新規事業開発や企画職の現場では「革新的なビジネスモデルはどうやって生まれるのか?」という問いに直面します。才能や閃きの問題に見えますが、実はその多くが再現可能な発想パターンで説明できます。

本記事では、一橋ビジネスレビューに掲載された早稲田大学商学学術院教授・井上達彦先生の研究をベースに、革新的なビジネスモデルを生み出した経営者たちの発想法を整理します。オズボーンのチェックリストを切り口に、「転用・応用」と「逆転」という2つの発想パターンがなぜ重要なのかを解説し、2025〜2026年の生成AI時代における具体的な応用方法までまとめました。

本記事を読むと、明日からの企画会議やブレストで「どの方向に頭を動かせば革新につながるか」が見えるようになります。

結論:革新的ビジネスモデルを生む発想パターンは「転用・応用」と「逆転」

先に結論をお伝えします。世界で活躍する科学者・芸術家・経営者の発言を分析した井上達彦先生の研究によれば、革新的なビジネスモデルは「転用・応用」と「逆転」という2つの発想パターンから生まれることが多いとされています。

つまり、ゼロから何かを生み出すのではなく、「別の業界・別の領域で成功しているものを自社に持ち込む(転用・応用)」か、「業界の常識を真逆にひっくり返す(逆転)」かのどちらかの頭の使い方を日常的に繰り返すことで、革新的な発想にたどり着けるのです。

具体的には、ヤマト運輸の小倉昌男氏やニトリの似鳥昭雄会長は転用・応用型、元LINEの森川亮氏や「俺の」シリーズの坂本孝氏は逆転型、元セブンイレブンの鈴木敏文氏や楽天の三木谷浩史氏は両方を使いこなすバランス型と分類されています。

背景:なぜ2026年の今、あらためて発想法を学び直す必要があるのか

本記事の元になった論考は、早稲田大学の井上達彦先生が一橋ビジネスレビュー(2018年SUM.66巻1号)の連載最終回で発表された、科学者・芸術家・経営者の発言内容を分析し、それぞれがどのような発想・思考を行っているのかを明らかにした研究です。

井上先生といえば、模倣の経営学シリーズでも有名で、ビジネスにおける「真似の技術」を学術的に整理した先駆者として知られています。

2026年の今、発想法の重要性はむしろ増しています。生成AIが企画書の壁打ちや市場調査を肩代わりしてくれる時代になり、人間側に残された価値は「何を問うか」「どの方向に発想を飛ばすか」というフレーミングの力に集約されつつあります。AIに投げるプロンプトの質は、そのまま発想法の引き出しの多さに比例します。だからこそ、転用・応用と逆転という普遍的なフレームを押さえておく価値があります。

イノベーションを起こす人に共通する5つのスキルでも触れている通り、革新を起こす人は個人の才能というより、発想の型と行動パターンを意識的に繰り返しています。

オズボーンのチェックリストとは何か

井上先生の分析の軸になっているのが、ブレインストーミングの提唱者であるアレックス・F・オズボーンが作ったオズボーンのチェックリストです。これは既存のアイデアや製品に対して9つの切り口で問いかけることで新しい発想を強制的に生み出すフレームワークです。

9つの切り口は、・転用(他に使い道はないか)・応用(似たものはないか、真似できないか)・変更(意味・色・形・動きを変えられないか)・拡大(大きく、強く、頻度を増やせないか)・縮小(小さく、軽く、省略できないか)・代用(人・物・材料を代えられないか)・置換(順序や配置を入れ替えられないか)・逆転(上下・前後・役割を反対にできないか)・結合(他のアイデアと組み合わせられないか)、という9つです。

オズボーンのチェックリスト

この9つのうち、革新的な発想を生む上で特に効果が高いのが「転用・応用」と「逆転」だというのが、井上先生の研究から浮かび上がった知見です。ブレストの場でアイデアを拡散させる一般的なテクニックについてはアイデアを沢山出すためのファシリテーションスキルも参考になります。

科学者・芸術家の発想パターンと経営者の分類

井上先生は連載の中で、科学者・芸術家・経営者の発言内容を分析し、それぞれがオズボーンのチェックリストのどのパターンに該当する発想をしているかを整理しました。

科学者は「転用・応用」型が多い

例えば、湯川秀樹山中伸弥教授はオズボーンのチェックリストでいう「転用・応用」的発想・思考が多いとされています。山中教授のiPS細胞研究も、別の分野で確立された手法を応用することで生まれた成果として説明できます。

芸術家は「逆転」型が多い

一方、岡本太郎村上隆「逆転」的発想・思考が多いことが紹介されています。既成の価値観を真逆にひっくり返すことで、これまで誰も見たことのない表現を生み出してきました。

経営者も3タイプに分かれる

この分析を革新的なビジネスモデルを生み出した経営者たちで行った結果、次のように分類されました。

タイプ 発想パターン 該当する経営者
科学者型 転用・応用が多い ヤマト運輸・小倉昌男氏/ニトリ・似鳥昭雄会長
芸術家型 逆転が多い 元LINE・森川亮氏/「俺の」シリーズ・坂本孝氏
バランス型 転用・応用と逆転の両方 元セブンイレブン・鈴木敏文氏/楽天・三木谷浩史氏

ここから読み取れるのは、世界で活躍する科学者・芸術家・経営者のいずれもが転用・応用と逆転を多用しているという共通点です。この2つの発想を使いこなせるかどうかが、革新的なビジネスモデルを生む分岐点になります。

井上先生が本連載で強調したこと

記事の中で井上先生は次のように書かれています。

本連載では「転用・応用」や「逆転」が特に重要な発想法であることを踏まえ、
それぞれ「模倣」(模範教師からの学び)と
「逆転」(反面教師からの学び)として紹介してきた。

一橋ビジネスレビュー 2018 SUM P.188

重要なのは、「模倣」が単なるコピーではなく「模範教師からの学び」として位置づけられている点です。優れた事例の構造を理解し、自社の文脈に合わせて再構築することが本物の転用・応用です。同じく逆転も単なる反抗ではなく、「反面教師からの学び」、つまり業界の常識のどこに歪みがあるのかを見極める行為だと整理されています。

2025〜2026年の具体例で見る「転用・応用」と「逆転」

2018年の研究時点からビジネス環境は大きく変化しました。生成AI、サブスクリプションの成熟、プラットフォーム経済の定着、サステナビリティ起点のビジネスなど、新しい事例で発想パターンを見直してみます。

転用・応用の最新例

SaaSで確立されたサブスクリプションモデルは、自動車・家具・衣料・飲食など、かつてはサブスクと無縁だった業界に次々と転用されています。これは典型的な「他業界のビジネスモデルの転用」です。また、生成AIチャットのUI/UXが設計ツール・営業支援・カスタマーサポートなどあらゆる業務ソフトに組み込まれているのも、汎用技術の応用の典型例です。

逆転の最新例

所有から利用へ、広告課金から課金なし、店舗中心からオンライン中心、説明中心から体験中心など、これまでの業界常識を真逆にした事業はいずれも「逆転」の発想から生まれています。近年ではサステナビリティ起点で「売上最大化」を捨て「資源循環最大化」に振り切るビジネスも登場しており、これもゴール設定を逆転させた発想です。

バランス型の最新例

生成AIのB2Bサービスは、既存業務を応用しながらも、UIや課金モデルを大胆に逆転させる企業が成功しているケースが多く見られます。新規事業立ち上げのためのエフェクチュエーションの5原則で紹介している行動原理と合わせて読むと、不確実性の高い環境でどう発想を回すかが立体的に見えてきます。

明日から日常に取り入れる3つの問い

革新的なビジネスモデルを作りたいのであれば、転用・応用と逆転を日常の問いに落とし込むのが近道です。会議や企画検討の場で、次の3つの問いを習慣化するところから始めてみてください。

問い1(転用):この課題に似た構造の成功事例は、別の業界・別の国・別の時代にないか?

問い2(逆転):この業界の「当たり前」のうち、逆にしたら面白くなるものはどれか?

問い3(結合):転用した要素と逆転した要素を組み合わせたら、どんな新しい価値が生まれるか?

この3つの問いをブレストのテンプレにしておくだけでも、参加者の視点が「既知の延長線」から「構造の組み替え」に切り替わります。アイデアが出た後の実行段階ではブレストで出たアイデアはなぜ実行されないのか?とその対策も合わせて参照してください。


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