組織市民行動(OCB)5次元6効果インフォグラフィック

「誰に頼まれたわけでもないのに、困っている同僚を助ける」「会議の後に机をそっと片付けてくれる」——こうした命令されなくても組織のために自主的に動く社員の行動のことを、経営学では「組織市民行動(OCB: Organizational Citizenship Behavior)」と呼びます。

OCBは、1988年にインディアナ大学のデニス・オーガン教授が提唱した概念で、職場の生産性や人間関係を支える隠れた要素として多くの経営学研究で取り上げられてきました。

この記事では、組織市民行動の定義から、5つの次元、6つの効果、そしてデメリットや促進方法まで、Organ教授の原典と国内の実証研究をベースに網羅的に解説します。

組織市民行動(OCB)とは?

組織市民行動とは、ひとことで言うと「命令されなくても、自主的な行動によって組織の効率を高める行動」のことです。英語では Organizational Citizenship Behavior と呼び、頭文字をとって OCB と略されます。

オーガン教授はこの概念を、従来の「職務遂行行動(タスク・パフォーマンス)」だけでは説明できない組織の生産性の差に着目するなかで提唱しました。組織の中には、給与や評価と直接ひもづかないのに、自発的に周囲を助け、組織全体を良くしようとする行動を取る人がいます。OCBはまさにこうした「組織に貢献する任意の行動」を捉えた概念です。

デニス・オーガン教授による定義

オーガン教授は組織市民行動を次のように定義しています。

1. 任意の行動であり
2. 公式の報酬システムによって直接もしくは明確に承認されているものではなく
3. 集合的に組織の効率を促進するもの

堅苦しく聞こえますが、平たく言えば「やらなくても罰せられないけれど、やると組織が少し良くなる行動」です。

組織市民行動の3つの特徴

Organ の定義から浮かび上がる OCB の特徴は次の3つです。

任意性: 強制されない、自発的な行動である
報酬非直結: 人事評価や給与に直接リンクしていない
組織効率への貢献: 個人ではなく組織全体の効率を高める

この3つがそろってはじめて OCB と呼べます。たとえば「上司に頼まれたから後輩の相談に乗る」のは任意性がないので OCB ではありませんし、「評価に響くから仕方なく助ける」のも OCB とは言えません。

わかりやすい日常の例

OCB の具体例として、職場でよく見られる行動を挙げます。

・誰にも頼まれていないのに、社内で勉強会を開催する
・忙しそうな同僚の資料作りを、自分の手が空いたタイミングで手伝う
・共有フォルダが散らかっているのを見かねて整理する
・新しいメンバーに、業務マニュアルに載っていない暗黙知を伝える
・会議室を出るときに、ホワイトボードを消して椅子を整える

こうした行動は評価制度の対象にはなりにくいものの、組織の円滑さを確実に底上げしています。

組織市民行動の5つの次元

オーガン教授は組織市民行動を次の5つの次元(要素)に分解しています。

組織市民行動の5つの次元

参考: 中原淳/木村充『職場学習の探究——企業人の成長を考える実証研究』生産性出版(2012)

1. 愛他主義 (Altruism)

「困っている人がいたら、頼まれなくても、評価につながらなくても援助する」という行動です。組織市民行動のもっともわかりやすい典型例で、同僚の仕事を手伝ったり、業務上の知見を惜しみなく共有したりする行動が該当します。

2. 誠実さ (Conscientiousness)

期待される水準を超えて、丁寧・正確に仕事を行う行動です。社会人として当たり前のようにも聞こえますが、「組織に属する市民」として自分の役割を最低限で済ませないという姿勢は OCB の重要な要素です。遅刻をしない、納期を守る、メモを丁寧に取るといった行動が該当します。

3. スポーツマンシップ (Sportsmanship)

スポーツマンシップは「環境や状況のせいにせず、与えられた条件のなかでベストを尽くそうとする姿勢」を指します。組織では、小さな不満や不都合をいちいち口にせず、前向きに取り組む行動が該当します。他責をせず建設的に動ける人は、周囲のモチベーションにも良い影響を与えます。

4. 礼儀正しさ (Courtesy)

礼儀正しさは、同じ職場で働く市民としてお互いの権利を尊重する行動です。具体的には、相手が困らないよう報告・連絡・相談を適切に行ったり、自分の業務が他人に影響する場合は事前に一声かけたりする行動が含まれます。「相手を困らせない配慮」と言い換えるとイメージしやすい次元です。

5. 市民の美徳 (Civic Virtue)

市民の美徳は、職場の活動に関与しようとする積極的な姿勢です。社内の会議に建設的に参加する、組織の課題を自分ごととして考える、職場にゴミが落ちていたら拾う——こうした「組織という共同体に参加している」という意識から生まれる行動が該当します。

5つの次元の早わかり対比表

5次元の違いを一覧で整理すると次のようになります。

次元 行動のエッセンス 職場の具体例
1. 愛他主義 困っている人を援助する 同僚の資料作成を手伝う
2. 誠実さ 期待水準を超える丁寧さ 納期を厳守し丁寧に仕上げる
3. スポーツマンシップ 他責せず前向きに取り組む 小さな不満を抱え込まない
4. 礼儀正しさ 相手を困らせない配慮 影響が出る前に一声かける
5. 市民の美徳 共同体への積極的参加 組織課題を自分ごと化する

組織市民行動がもたらす6つの効果

では、組織市民行動が職場で行われると、具体的にどのような効果が生まれるのでしょうか。オーガン教授らの研究では、次の6つの効果が報告されています。

1. 同僚や管理者の生産性を上げる

同僚が困ったときに即座に助けが入る職場では、問題解決のスピードが速くなります。結果として、個々の従業員の仕事が滞りにくくなり、組織全体の生産性が向上します。

2. 時間資源を自由に使えるようになる

管理者が「誰がどの仕事で困っているか」を逐一フォローしなくても、現場で自発的な助け合いが起きていれば、管理者は本来の戦略的業務に時間を割けるようになります。

3. 同僚同士の調整活動を助ける

礼儀正しさや愛他主義が根付いた職場では、部署間・担当間の調整が自然に進みます。公式の会議や指示を待たずに情報共有が行われるため、コミュニケーションのオーバーヘッドが下がります。

4. 最優秀の従業員を組織に留まらせる

優秀な従業員ほど、「周囲が助け合う文化のない職場」では消耗して離職します。OCB が活発な職場は、結果的にエース人材の定着率を高めます。

5. 環境変化に対する組織の適応能力を高める

変化の激しい環境では、公式のルールだけでは対応しきれない事態が頻発します。自発的に互いを助け合う姿勢がある組織は、未知の課題にも柔軟に対応できます。

6. 社会資本(人脈など)を構築する

組織市民行動が日常的に起きる職場では、自然にメンバー間のつながりが強化されます。この社会資本(ソーシャル・キャピタル)は、長期的に組織の問題解決力を底上げします。

組織市民行動のデメリット・注意点

OCB は一見すると「いいことばかり」に見えますが、過度に推奨しすぎると次のようなデメリットも生まれます。組織市民行動を活用する際には、あわせて理解しておくことが重要です。

1. 従業員の疲弊・燃え尽きリスク

「自発的に助ける」はずの行動が「暗黙のうちに期待される行動」になると、従業員は断りにくくなり、やがて疲弊します。特に真面目で誠実な人ほど OCB に引きずられて、自分の本来業務や私生活を犠牲にしがちです。近年では Citizenship Fatigue(市民行動疲労) という概念も指摘されるようになっています。

2. 評価の不公平感

OCB は公式の報酬体系に直接連動しないのが前提ですが、現場では「OCB をたくさんする人ほど評価されやすい」という暗黙のバイアスが働きがちです。これが続くと、OCB を取らない(もしくは取れない)従業員が「正当に評価されていない」と感じる原因になります。

3. 本来業務の遅延

愛他主義が強すぎるメンバーは、自分の担当業務を後回しにしてまで他人を助けてしまうことがあります。短期的には職場の雰囲気が良くなりますが、中長期では本人の成果が下がり、自身の評価や成長にもマイナスが生じます。

組織市民行動を促進する際には、「無理のない範囲」「断っても評価されない」という前提を組織として明示することが、これらのデメリットを避ける鍵になります。

組織市民行動を促すには?3つの施策

組織市民行動を促進するには、具体的にどうすればいいのでしょうか。国内研究の代表例として、藤澤広美氏の論文(2017)を参照すると、経営者の行動とビジョン、ソーシャル・サポート、OJT が効果的であると報告されています。

藤澤 広美(2017)「組織市民行動を促す上司の行動に関する探索的研究: 若年層従業員と中堅層従業員に着目して」

https://cir.nii.ac.jp/crid/1390009224857682432

組織市民行動を促す上司の行動

経営者の行動とビジョン

「経営者が常に組織全体の業績向上に向けて努力している」「会社のビジョンや経営戦略が末端まで周知されている」といった状態を指します。トップの言動が組織のロールモデルになることで、従業員も「この組織のために自主的に動こう」と感じやすくなります。

ソーシャル・サポート

職場内で互いに支え合う関係性のことです。ソーシャル・サポートには情緒的サポート、道具的サポート、情報的サポート、評価的サポートの4種類があります。詳しくはストレス軽減のための4種類のソーシャルサポートの記事で解説しています。

OJTを通じた暗黙知の伝承

先輩から後輩へ、日々の業務を通じて暗黙知が伝わる環境は、OCB の土壌になります。OJT はスキル習得だけでなく「この組織で貢献することの意味」を学ぶ機会でもあります。

年齢層別 施策効果の対比表

藤澤論文のなかでとくに興味深いのは、年齢層によって効果的な施策が異なるという点です。

施策 若年層(若手)への効果 中堅層への効果
経営者の行動とビジョン ◎ とくに有効
ソーシャル・サポート ◎ とくに有効
OJT ◎ とくに有効

若手社員には経営者のビジョン発信が OCB を引き出しやすく、中堅層にはソーシャル・サポートや OJT が効果的という結果でした。世代によって OCB の促進レバーが異なる点は、研修や制度設計に示唆を与えてくれます。

日本企業での具体的な組織市民行動を知りたい方へ

本記事では Organ 教授のオリジナル理論(5次元)を中心に解説しましたが、日本企業の文脈での具体的な組織市民行動の項目については、日本版の組織市民行動尺度を紹介した別記事があります。

組織市民行動の具体的な行動(日本版の組織市民行動尺度より)

日本企業の現場で「どんな行動が組織市民行動にあたるのか?」を具体的にイメージしたい方は、こちらもあわせてご参照ください。理論と現場の両方の視点を持つことで、組織市民行動の促進策をより効果的に設計できます。

組織市民行動を高めるための研修アプローチ

組織市民行動は、個人の資質だけで決まるものではなく、職場の空気や心理的安全性、相互理解の度合いに強く左右されます。したがって、OCB を促したい企業にとっては、職場の相互理解や心理的安全性を高める体験型の研修が有効なアプローチになります。

弊社では、心理的安全性を知り、高めるゲーム型研修や、相互理解を深めるチームビルディング研修を提供しており、どちらも組織市民行動の土壌作りに効果的です。心理的安全性については、誤解されがちなポイントも多いため、心理的安全性についてのよくある誤解の記事もあわせてご覧ください。

まとめ|組織市民行動を理解して、自発性の高い組織をつくる

組織市民行動(OCB)は、命令や評価制度では引き出せない「自発的な組織貢献行動」を捉える重要な概念です。

・組織市民行動 = 任意性 + 報酬非直結 + 組織効率への貢献
・5つの次元(愛他主義/誠実さ/スポーツマンシップ/礼儀正しさ/市民の美徳)で構成される
・6つの効果(生産性向上/時間資源の自由化/調整活動/人材定着/適応力/社会資本)がある
・一方で、燃え尽きリスクや評価の不公平感などデメリットもあるため「無理のない範囲」の前提が必要
・促進には、経営者のビジョン、ソーシャル・サポート、OJT の3施策が有効(年齢層で効果が異なる)

組織市民行動は、仕組みで強制するものではなく、職場の土壌を整えることで自然に育てるものです。心理的安全性や相互理解を高める取り組みと合わせて、長期的な視点で育てていきましょう。

参考書籍:


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