両利きの経営に必要な4つの成功要因|組織の壁を越え深化と探索を両立する方法

その実現には、オライリー氏らが提唱する「戦略意図の明確化」「経営陣の関与と保護」「成熟部門との最適な距離感バランス」「共通のアイデンティティ」という4つの成功要因が不可欠です。
既存事業の圧力から新規事業を守りつつ、共通のビジョンを掲げて組織の壁を越えることがイノベーション創出の鍵となります。
目次
1. 両利きの経営とは|知の探索×知の深化
2. 両利きの経営の4つの成功要因(必要条件)
3. 自社の両利き度合いをセルフチェック
4. まとめ
前回は両利きの経営を”知の探索3事例”の視点から紹介しました。
「両利きの経営」実現のための「知の探索」の事例3選
今回は、両利きの経営を実現するために必要な組織的な条件=4つの成功要因(必要条件)を整理します。2025年現在もイノベーション経営・新規事業立ち上げの場面で参照される定番フレームワークです。

両利きの経営とは|知の探索×知の深化
両利きの経営は知の探索(exploration)と知の深化(exploitation)の両輪を回そうとする経営の考え方です。
| 要素 | 意味 | 日常生活で例えると |
|---|---|---|
| 知の探索 | 未知の領域で試行錯誤し、知識範囲を広げる | 新しいラーメン屋を開拓する |
| 知の深化 | 既存の知識を使いこなし、精度を高める | 行きつけの店でトッピングを工夫する |
いつものお気に入りの店で十分満足かもしれませんが、店主の高齢化やビルの取り壊しで突如として閉店する日はやってきます。
事業でも同じで、音楽を聞く媒体がレコード→CD→MD→データ→サブスクと移り変わったように、一夜にして事業形態の前提が変わります。そこで備えて、当たるか外れるかわからない知の探索を止めないことが大切になります。
両利きの経営の4つの成功要因(必要条件)
【要点】両利きの経営を成功させるには、オライリー&タッシュマンが提唱する4つの成功要因が不可欠です。具体的には、なぜ探索が必要かを明確にする「戦略意図の明確化」、新規事業を保護する「経営陣の関与と保護」、既存事業との最適な距離感を保つ「最適な距離感のバランス」、そして組織全体で共有する「共通のアイデンティティ」が挙げられます。これらは必要条件であり、組織の壁を越え、深化と探索を両立させるための基盤となります。
頭ではわかるけど、ついお気に入りの店(既存事業)に甘えがち、新規開拓(新規事業)は失敗も多い……というのが、多くの企業が”知の探索”に踏み切れない実態です。
そこで、オライリー&タッシュマンが整理した両利きの経営の4つの成功要因を押さえておきましょう。ただし、これは必要条件であって十分条件ではありません(これがあれば必ず成功する、ではない)。

| No | 成功要因 | 要旨 |
|---|---|---|
| ① | 戦略意図の明確化 | なぜ探索と深化の両方が必要なのかを言語化する |
| ② | 経営陣の関与と保護 | 新規事業に経営陣が直接関与し、既存事業からの圧力から守る |
| ③ | 最適な距離感のバランス | 組織的独立+物理的距離+インターフェイスの設計 |
| ④ | 共通のアイデンティティ | 新規/既存を貫く共通ビジョン・価値観・文化 |
①戦略意図の明確化|”なぜ探索が必要か”を語り切る
探索と深化が必要であることを正当化する、明確な戦略意図を持つことが1つ目の必要条件です。
これは単に「イノベーションしよう」と言うのではなく、自社が置かれた状況、競合・技術トレンド、今後の戦略の中で、なぜ今”探索”が必要なのかを具体的に説明することです。
②経営陣の関与と保護|新規事業の芽を守る
新規事業の育成と資金供給に経営陣が積極的に関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護することです。
「お前らは俺たちが稼いだお金を使って、金にならない遊びみたいなことをしてるんだろ?」——既存事業側から出がちなこの声は、新規事業の芽を摘む最大の敵です。経営陣が盾にならない限り、新規事業は数年で潰されます。
| 経営陣の関与内容 |
|---|
| 資金・人員リソースを継続的に投入する |
| 新規事業チームが既存事業ロジックで評価されないよう守る |
| 短期KPIでの打ち切り圧力を抑える |
③成熟部門との最適な距離感バランス|独立×インターフェイス
新規事業が独自に組織面で調整を図れるように、十分な距離を置きつつ、重要な資源や組織能力を活用するための組織的インターフェイスを設計するのが3つ目です。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| ①組織的独立 | 別組織・別部署として立ち上げる(同じ部署で既存と新規を抱えない) |
| ②十分な距離 | 物理的にもオフィス・評価制度を切り離す |
| ③組織的インターフェイス | 既存側に新規事業の”窓口パートナー”を置き、技術・資金・営業リソースを使える仕組み |
独立だけではリソースが使えず、接続だけでは既存ロジックに呑まれます。「離すところは離す/繋ぐところは繋ぐ」の両立が設計ポイントです。
④共通のアイデンティティ|ビジョン・価値観・文化
探索(新規)と深化(既存)に共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化が4つ目です。
組織的には分けるべきですが、「自分たちは何のために仕事をしているのか、誰のために、どこを目指しているのか」の軸は新規も既存も共通していないと、変な対立が生まれます。理念・パーパス経営との接続が効くのはこの4つ目の条件です。
これら4つの成功要因のうち、特に「知の探索(新規事業づくり)」を実際に進めるには、具体的な手法やイノベーション人材のスキルを知っておくと役立ちます。あわせて以下の記事もご覧ください。
「両利きの経営」実現のための「知の探索」の事例3選
新製品開発や製品改善の研修・ワークショップで使えるKA法という手法
サービスデザイン思考の5原則とは?デザイン思考の課題とアート思考との違い
イノベーションを起こす人に共通する5つのスキル
自社の両利き度合いをセルフチェック
【要点】自社の両利きの経営の現状を把握するには、戦略意図、経営陣の関与、独立性、共通アイデンティティの4つの視点からセルフチェックが有効です。新規事業の必要性を経営が語れているか、役員クラスのコミットメントがあるか、既存部門からの保護や独立組織としての運営、既存リソースの活用窓口、そして共通のビジョン・バリューの浸透度合いを確認することで、最初に強化すべき弱点が見えてきます。
| チェック項目 | Yes=強み/No=弱み |
|---|---|
| なぜ探索が必要かを経営が言葉で語れるか? | ①戦略意図 |
| 新規事業に役員クラスがコミットしているか? | ②経営陣の関与 |
| 既存部門の圧力から新規事業が守られているか? | ②保護 |
| 新規事業は独立組織として運営されているか? | ③独立 |
| 必要に応じて既存のリソースを使える窓口があるか? | ③インターフェイス |
| 新規/既存で共通のビジョン・バリューが根付いているか? | ④共通アイデンティティ |
Yesが少ない条件が、いまの自社で最初に強化すべき必要条件です。
まとめ
【要点】両利きの経営を成功させるには、「戦略意図」「経営陣の関与と保護」「距離感のバランス」「共通のアイデンティティ」という4つの要因が不可欠です。多くの企業が「知の探索」の必要性を認識しながらも組織として動けないのは、これらのいずれかが欠けていることが原因であり、自社の現状を診断することが重要です。
両利きの経営の4つの成功要因は、①戦略意図/②経営陣の関与と保護/③距離感のバランス/④共通のアイデンティティでした。
“知の探索”が必要なのは分かっていても組織として動けない——多くの企業でのこの症状は、4つの必要条件のどれかが欠けていることに起因します。自社の診断から始めてみてください。

