クリティカルシンキングの5つの要素
今回はクリティカルシンキングの5つの要素というテーマで、批判的思考を「自分ひとりで考える時」と「他者と一緒に考える時」の2つに分けて整理します。生成AIが誰でも瞬時に答えを出せるようになった2026年、人間側に求められるのは「AIの答えを鵜呑みにしない力」、つまりクリティカルシンキングそのものです。
クリティカルシンキングは日本語では批判的思考と訳され、ATC21s(Assessment and Teaching in 21st Century Skills)という国際団体が提唱する21世紀に求められるスキルの一つにも挙げられています(下画像左上)。

21世紀に求められるスキルについては過去記事でも説明していますので、興味のある方はあわせてご覧ください。
ATC21sによる21世紀型スキルとは
弊社代表の千葉は、大学生のときにグロービスの『MBAクリティカル・シンキング』を読んで感銘を受けたと言っていました。ビジネスパーソン向けの定番教材として、現在も改訂3版が読み継がれています。
今回は、三重大学の廣岡秀一氏らが2001年に発表した論文をベースに、クリティカルシンキングの構成要素を見ていきます。
廣岡秀一、元吉忠寛、小川一美、斎藤和志
三重大学教育実践総合センター紀要, 2001, 第20号, 93-102
https://cir.nii.ac.jp/crid/1520853833013335552
こちらの論文では、クリティカルシンキングに対する志向性を測定する尺度の作成を試みています。
2種類のクリティカルシンキング

個人的に面白いなと思ったのが、クリティカルシンキングを2つに分けて考えている点です。
| 種別 | 想定する場面 | 近い場面 |
|---|---|---|
| 対自分のクリティカルシンキング | 他者の存在を想定しなくてもよい | レポート作成/問題分析/AIの回答検証 |
| 対他者のクリティカルシンキング | 他者の存在を想定する | 会議での意見交換/1on1/プレゼン質疑 |
グロービスのMBAシリーズにも、『MBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編』という対他者版が存在します。2つを分けて書籍化されているのは、そのまま上記の分け方に対応しています。
自分ひとりで考える時のクリティカルシンキング:5つの要素
論文では、704名の大学生に対して質問紙調査を行った結果、対自分のクリティカルシンキングに必要な要素として以下の5つが抽出されました。
| 要素 | 具体的な行動例 |
|---|---|
| ①探究心 | 他の人があきらめても、なお答えを探し求め続ける |
| ②証拠の重視 | 確たる証拠の有無にこだわる |
| ③不偏性 | 物事を決めるときには、客観的な態度を心がける |
| ④決断力 | ここぞというところで決断できる |
| ⑤脱軽信 | 情報を、少しも疑わずに信じ込んだりしない |
クリティカルシンキングというと証拠の重視・脱軽信のイメージが強いですが、こうやって要素分解すると、探究心・不偏性・決断力といった「考え続ける姿勢」や「結論を下す覚悟」までも含むスキルであることがわかります。生成AIの出力を扱うときにも、この5つの組み合わせが問われます。
他者と一緒に考える時のクリティカルシンキング:6つの要素
一方、対他者のクリティカルシンキング志向性では、以下の6つの要素が抽出されました。コミュニケーションが前提になるため、人間関係にかかわる要素が加わります。
| 要素 | 具体的な行動例 |
|---|---|
| ①人間多様性理解 | 自分とは違う考え方の人に興味を持つ |
| ②他者に対する真正性 | 友だちに対してでも、悪いことは悪いと指摘できる |
| ③論理的な理解 | 人の話のポイントをつかむことができる |
| ④柔軟性 | 必要に応じて妥協する |
| ⑤脱直感 | 理由もなく人を嫌わない |
| ⑥脱軽信 | うわさをむやみに信じない |
「脱軽信」は自分ひとりで考える時にも登場しており、2つのクリティカルシンキングに共通する土台であることがわかります。逆に「人間多様性理解」「他者に対する真正性」「柔軟性」などは、会議・1on1・チームディスカッションで効く要素です。
生成AI時代にクリティカルシンキングが効く場面
2026年現在、クリティカルシンキングが特に効くのは、生成AIの出力を扱う場面です。
| 場面 | 問われる要素 |
|---|---|
| AIの回答を業務判断に使う | ②証拠の重視/⑤脱軽信 |
| AIの提案を自社状況に合わせて修正 | ①探究心/④決断力 |
| 会議でAIの回答を共有して議論 | 対他者:③論理的な理解/④柔軟性 |
| 採用・評価などバイアスが入りやすい領域 | 対他者:①人間多様性理解/⑤脱直感 |
AIの出力は一見もっともらしいため、脱軽信が働かなければそのまま意思決定に使われてしまうリスクがあります。とくに採用・評価などの領域では、AIの中に含まれるバイアスを人間が気づいて補正する必要があり、クリティカルシンキングは単なる個人スキルではなく、組織のガバナンス要件になりつつあります。
まとめ
クリティカルシンキングは、自分ひとりで考える時の5要素(探究心・証拠の重視・不偏性・決断力・脱軽信)と、他者と一緒に考える時の6要素(人間多様性理解・他者への真正性・論理的な理解・柔軟性・脱直感・脱軽信)に分けて捉えることができます。生成AIが前提となる2026年以降、AIの答えを検証し自社状況に翻訳する力として、クリティカルシンキングはますます重要になります。研修設計にあたっては、この2つの軸を分けて扱うと学習効果が明確になります。
ぜひ論文もご覧いただければと思います。
廣岡秀一、元吉忠寛、小川一美、斎藤和志
三重大学教育実践総合センター紀要, 2001, 第20号, 93-102
https://cir.nii.ac.jp/crid/1520853833013335552
