松下幸之助の面接とプロアクティブ行動
パナソニックの創業者松下幸之助氏は、面接の最後に必ず一つの質問を投げかけたという逸話があります。

Wikipediaより
ここで「運が悪いです」と答えると、どんなに学歴が良くても採用されないという逸話です。自分のことを「運がいい」と思えて、松下幸之助を前にした面接の場でもそう答えられる人しか合格しないということになります。
一見すると無茶な基準のようにも思えますが、この問いを裏付ける学術研究があります。本記事では、星(2016)の論文「若年就労者の仕事満足に対するプロアクティブ行動の効果についての検討」を紹介しながら、松下幸之助の面接と現代の組織行動論がつながる理由を整理します。
「ポジティブフレーム」が仕事満足につながる
今回紹介するのは、若年就労者の仕事満足に対するプロアクティブ行動の効果についての検討(星 かおり, 2016)という論文です。
この研究は松下幸之助の面接について直接研究したものではありません。しかし、両者の示唆にはひとつの重要な共通点があります。
プロアクティブ行動とは
まずプロアクティブ(proactive)を整理します。
ビジネスシーンでのプロアクティブ行動は、次のように定義されます。
入社後、個人が主体的に働きかけて組織に適応していくプロセス (リクルートマネジメントソリューションズ)
プロアクティブ社会化戦略尺度の7項目
どのような行動がプロアクティブ行動なのかを尺度化したものがプロアクティブ社会化戦略尺度で、7つの項目で構成されます。
| 項目 | 行動の内容 |
|---|---|
| 1. 情報探索 | 自ら組織構造や部門の関係性について学ぼうとする行動 |
| 2. フィードバック探索 | 自身の割り当てられた仕事に対してフィードバックを求める行動 |
| 3. 一般的な社会活動 | 会社主催の集まりに参加する行動 |
| 4. ネットワーク構築 | 部署以外の人と関わろうとする行動 |
| 5. 上司との関係構築 | 上司との良い関係づくりをするための行動 |
| 6. 職務変更交渉 | 割り当てられた職務について話し合いをする行動 |
| 7. ポジティブフレーム | 物事を良い方向に捉える傾向 |
分析結果: 「ポジティブフレーム」のみが仕事満足に有意
この論文では、学卒後5年以内のフルタイム就労者168名を対象に分析した結果、以下のように報告されています。
プロアクティブ行動の7項目のうち、ポジティブフレーム(物事を良い方向に捉える傾向)だけが、仕事満足に直接的な正の影響を与えるという結果です。情報探索やフィードバック探索など「外に働きかける行動」は、短期的な満足度には直結せず、認知的な構え(フレーム)の持ち方こそが効いているという示唆です。
松下幸之助の「運がいいですか?」とポジティブフレーム
ここで冒頭の話に戻ります。松下幸之助の質問「あなたは運がいいですか?」は、まさにポジティブフレームの有無を見極める質問だったのではないか、と考えると腹落ちします。
・「運がいい」と答える人:困難を前向きに解釈する構えが身についており、仕事満足度が高くなりやすい(プロアクティブ行動で最も効く要素)
・「運が悪い」と答える人:環境や他人のせいで結果を解釈する傾向があり、入社後も仕事満足が高まりにくい
現代の組織行動論の観点から見ても、松下幸之助の「究極の質問」は理にかなっていたと言えそうです。
採用・自己研鑽・新入社員育成への応用
この知見は、採用現場や人材育成の現場で次のように応用できます。
・採用面接のクロージング質問:「これまでの人生で、困難な状況をどう解釈してきましたか?」と問うことで、ポジティブフレームの有無を探る
・新入社員のオンボーディング研修:自分の解釈のクセを言語化するワークを取り入れ、ポジティブフレームに書き換える練習を組み込む
・セルフマネジメント:日々の出来事をABC理論などで分解し、自分の「解釈(Belief)」を意識的にポジティブ方向に切り替える習慣を持つ
・管理職の部下育成:部下が困難に直面したときに「どう解釈すると次の一歩が出るか」を問い直すコーチングを行う
・離職予防:仕事満足の低い若手に対し、制度改善だけでなく認知的フレームの支援を組み合わせる
採用・組織行動論を学ぶ書籍
採用設計や組織行動論の背景を理解するには、下記書籍が参考になります。
まとめ
松下幸之助の「あなたは運がいいですか?」という質問は、プロアクティブ行動の7項目の中で仕事満足に最も効くポジティブフレームを見抜く、理にかなった究極の質問だったと考えられます。採用・育成の現場でも、ポジティブフレームを育む仕掛け作りが、個人と組織の両方にとって意味のある投資と言えそうです。
あなたは運がいいですか?
