医療現場のチームワークについて学ぶ「多職種連携コンピテンシー」
今回は職場でのチームワークを高めるために、医療現場で伝えられている多職種連携コンピテンシー(Interprofessional Competency)を紹介します。
そもそも、なぜ職場でのチームワークを高めるために、医療現場のノウハウを知る必要があるのでしょうか。それは、チームワークが乱れると最悪の場合、患者の命に関わる医療現場こそ、チーム協働の知見が最も蓄積されている分野だからです。
医師・看護師・薬剤師・リハビリ職・介護職・ソーシャルワーカーなど、職種も専門性も役割もバラバラな人々が、一人の患者を中心にチームを組む。この構図は、営業・開発・マーケ・CS・経理などが一人の顧客(または一つのプロジェクト)を中心に連携する一般企業の「部署間連携」と驚くほど似ています。
過去記事では、医療現場で使われる報連相のフレームワーク「SBAR」もご紹介しました。本記事と併せて読むことで、医療現場のチームワークの知見をより立体的に理解できます。

看護の現場で使われている「報告」のやり方〜SBAR法〜
本記事では、チーム協働を体系化した「多職種連携コンピテンシー」の枠組みを、一般企業の部署間連携にどう応用できるかまで含めて解説します。
多職種連携コンピテンシーとは
多職種連携コンピテンシー(Interprofessional Competency)とは、異なる専門性を持つ職種が、共通の目標に向かって協働するために必要な能力の枠組みです。
この概念を体系化したのは英国の連携教育推進センター(CAIPE)で、日本では2016年に「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー Version1.0」として筑波大学などの研究チームによってまとめられました。
もともとは医療・保健・福祉分野の人材育成のために整理された枠組みですが、「異なる専門性の人がチームで動くために必要な能力」という定義は、どんな業種・職種にも応用できます。
・一人の顧客(患者)に対して、複数の専門職が関わる
・各職種の判断・行動がつながり、最終的な成果につながる
・コミュニケーションの齟齬が、直接的な損失(事故・クレーム・失注)に結びつく
つまり医療現場のチームワーク理論は、部署を越えて動く現代のビジネスチームにとって、そのまま使える実践知なのです。
多職種連携能力のコア・コンピテンシー
まず紹介したいのが、多職種連携能力のコア・コンピテンシーと呼ばれる下の図です。

この図は、英国の連携教育推進センター(CAIPE)のHugh Barr教授が提唱した多職種連携のためのコア・コンピテンスで、3つの能力領域から構成されています。
Complementary(補完的能力)は、他の専門職を補完できる専門職能力を指します。例えば医師の診断を補完する看護師のバイタル観察や、営業の提案を補完するエンジニアの技術的実現性評価がこれに当たります。自分の専門性を磨くことで、他職種の働きを支える能力です。
Common(共通能力)は、職種を問わず全員が持つべき共通能力です。代表的なものがコミュニケーション能力で、傾聴力・言語化力・相手の立場に立つ力などが含まれます。
Collaborative(協働能力)は、他の専門職と協働するために必要な能力です。役割分担の調整、意見の違いを乗り越える対話力、チームとしての意思決定への参加などが含まれます。
特に3つ目のCollaborativeに焦点を当てて日本で作成されたのが、次に紹介する「多職種連携コンピテンシー」の枠組みです。
2つのコアドメインと4つのサブドメイン
日本の多職種連携コンピテンシー(Interprofessional Competency in Japan)は、2つのコアドメインと、それを支える4つのサブドメインの計6要素で構成されています。

出典: 花王プロフェッショナル・サービス「多職種連携コンピテンシー」
コアドメイン1: 患者・利用者・家族・コミュニティ中心
引用: 医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー Interprofessional Competency in Japan
http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/mirai_iryo/pdf/Interprofessional_Competency_in_Japan_ver15.pdf
「患者中心」という表現を「顧客中心」に読み替えれば、一般企業にそのまま適用できます。部署が違っても、最終的に目指すのは顧客の課題解決です。この共通目標に全員が焦点を合わせられるかが、部署間連携の質を決めます。
コアドメイン2: 職種間コミュニケーション
ここで重要なのは「互いに、互いについて、互いから」という3方向のコミュニケーションです。単に情報を伝えるだけでなく、相手の職種そのものを理解しようとする姿勢、相手から学ぼうとする姿勢が求められます。
サブドメイン: コアドメインを支える4つの能力
⇒互いの役割を理解し、互いの知識・技術を活かし合い、職種としての役割を全うする。
関係性に働きかける
⇒複数の職種との関係性の構築・維持・成⻑を⽀援・調整することができる。また、時に⽣じる職種間の葛藤に、適切に対応することができる。
自職種を省みる
⇒⾃職種の思考、⾏為、感情、価値観を振り返り、複数の職種との連携協働の経験をより深く理解し、連携協働に活かすことができる。
他職種を理解する
⇒他の職種の思考、⾏為、感情、価値観を理解し、連携協働に活かすことができる。
4つのサブドメインを眺めると「これができれば苦労しない」と感じるかもしれません。しかし、この4つが整理されていること自体に価値があります。チーム不全の原因を特定するとき、どのドメインが弱いのかを切り分けられるからです。
医療現場から一般企業へ—部署間連携への翻訳
多職種連携コンピテンシーの枠組みは、そのまま一般企業の「部署間連携」に翻訳できます。
コアドメイン1「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」は、一般企業で言えば顧客志向・チーム志向・ビジョン志向です。顧客起点で考えているか、個人成果ではなくチーム成果を追っているか、組織全体の理想像を共有しているか、ということです。
コアドメイン2「職種間コミュニケーション」は、一般企業で言えば心理的安全性と相互尊重です。営業と開発、本社と現場、ベテランと若手が、立場の違いを超えて率直に意見・知識・価値観を伝え合えるかが問われます。
4つのサブドメインもビジネスに翻訳できます。
・「職種としての役割を全うする」→ 自部門の専門性を高め、他部門が頼れる存在になる
・「関係性に働きかける」→ 部門間の対立を放置せず、ファシリテーションで解決に導く
・「自職種を省みる」→ 自部門の常識・前提・価値観を客観視する
・「他職種を理解する」→ 他部門の業務・制約・KPIを学ぶ機会を設ける
このように読み替えると、多職種連携コンピテンシーは医療職に限らず、あらゆる組織のチーム力を診断する共通言語として使えることが分かります。
多職種連携コンピテンシーを高める3つの実践アプローチ
理論を知るだけでは行動は変わりません。ここでは4つのサブドメインを実務で伸ばす3つの具体的なアプローチを紹介します。
1. 他職種(他部門)理解の勉強会
月1回程度、各部門が自部門の業務・用語・KPI・繁忙期・よくある悩みをプレゼンする社内勉強会を開催します。「他職種を理解する」が自然に進むだけでなく、「自職種を省みる」機会にもなります。
2. 共通言語としての情報共有テンプレート
医療現場のSBARのように、部署を越えた報連相のテンプレートを共通化します。状況(Situation)・背景(Background)・評価(Assessment)・提案(Recommendation)の4項目を揃えて伝えるだけで、情報の抜け漏れが激減します。
体験型研修で協働を疑似体験する
座学で「他部門を理解しよう」と伝えても、実感がなければ行動は変わりません。異なる役割を担って一つの目標を目指すビジネスゲームを使うと、短時間で多職種連携の成功体験と失敗体験の両方を得られるため、研修効果が高まります。
職場における3つの支援(情緒的支援・情報的支援・道具的支援)も、他職種への具体的な関与を促すフレームワークとして有用です。

多職種連携を疑似体験できるチームビルディングゲーム
ここでは、多職種連携コンピテンシーの要素を体験的に学べるチームビルディング研修ゲームを2つご紹介します。
プロジェクトテーマパーク

プロジェクトテーマパークは、テーマパーク建設プロジェクトを題材にしたプロジェクトマネジメント体験ゲームです。参加者はそれぞれ異なる役割カードを持ってチーム協働でプロジェクトを完遂します。プロジェクトオーナー・エンジニア・デザイナーなど役割が分かれており、多職種連携における「職種としての役割を全うする」「他職種を理解する」「関係性に働きかける」が自然と要求されます。
ヌーラボ社との共同開発で、見積もり精度・役割分担・情報共有の難しさを1日で体験できます。

2026年4月現在、プロジェクトテーマパークの導入社数は約100社、受講者満足度は4.9(5点満点)となっております。
スペック
推奨人数: 3〜100名
所要時間: 2〜3時間
形式: カード版(対面)・Web会議にも対応可
料金: レンタル5万円〜/講師派遣15万円〜
詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
プロジェクトテーマパーク紹介ページ
チームクリップ

チームクリップは、自律型人材の育成を目的としたゲーム型研修です。主体性とタイムマネジメントがチーム成果を左右する構造になっており、指示待ちではなく、自ら動きながら他メンバーと連携する経験を積めます。
多職種連携コンピテンシーで言えば、「自職種を省みる」(自分の働き方の振り返り)と「関係性に働きかける」(能動的に周囲と連動する)を重点的に鍛える研修として適しています。2025年にリリースされた新しい研修ゲームで、若手・中堅の自律化を狙う企業に特に活用されています。
スペック
推奨人数: 3〜100名
所要時間: 2〜4時間
形式: 講師派遣(対面)・Web会議対応
詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
チームクリップ紹介ページ
お問い合わせ
プロジェクトテーマパーク・チームクリップの研修導入をご検討の方は、以下フォームよりお気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、医療現場のチームワーク理論「多職種連携コンピテンシー」を、一般企業の部署間連携に応用する視点から解説しました。
要点は次の3つです。第一に、多職種連携コンピテンシーは「2つのコアドメイン×4つのサブドメイン」という診断可能な枠組みであり、チーム不全の原因を特定する共通言語として使えること。第二に、医療現場の「患者中心」は一般企業の「顧客中心」に、「職種間コミュニケーション」は「心理的安全性」にそのまま翻訳できること。第三に、理論を行動に変えるには、他部門理解の勉強会、共通テンプレートの導入、体験型研修の3つのアプローチが有効なこと。
異なる専門性を持つ人が一つの目標に向かって協働する力は、医療現場に限らず、すべての組織の競争力を支えます。まずは自分のチームで、2つのコアドメインのどちらが弱いかを見極めるところから始めてみてください。
