ストレスチェック義務化から10年が経過し、企業のメンタルヘルス対策は「制度の有無」ではなく「運用の質」が問われるフェーズに入りました。その中で、従業員自身が日常的に実践できるセルフケア技法の需要が高まっています。

本記事ではセルフケアのための代表的なリラクゼーション法である自律訓練法を紹介します。名前は専門的ですが、実践はシンプルで、職場や自宅で数分でできる手法です。

自律訓練法とは

自律訓練法(Autogenic Training)は、1932年にドイツの精神科医ヨハンネス・ハインリッヒ・シュルツによって体系化された自己催眠を応用した心身のリラクゼーション法です。

自律神経のバランスを整える効果があることから、自律神経失調症・不眠・ストレス性疾患の治療にも使われていますが、治療目的に限らず、健康な人のセルフケアとしても広く活用されています。

実践はシンプルで、7つの公式と呼ばれる決まった言葉を心の中で唱えながら、身体の各部位に意識を向けていくだけです。1回10分程度で、慣れればどこでも実施できます。

自律訓練法 7つの公式

【引用・参考文献】総監修:渡邊 昌、和田 攻『100歳まで元気人生!「病気予防」百科』日本医療企画

自律訓練法の7つの公式

自律訓練法には7つの公式があり、背景公式と第1〜6公式で構成されています。

背景公式(安静練習)

まずは安静練習からスタートします。「気持ちが落ち着いている」ということを目を閉じてイメージします。単にイメージするだけでなく、実際に「気持ちが落ち着いている」と声に出すのも効果的です。

第1公式(重感練習)

両手両足が重たいとイメージします。重力にゆだねられる感覚を感じることで、身体の力が抜けていきます。

第2公式(温感練習)

両手両足が温かいとイメージします。手足の末端まで血流が行き渡っていく感覚を感じます。

背景公式・第1公式・第2公式を実践するだけでも、十分なリラックス効果が得られると言われています。忙しいビジネスパーソンは、この3ステップまでで止めても構いません。

第3公式(心臓調整練習)

心臓が規則正しく動いていることをイメージします。自分の心拍に意識を向けることで、呼吸や循環が整います。

第4公式(呼吸調整練習)

楽に呼吸していることをイメージします。呼吸を意識的にコントロールしようとせず、自然に任せます。

第5公式(腹部温感練習)

お腹が温かいことをイメージします。内臓のある腹部に温かさを感じることで、深い部分の緊張が緩みます。

第6公式(額部涼感練習)

おでこ(額)が涼しいことをイメージします。ここで初めて「涼しい」という感覚が登場するのが興味深い点です。頭部を涼しく保ちながら身体の他の部分は温かい、という理想的なリラックス状態を作ります。

消去動作

7つの公式を実施した後は、必ず消去動作で締めます。消去動作は背伸び・腕の屈伸などを行い、身体のだるさを取っていきます。これを行わないと、リラックス状態のまま日常に戻って逆に活動しにくくなることがあります。

自律訓練法の効果と実証研究

「本当にこんな簡単な方法で効果があるの?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。自律訓練法の効果は複数の研究で報告されています。

自律訓練法の有効性と効果に関する研究
-自己のリサイタルを対象として-

新山 眞弓
実技教育研究 (18), 49-56, 2004-03

CiNii論文リンク

上記の研究では、ピアノのリサイタル前の緊張対策として自律訓練法を取り入れた結果、効果があったことが報告されています。大きな本番やプレゼン前の緊張対策としても活用できる手法です。

職場で実践するタイミング

自律訓練法は10分程度でできるため、職場の休憩時間にも実践可能です。

朝の仕事開始前: 1日の始まりの気持ちを整える
ランチ後の眠気がある時: 短い仮眠代わりに
大きな会議・プレゼン前: 緊張を和らげる
帰宅前: 1日の疲れをリセット
就寝前: 寝つきを良くする

重要なのは継続することです。1回実践しただけでは効果は限定的で、2〜3週間続けることで身体がリラックス状態に入りやすくなっていきます。

セルフケアの他の手法

セルフケアには自律訓練法以外にも様々な手法があります。目的や好みに合わせて使い分けるのが理想です。

セルフケア研修で伝えたい嫌なことがあったときのコラム法
対人ストレスに対する3種類のコーピングと具体例
本質的なストレス対処法 SOC
セルフケア研修で使えるストレス点数表
メンタルヘルス対策で行うべき3つの予防

関連研修のご紹介|「攻略!きみのストレスを発見せよ!」

弊社では、セルフケアのスタートラインである自分のストレサーを言語化することをゲームで体験できる「攻略!きみのストレスを発見せよ!」を提供しています。参加者同士がカードを使って自分のストレサーを探り、他者の視点を借りて気づいていなかったストレス要因を言語化することで、自律訓練法のような個人技法を効果的に使う前段階となる「ストレサーの自己認識」を高めるワークです。

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参考書籍

まとめ

自律訓練法は7つの公式を用いて心身をリラックスさせる、1932年から受け継がれる伝統的なセルフケア手法です。1回10分程度でできるシンプルな実践ながら、継続することで自律神経のバランスを整える効果が期待できます。

ストレスの多い現代のビジネスパーソンにとって、職場・自宅・移動中などどこでもできるセルフケアツールとして覚えておく価値が高い手法です。


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