健康経営と長時間労働とパフォーマンスの関係

健康経営の観点で押さえておきたい研究があります。起きたまま17時間が経つと、判断や手の動きの正確さが、血中アルコール濃度0.05%の酒に酔った状態と同じ程度まで下がることが、DawsonとReidの研究(1997年・Nature誌)で報告されています。0.05%は日本の酒気帯び運転の基準(0.03%相当)を上回る水準です。長時間労働は「根性で乗り切れる」ものではなく、生理的に仕事の質が下がることが科学的に示されています。
目次
1. 健康経営とは
2. Dawson & Reid(1997)の研究:起き続けて17時間で酒に酔った状態と同じ
3. 参考エピソード:シリコンバレーの「金曜ピザ&ビール」
4. 長時間労働抑制の法整備と実態
5. 長時間労働抑制のための企業施策
6. 「残業カッコイイ」文化を変える組織風土づくり
7. 健康経営・メンタルヘルス対策を体験で学ぶ:ストマネ
8. 健康経営と長時間労働に関するよくある質問
9. メンタルヘルス研修導入をご検討の方へ
10. まとめ
本記事では、健康経営の基本、Dawsonらの研究結果、長時間労働を抑える法整備、企業が実施すべき施策までを整理します。
健康経営とは
出典: 経済産業省「健康経営」(「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です)
企業の資本である「従業員の健康」が生産性を向上させ、結果として企業業績に寄与する——これが健康経営の本質的な考え方です。
経済産業省は2014年度から東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定し、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。これにより健康経営は上場企業・大手企業の経営アジェンダとして定着し、現在は人的資本経営・ウェルビーイング経営との接続も進んで、人材獲得・定着の戦略的な要素になっています。
健康経営には食事・運動・メンタルヘルス・長時間労働抑制など複数の要素がありますが、本記事は長時間労働とパフォーマンスの関係に焦点を当てます。
Dawson & Reid(1997)の研究:起き続けて17時間で酒に酔った状態と同じ
オーストラリアの睡眠研究者DawsonとReidが1997年に科学誌Natureで発表した研究は、起き続けることによる能力低下を、血中アルコール濃度に置き換えて示した代表的な研究です。
実験には40名が参加し、2つの条件を比べました。1つは朝8時から翌日の昼12時まで28時間起き続ける条件、もう1つは朝8時から30分ごとに少しずつお酒を飲み、血中アルコール濃度を0.10%まで上げる条件です。どちらの条件でも、画面上で不規則に動く目標をカーソルで追いかける課題(目と手の協調を測るテスト)を30分ごとに行いました。
| 起き続けた時間 | 課題の成績 | 血中アルコール濃度に置き換えると |
|---|---|---|
| 10〜26時間目 | 1時間ごとに平均0.74%ずつ低下 | 1時間ごとに0.004%上がるのと同じ |
| 17時間 | 酒に酔った状態と同じ水準まで低下 | 0.05%相当(日本の酒気帯び運転の基準0.03%相当を上回る) |
| 24時間(翌朝8時) | さらに低下 | 約0.10%相当 |
出典: Dawson D, Reid K. Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature 388, 235 (1997)
つまり、朝起きてから深夜まで働き続けると、お酒を飲みながら仕事をしているのと同じくらい正確さが落ちていることになります。ここでいう時間は「労働時間」ではなく起きている時間です。朝7時に起きて残業し、帰宅後も起きていれば、日付が変わる頃には17時間を超えます。長時間労働で睡眠時間が削られるほど、翌日もこの状態に早く近づきます。睡眠と仕事の成果の関係は睡眠が業績に与える影響と睡眠の質を向上する要素もあわせてご覧ください。
深夜から明け方の作業は特に注意
論文の著者は、交代勤務者の約半数が最初の夜勤の前日に眠らずに出勤しており、夜勤が続くと疲労はさらに大きくなるため、実際の職場での能力低下はこの実験より大きい可能性があると指摘しています。この研究を紹介した日本看護協会の資料の図でも、成績が最も落ち込むのは明け方です。起きている時間の長さに加えて、深夜という時間帯そのものが判断の正確さを下げると考えて、重要な判断や危険を伴う作業を深夜帯に置かない工夫が必要です。
参考エピソード:シリコンバレーの「金曜ピザ&ビール」
長時間労働と酔った状態での作業が同じ効果を生むことは、逆のエピソードからも示唆されます。前職のIT企業で聞いた話です。
シリコンバレーでは金曜日の夜にピザとビールを飲みながらテンションを上げて仕事=プログラミングを行うことがあるそうです。しかし、そのプログラムはバグ(=ミス)だらけで、月曜日の午前中は、金曜日に作ったプログラムを直すことからはじまるというのです。
これは自ら血中アルコール濃度を上げている例ですが、起き続けて長時間働いた状態でも、同じようにミスが増えることになります。長時間労働がストレスにどう影響するかは職場でのストレスは労働時間が原因なのか?で解説しています。
長時間労働抑制の法整備と実態
2015年に起きた大手広告会社の新入社員の過労自殺事件などを契機に、日本でも長時間労働抑制は国家的課題になりました。主な法改正と動きは以下。
①2019年4月: 働き方改革関連法の施行
・時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間。中小企業は2020年4月から)
・勤務間インターバル制度の導入努力義務
・有給休暇の取得義務化(年5日)
②2020年6月: パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行(大企業。中小企業は2022年4月から)
・業務上明らかに不要なことや、遂行できない量の業務を強いることは、パワハラの6類型のうち「過大な要求」に当たる場合がある
③2024年4月: 医師・自動車運転業務・建設業への上限規制の適用(2024年問題)
・業種によっては人手不足・サービス低下問題を引き起こしたが、業界全体の働き方再設計のトリガーに
法整備は進んだ一方で、サービス残業・持ち帰り残業・オンコール勤務といった実態レベルの長時間労働は残っている企業が多いのが現実です。
長時間労働抑制のための企業施策
健康経営の観点から、長時間労働を抑制する施策を優先度順で整理します。
①労働時間の可視化
PC ログイン・退館記録・タスク管理ツールなどで実際の労働時間を把握。申告ベースだけではサービス残業を捉えきれない。
②業務量の適正化
長時間労働の根本原因は業務量の過剰。業務の優先順位付け・不要業務の廃止・自動化(AI/RPA)で負荷を下げる。
③勤務間インターバル制度の導入
導入は法律上の努力義務です。終業から次の始業までに一定の休息時間(例えば11時間)を確保し、睡眠と回復の時間を守ります。休み方の考え方は休息と休養の違いとは?健康経営と生産性を高める5つの「休」で詳しく解説しています。
④シフト制・フレックスタイム
業種によっては、勤務時間を選択可能にすることで夜型・朝型の個人差を吸収し、実働時間を減らせる。
⑤管理職への研修
長時間労働を良しとする管理職の意識改革。部下の残業時間を管理職の評価項目に入れる方法もあります。上司との関係が残業やストレスにどう影響するかは上司との関係性が残業時間やストレスと与える影響をご覧ください。
⑥ツール投資
業務効率化のためのIT投資・AIツール活用。長時間労働の多くは手作業の集積から来ており、自動化投資が最も効く場面も多い。
「残業カッコイイ」文化を変える組織風土づくり
法律・制度・ツールを整えても、「残業は頑張りの証」「早く帰るのは気が引ける」という組織文化が残っていると実効性は上がりません。風土改革のポイントは以下。
①経営層・管理職が率先して定時退社
「部長が残っているから帰りにくい」を解消。定時退社・有給取得の模範を上層部から示す。
②「早く帰る人」を評価する制度
効率的に業務を完了させる人を昇進・昇給で報いる。長時間労働者ではなく成果/時間を評価する。
③業務量の「見える化」と対話
1on1で業務量の偏りを把握し、再配分を実施。個人に長時間労働を押し付けない構造。
④心理的安全性の確保
「早く帰るなんて言えない」状態にならないよう、言いたいことを言える関係性を構築。心理的安全性を体験的に学ぶ方法は心理的安全性を知り、高めるゲーム型研修「ベストチーム」で紹介しています。
健康経営・メンタルヘルス対策を体験で学ぶ:ストマネ
長時間労働を減らすには、制度に加えて、管理職が部下の負荷やストレスの変化に気づき、職場の運営を変えていく力が欠かせません。弊社では管理職向けのラインケアを体験から学ぶ研修ゲーム「ストマネ」を提供しています。

ストマネは、職場のメンタルヘルス対策のうち、特に管理職によるラインケアを体験から学ぶビジネスゲームです。ゲームでは、メンバーごとにストレスの上限値が設定され、役割によってその上限値が異なります。参加者は他のメンバーの状況を知らないまま、お互いのストレス状況に配慮しつつチームの目標達成を目指します。振り返りでは、どのような声かけや情報共有があれば互いの状況に気づけたかを考え、日頃のコミュニケーションと職場運営を見直します。
2026年2月現在、ストマネの導入社数は約60社、受講者満足度は4.92(5点満点)となっております。

詳細はストマネ紹介記事もご覧ください。
健康経営と長時間労働に関するよくある質問
Q. 研究の「17時間」は労働時間のことですか?
いいえ、起きている時間です。実験は朝8時から起き続けた場合の成績を測っています。通勤や帰宅後の時間も含むため、残業で睡眠が削られると、労働時間が同じでも能力が落ちやすくなります。
Q. 健康経営優良法人認定は中小企業でも取得できますか?
はい、経済産業省の健康経営優良法人認定制度には大規模法人部門と中小規模法人部門があります。中小企業も申請を検討できます。
Q. 一部の職種で長時間労働が避けられない場合は?
総量を減らせなくても、勤務間インターバルの確保、交代制の見直し、重要な判断や危険を伴う作業を深夜から明け方に置かない工夫などで、疲労による影響を軽減できます。
Q. 経営層の意識が低い場合の対処は?
健康経営が採用競争力・業績につながることを数字で示すのが有効です。厚生労働省・経済産業省の調査データや自社の離職率の推移など、経営判断につながる材料を提示しましょう。
メンタルヘルス研修導入をご検討の方へ
健康経営・働き方改革の一環として、管理職のラインケア研修をご検討の方はご相談ください。ストマネは講師派遣のほか、ゲームキット、投影用の運営スライド(パワーポイント)、ワークシート、社内講師用の動画マニュアルのレンタルでもご提供しています。

提供するパワーポイントには講師向けのトークスクリプトや解説が含まれています。

詳細な資料、お見積りをご希望の方はまずは下記より資料請求をお願いします。
※同業他社様からのお問い合わせはご遠慮ください。
まとめ
DawsonとReid(1997)の研究は、起き続けて17時間で血中アルコール濃度0.05%、24時間で約0.10%と同じ程度まで仕事の正確さが下がることを示しました。長時間労働は精神論ではなく生理的に成果を下げるという事実を押さえた上で、健康経営の観点から労働時間の可視化・業務量の適正化・勤務間インターバル・深夜帯の作業の見直し・組織文化の改革に取り組むことが必要です。


特に「ラインケア」については単純な座学でない形を模索しており、どうしたらこれまでの経験と照らして体感度高く気づきを得てもらえるか、といった点でストマネの利用を実施しました。