健康経営の観点で注目すべき事実として、14時間以上連続して仕事をすると、血中アルコール度数が酒気帯び運転の基準(0.03%)を超えるのと同等の認知パフォーマンス低下が起こることが、Dawsonら(1997)の研究で報告されています。長時間労働は「根性で乗り切れる」ものではなく、生理的にパフォーマンスが下がることが科学的に示されています。

本記事では、健康経営の基本、Dawsonらの研究結果、2020年代の労働環境への応用、企業が実施すべき健康経営施策までを整理します。

健康経営とは

健康経営(けんこうけいえい)とは、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のこと。

参考: Wikipedia

企業の資本である「従業員の健康」が生産性を向上させ、結果として企業業績に寄与する——これが健康経営の本質的な考え方です。

2010年代後半以降、経済産業省・東京証券取引所による「健康経営銘柄」「健康経営優良法人認定制度」の開始で、健康経営は上場企業・大手企業の経営アジェンダとして定着しました。2020年代には人的資本経営・ウェルビーイング経営との接続も進み、人材獲得・定着の戦略的な要素になっています。

健康経営には食事・運動・メンタルヘルス・長時間労働抑制など複数の要素がありますが、本記事は長時間労働とパフォーマンスの関係に焦点を当てます。

Dawsonら(1997)の研究:14時間で酒気帯び運転レベル

1997年の南オーストラリア大学・Dawsonらの研究は、長時間労働が認知パフォーマンスに与える影響を血中アルコール度数と対比して示した代表的な研究です。

長時間労働とパフォーマンスの研究
参考URL: https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/document/report/pdf/kangokanri-1.pdf

研究結果の要点は以下の通りです。

①14時間労働 = 血中アルコール度数0.03%相当
仕事を始めて14時間が経過すると、血中アルコール度数の換算値が日本の酒気帯び運転基準(0.03%)を超えるレベルの認知パフォーマンスになります。

②22時間労働 = 血中アルコール度数0.1%相当
22時間労働では血中アルコール度数0.1%に相当し、これは瓶ビール大瓶1本(633ml)を飲んだ状態とほぼ同じです。酒気帯び運転どころか酒酔い運転レベルの認知機能低下です。

つまり、14時間を超える労働は、お酒を飲みながら仕事をしているのと同じ生産性ということになります。

参考エピソード:シリコンバレーの「金曜ピザ&ビール」

長時間労働と酔った状態での作業が同じ効果を生むことは、逆のエピソードからも示唆されます。前職のIT企業で聞いた話です。

シリコンバレーでは金曜日の夜にピザとビールを飲みながらテンションを上げて仕事=プログラミングを行うことがあるそうです。しかし、そのプログラムはバグ(=ミス)だらけで、月曜日の午前中は、金曜日に作ったプログラムを直すことからはじまるというのです。

これは自ら血中アルコール度数を上げている例ですが、14時間を超える労働はこれと同様のミス増加が起きているということになります。

2020年代への応用:長時間労働抑制の法整備と実態

2015年頃の電通・高橋まつりさん事件を契機に、日本でも長時間労働抑制は国家的課題になりました。主な法改正と動きは以下。

①2019年: 働き方改革関連法の全面施行
時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)
・勤務間インターバル制度の導入努力義務
・有給休暇の取得義務化(年5日)

②2020年: パワハラ防止法の施行(大企業)
・長時間労働を強要する「職場環境悪化」行為のハラスメント認定

③2024年: 医師・運送業等の時間外上限適用(2024年問題)
・業種によっては人手不足・サービス低下問題を引き起こしたが、業界全体の働き方再設計のトリガーに

法整備は進んだ一方で、サービス残業・持ち帰り残業・オンコール勤務といった実態レベルの長時間労働は残っている企業が多いのが現実です。

長時間労働抑制のための企業施策

健康経営の観点から、長時間労働を抑制する施策を優先度順で整理します。

①労働時間の可視化
PC ログイン・退館記録・タスク管理ツールなどで実際の労働時間を把握。申告ベースだけではサービス残業を捉えきれない。

②業務量の適正化
長時間労働の根本原因は業務量の過剰。業務の優先順位付け・不要業務の廃止・自動化(AI/RPA)で負荷を下げる。

③勤務間インターバル制度の導入
法定努力義務ですが、実導入は一部の企業のみ。終業から始業まで11時間の空け時間を確保することで、生理的な回復時間を担保。

④シフト制・フレックスタイム
業種によっては、勤務時間を選択可能にすることで夜型・朝型の個人差を吸収し、実働時間を減らせる。

⑤管理職への研修
長時間労働を良しとする管理職の意識改革。部下の残業時間を管理職評価に組み込む企業も増えている。

⑥ツール投資
業務効率化のためのIT投資・AIツール活用。長時間労働の多くは手作業の集積から来ており、自動化投資が最も効く場面も多い。

「残業カッコイイ」文化を変える組織風土づくり

法律・制度・ツールを整えても、「残業は頑張りの証」「早く帰るのは気が引ける」という組織文化が残っていると実効性は上がりません。風土改革のポイントは以下。

①経営層・管理職が率先して定時退社
「部長が残っているから帰りにくい」を解消。定時退社・有給取得の模範を上層部から示す。

②「早く帰る人」を評価する制度
効率的に業務を完了させる人を昇進・昇給で報いる。長時間労働者ではなく成果/時間を評価する。

③業務量の「見える化」と対話
1on1で業務量の偏りを把握し、再配分を実施。個人に長時間労働を押し付けない構造。

④心理的安全性の確保
「早く帰るなんて言えない」状態にならないよう、言いたいことを言える関係性を構築。

健康経営・メンタルヘルス対策を体験で学ぶ:ストマネ

健康経営と長時間労働の課題に向き合ううえで、個人・組織のストレスに早期に気づき、マネジメントする力を育てることが重要です。弊社ではメンタルヘルス対策をチームで体験する研修ゲーム「ストマネ」を提供しています。

ストマネ

ストマネは、架空のチームメンバーのストレス状況を把握し、マネジャーとして対応策を議論するゲーム型研修。管理職が日常で直面するラインケアの判断力を体験的に鍛えます。

2026年2月現在、ストマネの導入社数は60社、受講者満足度は4.92(5点満点)となっております。

詳細はストマネ紹介記事もご覧ください。

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健康経営と長時間労働に関するよくある質問

Q. 健康経営優良法人認定は中小企業でも取得できますか?
A. はい、経済産業省の健康経営優良法人認定制度には大規模法人部門と中小規模法人部門があります。中小企業も積極的に申請を検討できます。

Q. 一部の職種で長時間労働が避けられない場合は?
A. 総量を減らせなくても、勤務間インターバル・交代制・アンガーマネジメント研修など、個人の疲労回復を支援する施策で被害を軽減できます。

Q. 経営層の意識が低い場合の対処は?
A. 健康経営が採用競争力・業績に直結することを数字で示すのが有効。厚労省・経産省の調査データや自社の離職率推移など、経営判断につながる材料を提示しましょう。

まとめ

Dawsonら(1997)の研究は、14時間以上の労働=酒気帯び運転と同等の認知パフォーマンスであることを示しました。22時間労働に至っては瓶ビール大瓶1本を飲んだ状態に相当します。長時間労働は精神論ではなく生理的に成果を下げるという事実を押さえた上で、健康経営の観点から労働時間の可視化・業務量適正化・インターバル制度・文化改革に取り組むことが必要です。

関連テーマとして心理的安全性を知り、高めるゲーム型研修「ベストチーム」もあわせてご覧ください。


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