全5回に分けてESG研修で伝えたい10のトピックを解説しています。第3回目の本記事では、5.ニュー資本主義6.ESG投資とPRIの2つを取り上げ、研修担当者が企業内でESGを伝える際の論点整理と、2026年時点のESG投資動向を踏まえた補足を行います。

結論:本記事で押さえる2つのポイント

ニュー資本主義は「環境社会への影響考慮への賛否」と「考慮すると利益が増えるか減るか」の2軸で整理でき、日本企業の多くは「考慮すべきだが利益は減る」と捉えるオールド資本主義象限に位置する
PRI(責任投資原則)は2006年に国連が発表した6つの原則で、機関投資家を起点にESGを推進させるレバレッジ戦略として機能している

シリーズ全10トピックの位置づけ

本シリーズで取り上げるESG研修の10トピックは以下の通りです。

1.ESGとは何か?
2.ESGとSDGsの違い
3.サーキュラーエコノミー
4.SASBマテリアリティマップ
5.ニュー資本主義
6.ESG投資とPRI

7.非財務情報
8.SASBスタンダード
9.エシカル消費
10.バックキャスティング

前後の記事もあわせてご覧ください。

・1回目:ESG研修で伝えたい10のトピック〜その1〜
・2回目:ESG研修で伝えたい10のトピック〜その2〜

5.ニュー資本主義

ニュー資本主義の2軸マトリクス
画像引用:Biz/Zine「ニュー資本主義の4象限」

ESGの議論におけるニュー資本主義は、日本政府が掲げる「新しい資本主義」とは別概念です(内閣官房「新しい資本主義実現本部」はいわゆる岸田政権発案の政策パッケージ)。

ESG文脈のニュー資本主義は上図のような2軸4象限で整理されます。

・縦軸:「環境・社会への影響考慮」に賛成か反対か
・横軸:「環境と社会への影響を考慮すると利益が増えるか、減るか」

4象限のうち、日本企業の多くは「配慮すべきだが配慮すると利益は減る」と捉えるオールド資本主義象限(4象限)に属していると言われています。

研修担当者が自社で議論を促すときのポイントは、「配慮すると利益が減る」という前提を所与にせず、配慮しつつ利益を上げる方法を探索する思考に受講者を誘導することです。実際、2020年代以降は気候変動リスクの財務指標化(TCFD開示など)が進み、ESG配慮を怠るほうが長期的には利益を損なう構造が強まっています。

6.ESG投資とPRI

PRI 6つの責任投資原則
画像引用:日本経済新聞 IRフォーラム「PRI 責任投資原則」

ESGはESG投資という言葉で語られる場面が多く、その起点となったのが2006年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が発表したPRI(Principles for Responsible Investment/責任投資原則)です。PRIは機関投資家向けの6原則からなります。

PRIのユニークさ:企業ではなく投資家に働きかける構造

PRIの最大のユニークさは、直接企業にESGを求めるのではなく、機関投資家にESG推進企業への投資を促す設計です。投資フローをレバレッジとして、企業側にESG取組みを「自発的に」加速させる仕組みになっています。

間接的にではありますが、次のような圧力が企業にかかります。

1. ESG取り組みが遅れている企業への投資が減る
2. 時価総額が競合に対して伸びない
3. 株価低迷でCEOが退任に追い込まれる

企業経営層がESGを経営アジェンダに押し上げざるを得ない構造が、PRIを起点に形成されたといえます。

2006年から20年で拡大したPRI署名機関

PRI署名機関の数は2006年のスタート時63機関から、2020年代には全世界で5,000機関を超える規模にまで拡大しました(PRI公式年次報告より)。日本でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年にPRI署名を行い、国内機関投資家のESG投資意識を一気に押し上げました。

つまりESG投資は「意識の高い一部投資家のテーマ」ではなく、機関投資家のメインストリーム運用指針になっているのが2020年代後半の現状です。

研修で伝える際の2つのチェックポイント

本記事の2トピックを研修で扱う際の伝え方のコツを整理します。

ニュー資本主義:自社が4象限のどこに属するかを受講者に考えさせる。単に「配慮すべき」と教えるのではなく、「配慮しながら利益を上げる」発想への転換を促す
ESG投資とPRI:「投資家→企業」というレバレッジ構造を図解で示す。自社の時価総額や株価・格付けにESGスコアがどう影響するかを実例ベースで示すと、現場の腹落ちが早い

ESG・サステナビリティ研修の推薦書

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よくある質問

Q. ESG研修とSDGs研修は同じですか

異なります。SDGsは2030年までの国際開発目標(17のゴール)で社会課題ドリブン、ESGは企業の経営・投資における非財務評価軸で投資家ドリブンです。重なる領域はありますが、対象者(従業員/経営層/投資家)と指標体系が異なるため、研修設計も分けるのが望ましいです。詳しくはシリーズ第1回で整理しています。

Q. ESG投資は短期リターンを犠牲にしますか

従来は「倫理的だがリターンは劣る」との見方もありましたが、近年のメタ分析ではESG投資が長期で同等以上のリターンを生むケースが多いことが報告されています。短期のコストと長期の機会という視点で捉えるのが実務的です。

Q. 中小企業にもESG対応は必要ですか

大企業のサプライチェーンに入る中小企業には「Scope3(サプライチェーン排出量)」の文脈でESG情報開示が要求されます。直接投資対象でなくとも取引先評価を通じてESG取組みが問われる時代に入っています。

まとめ

第3回ではニュー資本主義の2軸整理と、PRIを起点としたESG投資の構造を解説しました。次回以降のトピック(非財務情報/SASBスタンダード/エシカル消費/バックキャスティング)もあわせて、ESG研修の体系化にお役立ていただければ幸いです。


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