本記事は、元マッキンゼー・アンド・カンパニーで人材育成・採用マネジャーを務めた伊賀泰代氏の著書『生産性』(ダイヤモンド社・2016年刊)のうち、第7章「業務の生産性に直結する研修」を中心に、2026年時点の人的資本経営・リスキリングの潮流と照らしながら読み解いた内容です。書籍の要点、マッキンゼーで行われていた研修の特徴、そこから導ける研修の生産性を上げる実務的な示唆、そして自社で企業研修用ビジネスゲームを提供する視点からの補足までを一気通貫でまとめました。研修担当者・人事部門の方が、自社の教育投資の投資対効果を見直すためのヒントとして使える内容になっています。

書籍『生産性』の位置づけと、本記事で扱う論点

『生産性』は、『採用基準』の著者としても知られる伊賀泰代氏が、マッキンゼー時代の採用・人材育成の実体験をベースに、日本企業における「生産性」という概念の扱いの浅さを指摘した一冊です。2016年の刊行から約10年が経過した2026年時点でも、人的資本経営やリスキリングの文脈で繰り返し参照される古典となっています。

書籍のユニークな点は、タイトルから連想されがちな「生産性を上げる10のテクニック」型のノウハウ本ではないところです。採用基準を高める、優秀な人材の離職を防ぐ、会議やメールの生産性を上げるといった具体的なキャリアの現場事例を軸に、生産性という概念の本質に踏み込んでいきます。

本記事では、その中でも第7章「業務の生産性に直結する研修」にフォーカスし、以下の3つの観点で整理します。

・マッキンゼーの研修が講義型ではなくロールプレイング型中心である理由
・研修の生産性を高めるための設計要件
・2026年現在のリスキリング・人的資本経営の文脈で改めて考える意味

業務の生産性に直結する研修とは何か

第7章で伊賀氏はまず、「研修は参加者の業務の生産性を上げるためにある」という当たり前の前提を強調します。この前提に立つと、研修そのものの生産性が問われることになります。つまり「受講者の時間と会社の投資に対して、業務の改善がどれだけ返ってきたか」です。

研修効果の測定は、古くからカークパトリックの4段階評価モデルが参照されてきましたが、日本企業で現場に徹底されているケースは必ずしも多くありません。伊賀氏の問題提起は、この「測定の甘さ」「成果への接続の弱さ」を突くものと読めます。

講義形式では「判断の練習」ができない

伊賀氏がマッキンゼーの研修を振り返って挙げるのが、講義形式の研修が少なく、ロールプレイング研修が顕著に多かったという事実です。書籍からは次のように引用されます。

具体的には講義形式の研修が少なく、ロールプレイング研修の研修が顕著に多いのです。

ロールプレイング研修の定義として、本書では以下のように説明されています。

ロールプレイング研修とは、参加者が役割分担し、実際の仕事場面を再現しながら学ぶ「役割を演じる形式」のトレーニングです。

この形式は、私たちが企業研修用ビジネスゲームの領域で「ビジネスシミュレーション型」と呼んでいるものと重なります。参加者を受動的な聴衆ではなく、意思決定する当事者として扱う点が本質です。

マッキンゼーで利用されていたゲーム型研修の特徴

本書ではマッキンゼー社内で利用されていたRPG(ロールプレイングゲーム)型の研修にも言及があります。カードゲームやボードゲームといったアナログ型ではなく、PCを使ったデジタル型のシミュレーションだった点が特徴的です。2026年の現在は、オンライン会議ツール上で動作するクラウド型シミュレーション教材が急速に普及しており、当時マッキンゼーで扱われていた形式に近いものが、一般企業の研修でも現実的な選択肢になっています。

伊賀氏は、このようなロールプレイング型研修のメリットとして次のような論点を整理しています。

「判断」の練習ができる研修である
・グローバルなチームでの働き方を学べる(各国から集まった参加者で話し合うため)
・具体的な話し方の練習ができる(知識を得るだけでなく、行動の練習までを研修内で完結させる)
・その場でフィードバックが得られる
・相手の立場を体験できる
・緊急対応も事前に練習できる

これらは、知識のインプット偏重から脱却して行動変容に結びつけたいという、研修設計者であれば誰もが抱く課題に対する答えになっています。経験学習を学ぶ研修のやり方で整理したコルブの経験学習サイクルに照らしても、具体的経験→内省→概念化→能動的試行、という流れを1回の研修内で回せる点は大きな強みです。

研修の生産性を下げる「3つの落とし穴」

書籍の論点と、HEART QUAKEが年間400社以上の研修実績の中で見てきた現場の課題を突き合わせると、研修の生産性を下げる典型パターンが見えてきます。

落とし穴 症状 対処の方向性
目的の曖昧化 「毎年やっているから」で実施されている どの業務のどの判断を変えたいかまで落とす
講義時間の過剰 1日のうち大半がスライド解説に使われる ロールプレイ・演習時間を半分以上に
事後の放置 研修後の業務接続が設計されていない 90日後の行動目標と振り返り会を設定

特に2026年の潮流として、リスキリング予算が人事部門の管理対象として明確化されたことにより、「何となくの研修」が経営から厳しくチェックされるようになっています。NIKKEIリスキリング様に弊社を取り上げていただきましたでも触れたように、企業側の関心は「研修をやったかどうか」から「どんな行動変容が起きたか」へと着実にシフトしています。

研修を「行動の練習場」に変えるための設計要件

伊賀氏が強調する「行動の練習までを研修内でできる」という条件を満たすために、私たちが現場で重視しているのは以下の3点です。

1. ビジネス文脈を持った「意思決定」の存在

単なるアイスブレイクゲームと企業研修用ビジネスゲームの違いは、参加者が業務と地続きの意思決定を強いられるかどうかにあります。たとえば部課長ゲームのやり方で紹介している部課長ゲームは、限られた経営資源を部門間で配分するという、実際のマネジメント判断に近い構造を持っています。

数字と人と時間のトレードオフを1日の中で体験することで、座学では身につきにくい「優先順位付けの感覚」が養われます。

2. 現場で再現できる振り返りの枠組み

研修中にどれだけ盛り上がっても、現場で再現できなければ生産性には結びつきません。ペーパータワーforビジネス実施の流れでは、タワーを建てるゲーム体験の後に、「計画」「実行」「振り返り」のPDCAサイクルに沿って自職場の業務を見直す構成を組み込み、研修後の翌営業日から試せる具体行動まで落とし込みます。

3. 他者からのフィードバックが得られる構造

伊賀氏が挙げた「フィードバックが得られる」「相手の立場を体験できる」という要素は、アクティブラーニングとビジネスゲームの関係性で整理したとおり、能動的な学習において欠かせません。参加者同士が観察者と当事者を交代で経験する設計にすることで、自分の仕事の仕方に対する客観的な気づきが得られます。

2026年の文脈で改めて読むべき理由

2016年の刊行から約10年が経過した2026年現在、『生産性』で示された論点はより鋭くなっています。背景には以下の変化があります。

人的資本経営の情報開示が有価証券報告書で定着し、研修投資の費用対効果が投資家からも問われる局面が増えた
生成AIの業務浸透により、座学で知識を伝達する研修の相対的価値が下がり、「AIが出した案を評価・判断する力」など高次の意思決定訓練の重要度が上がった
ハイブリッドワークの定着で、研修の現場接続がより意識的な設計を要求されるようになった

こうした環境下では、研修を「知識伝達イベント」ではなく「意思決定の練習場」として設計し直すことが、人事部門にとって避けられない宿題になります。ビジネスゲームを研修に利用する5つのメリット「もう一度やりたい」と言われるビジネスゲーム型研修の特徴と合わせて読んでいただくと、伊賀氏の議論が単なる書評にとどまらず、自社の研修体系を見直すための具体的な問いに変わるはずです。

まとめ

伊賀泰代氏の『生産性』は、生産性というテーマを正面から扱った数少ない日本語の書籍であり、第7章「業務の生産性に直結する研修」はそのエッセンスが凝縮されたパートです。講義一辺倒の研修からロールプレイング・シミュレーション型への移行、行動の練習を研修内に組み込む設計、事後の行動変容まで見届けるスタンス——これらは、2026年の人事部門が求められている研修のあり方そのものです。

書籍本編にはより詳細な設計のディテールが書かれているため、研修企画の担当者であれば原著にあたる価値が十分にあります。そのうえで、自社の研修設計の見直しにゲーム型・シミュレーション型の手法を取り入れたい場合は、HEART QUAKEまでお気軽にご相談ください。


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