なぜ、手を動かしてモノを作ると新しいアイデアが生まれるのか?

「会議で議論しても意見が出ない」「抽象的な話ばかりで前に進まない」――そんな悩みを解決する手法として注目されているのが、レゴ(R)ブロックを使ったワークショップ「レゴ(R)シリアスプレイ(R)」(LEGO SERIOUS PLAY、以下LSP)です。

レゴシリアスプレイ ワークショップの様子

LSPは単なる遊びではなく、明確な学術的根拠を持った手法です。その中核にあるのが、本記事で解説する「コンストラクショニズム理論」(Constructionism)。MITメディアラボのシーモア・パパート教授が提唱した、「人はモノを作ることで学ぶ」という学習理論です。

この記事では、コンストラクショニズム理論の基本から、よく似た言葉「構成主義」(Constructivism)との違い、脳科学的な裏付け、そしてビジネス研修で効果を発揮する場面まで、順を追って解説します。

コンストラクショニズム理論とは

コンストラクショニズム(Constructionism) = 「組み立てる」「構築する」(construct) から派生した造語

コンストラクショニズム理論は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のシーモア・パパート教授によって1980年代に体系化された学習理論です。パパートは著書『マインドストーム』(Mindstorms, 1980年)のなかで、子どもが何かを作る過程そのものが学びを生むと説きました。

要点を一文でまとめると、人はモノを作っているときに最もよく学ぶということになります。

頭の中だけで考えるのではなく、実際に手を動かして具体物(レゴブロック、プログラム、工作物など)を組み立てる。そのプロセスのなかで、頭の中にあった曖昧な概念が言語化・構造化され、自分なりの理解として「構築」されていく。これがコンストラクショニズムの中心的な主張です。

パパートは次のように述べています。

人は、モノを使って考える、あるいは手を動かして考えるときに、大人がかつて持っていたのに忘れてしまっている創造的なエネルギー、思考様式、モノの見方が引き出される。

大人になるにつれて私たちは「頭だけで考える」習慣を身につけますが、本来は手を動かし素材に触れながら思考する方が、潜在的な発想力を引き出しやすい。この仮説がLSPの出発点になっています。

提唱者シーモア・パパート教授とMITメディアラボ

コンストラクショニズム理論を理解するには、提唱者であるシーモア・パパート(Seymour Papert, 1928-2016)の経歴を知っておくと視野が広がります。

パパートは南アフリカ生まれの数学者・教育学者・人工知能研究者です。若き日のパパートは、スイス・ジュネーブにあるジャン・ピアジェの研究所で1958年から1963年まで研究に従事しました。後述する「構成主義」の大家ピアジェから直接学んだ経験が、後のコンストラクショニズム理論の土台となります。

1964年にMITに移籍したパパートは、AI研究の第一人者マービン・ミンスキーとともにMIT人工知能研究所(後のメディアラボ)で活動。1960年代末には、子ども向け教育プログラミング言語「LOGO」を共同開発しました。画面上の亀(タートル)にコマンドを与えて図形を描かせる、あの言語です。

LOGOは「子どもが自分でプログラムを作りながら数学や幾何を学ぶ」ための言語であり、まさにコンストラクショニズム理論を体現した教材でした。

そしてパパートとMITメディアラボは、1980年代後半からデンマークのLEGO社と共同研究を進めます。その成果のひとつが、1998年に発売されたプログラミング可能なレゴ「LEGO MINDSTORMS」です。製品名がパパートの著書『マインドストーム』から取られていることからも、その結びつきの深さが伝わります。

LSPもまた、LEGO社がパパートの理論を下敷きに、スイスのIMD経営大学院と共同開発したメソッドです。子どもの学びを研究する理論が、そのまま大人の組織開発のツールへと発展したわけです。

構成主義(Constructivism)とコンストラクショニズム(Constructionism)の違い

ここで多くの人が混同する2つの用語を整理しておきます。両者は名前も似ていて関連も深いのですが、指し示すものが異なります。

観点 構成主義 (Constructivism) コンストラクショニズム (Constructionism)
提唱者 ジャン・ピアジェ (Jean Piaget) シーモア・パパート (Seymour Papert)
分野 発達心理学・認知発達論 学習理論・教育実践
学びの成立 環境との相互作用で頭の中に認知構造が構築される 実際に手でモノを作る(Making)過程そのものが学びを生む
キーワード 同化・調節・スキーマ Making・Artifacts(作品)・Object-to-think-with
実践例 子どもの思考発達の観察研究 LOGO、LEGO MINDSTORMS、LSP

ざっくり言えば、構成主義は「頭の中での構築」に注目する理論コンストラクショニズムは「手で外部に作品を作ることで内側が構築される」ことを強調する理論、という関係です。

パパートは師ピアジェの構成主義を引き継ぎながら、「ただ観察するだけではなく、具体物を作るという行為を組み込むことで学びは加速する」と一歩進めました。言い換えれば、コンストラクショニズムは構成主義の実践版・拡張版と位置づけられます。

脳科学的にも裏付けられる「手を動かす」効果

コンストラクショニズム理論は哲学的な主張にとどまらず、脳科学的な観点からも一定の裏付けが語られています。

よく引用される根拠のひとつは、大脳皮質の感覚野・運動野の地図で「手」の占める面積が極めて大きいという事実です。カナダの脳外科医ワイルダー・ペンフィールドが描いた「脳内の身体地図(ホムンクルス)」では、手や指が不釣り合いなほど大きく描かれます。手を動かすことは、脳の広大な領域を同時に活性化させる行為なのです。

もうひとつの切り口は右脳と左脳の役割分担です。言語や論理を担当する左脳に対して、イメージ・空間認知・直観を担当するのが右脳とされます。議論や文章だけで考えると左脳に偏りがちですが、レゴブロックで具体物を組み立てる行為は、形・色・位置関係といった非言語的情報を扱うため右脳を強く刺激します。

さらに意思決定研究の文脈では、人間の意思決定の大部分は意識的な思考ではなく、無意識(潜在意識)の影響を受けているという議論があります。言葉だけでは表に出てこない無意識の価値観や違和感が、手で作った作品という形で可視化される――これがLSPで「自分でも驚くアイデアが出る」瞬間の正体だと説明されます。

これらはいずれも科学的に決着した単一の結論ではありませんが、「手を動かすと頭だけで考えるより良いアイデアが出る」という実感を、複数の方向から支える補強材料にはなります。

ビジネス研修でLSPが効果を発揮する3つの場面

LSPは子どもの学習理論から出発していますが、現在は企業の組織開発の現場でも活用されています。特に効果を発揮しやすい3つのシーンを紹介します。

1. ビジョン作成ワークショップ

「我が社の10年後のあるべき姿」「このチームが目指す理想像」といった抽象的なテーマは、言葉だけで議論すると発言力の強い人の意見に引きずられがちです。LSPでは全員が一度レゴで作品を作り、それを順番に説明する形式を取ります。結果として、全員の声が同じ重みで場に出されるため、普段発言の少ないメンバーから重要な論点が出ることも珍しくありません。

2. チームの相互理解・再構築

「自分の役割」「チームへの想い」「理想のリーダーシップ」といったテーマを各自が作品化することで、言語化しづらい価値観や前提が可視化されます。新任リーダーの着任時、組織再編後のチーム再構築時などに、メンバー同士の距離を一気に縮める効果があります。

3. 戦略・コンセプトの共有

経営層が策定した戦略を現場に降ろすときも、スライドで説明するだけでは腹落ちしません。戦略の要素を各自がレゴで表現してみると、「自分はこの部分をこう理解している」という解釈の差が作品という形で露わになります。議論の糸口がつかみやすくなり、結果として戦略の浸透度が高まります。

いずれの場面にも共通するのは、言葉にならない思考を作品という形で外部化することで、チーム全体で同じテーブルに並べて議論できるという点です。

よくある質問

Q. 普通のレゴブロックでもLSPはできますか?

A. 厳密にはLEGO社公式の「SERIOUS PLAY」ブランドの専用キット(後述のStarter Kit等)が推奨されています。公式キットには動物・人物フィグ・タイヤ・窓枠・ギア・花・チューブなど、比喩表現に使いやすい多様なパーツが入っており、メタファー(比喩)で語るLSPの性質と相性がよいためです。汎用のレゴで代用することも可能ですが、パーツの種類が少ないと表現の幅が狭くなります。

Q. ファシリテーターは必須ですか?

A. 本格的な組織開発目的で導入する場合、LEGO SERIOUS PLAY認定ファシリテーターによる進行が望ましいとされています。一方、個人や小規模チームで体験してみたいだけなら、書籍や公式スターターキットに付属するガイドを参考に自分たちで試すことも可能です。

Q. どのくらいの時間が必要ですか?

A. 導入編のミニワークなら30分程度から実施可能ですが、ビジョン作成や戦略策定のような本格的なセッションは半日〜1日規模で行われるのが一般的です。作品を作る・説明する・質問するというサイクルを複数回まわす時間が必要になるためです。

Q. HEART QUAKEではレゴ(R)シリアスプレイ(R)研修を実施していますか?

A. 現在、弊社ではレゴ(R)シリアスプレイ(R)を用いた研修の提供は行っておりません。本記事は「コンストラクショニズム理論」という学習理論の解説を目的とした記事であり、LSP研修そのものの提供案内ではない点をご了承ください。LSPを本格的に導入したい場合は、LEGO(R)認定のシリアスプレイ(R)ファシリテーターや、LSPを専門に扱う研修会社・コンサルティング会社にお問い合わせください。弊社では代わりに、チームビルディング・ビジョン作成・戦略共有の目的で活用いただけるビジネスゲーム型研修を多数ご用意しています(記事末の関連リンクをご参照ください)。

まとめ

コンストラクショニズム理論の要点を3つに整理します。

・「人はモノを作っているときに最もよく学ぶ」という学習理論。MITのシーモア・パパート教授が、師ピアジェの構成主義を発展させる形で1980年代に体系化した。

・構成主義(Constructivism)が「頭の中での認知構造の構築」に注目するのに対し、コンストラクショニズム(Constructionism)は「手で外部にモノを作る行為そのものが学びを生む」点を強調する。構成主義の実践版・拡張版と言える。

・レゴ(R)シリアスプレイ(R)はこの理論を大人の組織開発に応用したメソッド。ビジョン作成・チーム再構築・戦略共有など、言葉だけでは進みにくいテーマで特に効果を発揮する。

「会議が言葉だけの応酬で堂々巡りしている」と感じたら、一度テーブルの上に具体物を並べてみる。その発想の源にあるのがコンストラクショニズム理論です。

さらに深く学びたい方へ:日本語で読めるLSPの実践書

コンストラクショニズム理論とレゴ(R)シリアスプレイ(R)の関係を、日本語でまとまって学べる書籍を紹介します。著者のロバート・ラスムセン氏はLSPメソッドの開発責任者の一人として知られる人物です。

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