこのような実験について記述があります。(一部、改変)
B:本を1冊読んだらご褒美をあげます
ハーバード大学のフライヤー教授はご褒美の因果関係を明らかにする実験を行いました。
Aはアウトプットに対するご褒美、Bはインプットに対するご褒美となります。
直感的には、アウトプットにご褒美を与えるほうがうまくいきそうに思えます。
しかし、結果は逆でした。
学力テストの結果がよくなったのは、インプットにご褒美を与えられた子どもたちだったのです。
一方で、アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力は、意外にもまったく改善しませんでした。
また、中室氏は別の雑誌でこのように説明しています。
= とても効果的
ご褒美のタイプ:テストで80点取ったら(アウトプット) ✕ タイミング:誕生日にお小遣い
= 効果的
つまり、インプット(またはプロセス)に対しては即時のご褒美(またはフィードバック)が、アウトプットに対しては中長期的なフィードバックが効果的というのです。
社会人における即時フィードバックとは
これは社会人にも適応できるのでしょうか?
さすがに、本を1冊読んだら報奨を出すというのはできないでしょうが、仕事のアウトプットではなく、プロセスに対して、報奨を含めたフィードバックを与えるということは検討の余地がありそうです。
企業では、仕事の成果(アウトプット)に対しては「評価」の中で給与が上がったり、昇進したりと、半年や1年に1回の中長期的なご褒美(フィードバック)は用意されています。
しかし、プロセスに対する即時フィードバックに関しては、うまく設計されていない企業が多いのではないでしょうか?
ポケモンGOをはじめ、ソーシャルゲームがこれだけ普及するのには、即時フィードバックの仕組みがうまく取り入れてられているのかもしれません。
現在、部下を「上手に褒める」ための研修なども多く行われていますが、これは1つの即時フィードバックのやり方と言えるでしょう。
未来工業に学ぶご褒美のやり方
未来工業という企業をご存知でしょうか。この企業の山田相談役の著書を読んだことがある方はご存知かと思いますが、この企業の制度の1つに即時フィードバックを
うまく取り入れている施策があります。
それは「業務改善の提案」を提出すれば、その中身は問わず、1つにつき500円がもらえる。
詳しくはこちらをご覧ください。
未来工業「反常識」経営でシェア80% ホウ・レン・ソウ禁止で自律促す
ポイントは中身を問わずという部分と、500円という金銭でご褒美がもらえるということです。(支払いは給与に加算)
成果がでるかどうかもわからないアイデア(プロセス)に対して即時フィードバック(出せばもらえる)という設計が行われることによって、毎年多くのアイデアが集まるようです。
また、これが原因かはわかりませんが、業績好調、日本一社員が幸せな会社とされています。
まとめ
今回は、子育てにおけるご褒美の実験から、社会人における、フィードバックの設計について考えてみました。
今回ご紹介した未来工業の例の他にも、サンクスカードなどの導入によって金銭ではない即時フィードバックを実現する方法も考えられます。