イノベーションストリームをコロナ禍の研修会社で考えてみる
2020年のコロナ禍を経て、日本企業の多くが”変化対応”を経営アジェンダの真ん中に据えるようになりました。2025年現在は、生成AI・リモート定着・サプライチェーン再編といった次の大波への対応を迫られる段階に入っています。
こうした環境変化にどう立ち向かうかを考える道具として便利なのが、チャールズ・A・オライリーらの書籍『両利きの組織をつくる』で紹介されているイノベーションストリームです。
イノベーションストリームとは|”イノベーションの地図”
イノベーションストリームは、イノベーションを実現する3つの方向性を、“市場”×”組織能力”の2軸マトリクスで表現したフレームワークです。
画像参照:NewsPicks
NewsPicksの記事ではこれを“イノベーションへの地図”と表現しています。
(引用:NewsPicks)
イノベーションの3つの方向性
| No | 方向性 | 市場 | 組織能力 |
|---|---|---|---|
| ① | 漸進的イノベーション | 新市場 | 既存 |
| ② | アーキテクチュアル・イノベーション | 既存市場 | 新たな能力 |
| ③ | 不連続型イノベーション | 新市場 | 新たな能力 |
従来、イノベーション論は”製品“を軸に語られることが多かったですが、イノベーションストリームは”組織能力(ケイパビリティ)“を軸に置いているのが特徴です。より広義の組織の自己変革を扱えます。
具体例で見る3方向性
| 方向性 | 想定ケース |
|---|---|
| ①漸進的 | 既存の飲料メーカーが既存商品を海外市場に展開 |
| ②アーキテクチュアル | 紙媒体の出版社が既存読者向けに電子書籍プラットフォームを構築 |
| ③不連続型 | 自動車メーカーがモビリティサービス事業に参入 |
弊社事例|コロナ禍の”アーキテクチュアル・イノベーション”
ここからは、具体例として、コロナ禍における弊社(研修会社)の行動をイノベーションストリームで振り返ってみます。
2020年前半|対面研修売上の前年比98%減
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2020年1月下旬 | 新型コロナの影響が出始め、対面研修キャンセルが続出 |
| 2020年3月 | 講師派遣型研修は激減/キットレンタルのみ残る |
| 2020年4月 | 緊急事態宣言で新入社員研修が蒸発/売上前年比98%減 |

選んだ方向性|②アーキテクチュアル・イノベーション
この状況で弊社が選んだ方向性は、既存市場(研修を発注してくださる企業)に対して、新しい組織能力(オンラインビジネスゲーム)で応える——つまりアーキテクチュアル・イノベーションでした。

| 状況 | 取った行動 |
|---|---|
| Zoomなど既存のWeb会議ツールの普及 | 会議用ツールだけでは”グループワーク研修”が成立しない |
| グループワーク研修の代替需要 | オンライン専用のビジネスゲームの開発 |
| 市場 | 変えず(既存の研修発注企業) |
| 組織能力 | “研修会社”から”オンラインゲーム開発”への能力追加 |
“既存の研修会社からITベンチャー寄りへの転身”と言い換えてもよい変化でした。代表・取締役ともに新卒でIT企業出身だった偶然と、スピード重視で意思決定・開発した結果、次のような成果につながりました。
結果
| 時期 | 成果 |
|---|---|
| 2020年5月下旬 | オンラインビジネスゲーム研修の初受注 |
| 2021年10月 | オンライン対応10種以上のラインナップ |
| 2025年現在 | オンライン×対面のハイブリッド型が定着 |

イノベーションストリームで自社を棚卸しするコツ
| ステップ | 問い |
|---|---|
| ①自社の”市場”を定義 | 誰が自社の顧客か/どの市場に依存しているか |
| ②自社の”組織能力”を棚卸し | 自社が持つユニークな強みは何か |
| ③外部環境変化を洗い出す | 次にどの波が来るか/既に来ているか |
| ④3方向性のどこに向かうかを選ぶ | 漸進的/アーキテクチュアル/不連続型 |
| ⑤必要な組織能力のギャップを測る | 不足する能力をどう獲得するか(採用/協業/M&A) |
関連する両利きの経営・組織開発の記事もあわせてどうぞ。
「両利きの経営」実現のための「知の探索」の事例3選
両利きの経営の4つの成功要因(必要条件)
ティール組織イベントで聞いたビュートゾルフの3つの特徴
イノベーションを起こす人に共通する5つのスキル
パーパスは業績に影響するのか?
まとめ
イノベーションストリームは、“市場×組織能力”の2軸で、イノベーションの方向性を地図として可視化するフレームワークです。
生成AI・リモート定着・サプライチェーン再編といった次の大波を前に、自社が漸進的/アーキテクチュアル/不連続型のどこに賭けるのかを議論する素材として、今でも十分有効です。
弊社のコロナ禍の転換もそうだったように、地図を描かずに走り出さないことが、大きな環境変化の生存条件になります。
