「両利きの経営」実現のための「知の探索」の事例3選
両利きの経営とは、既存事業を深める「知の深化」と、新しい領域に乗り出す「知の探索」を同時に追求する経営のことです。早稲田大学大学院の入山章栄教授らが日本に紹介し、2025年現在もイノベーション経営の中心的な理論として、スタートアップから老舗大企業まで幅広く参照されています。
本記事では、両利きの経営の基礎と、「知の探索」を組織に根づかせた国内外の事例を3つ紹介します。「うちの会社には新規事業のタネがない」と感じている方の参考になれば嬉しいです。
両利きの経営とは|”知の深化”と”知の探索”の両立
両利きの経営は、米国の経営学者チャールズ・A・オライリー教授とマイケル・L・タッシュマン教授の共著『両利きの経営(増補改訂版)』で体系的にまとめられた概念です。
ポイントは「知の深化(exploit)」と「知の探索(explore)」を同時に進めることです。
| 用語 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 知の深化 | 既存事業の効率化・改善 | 生産性向上、コスト削減、品質改善 |
| 知の探索 | 新しい領域・機会への挑戦 | 新規事業、新市場開拓、異分野との協業 |
企業組織は放っておくと「知の深化」に偏る傾向があります。短期的に成果が見えやすく、既存顧客・既存商品の延長で回せるためです。一方、「知の探索」は失敗率が高く、成果が見えるまで時間がかかるため、社内での合意を取りにくい領域です。
両利きの経営は、この偏りを意図的に修正し、深化と探索を両輪で回すことを提唱しています。
詳しい成功要因については以下の記事でまとめていますので、セットでご覧ください。
両利きの経営の4つの成功要因(必要条件)
「知の探索」がうまくできている事例3選
「両利きの経営が大事なのはわかった。でも、うちの会社で知の探索をどう仕組みにすればよいのか?」そう悩む方も多いのではないでしょうか。ここからは、国内外の企業が知の探索を仕組みにした3つの事例を紹介します。
事例①Google|20%ルール
最も有名な事例はGoogleの20%ルールです。Googleでは、エンジニアの勤務時間の20%を、Google本来の利益に最もつながると思う仕事に自由に使って良いというルールがありました。
この20%ルールから生まれたと言われているのがGmailやGoogle News、AdSenseです。エンジニアが”好きに試せる枠”を制度として確保したからこそ、結果としてGoogleの主要事業を支えるプロダクトが生まれました。
近年は20%ルール自体の運用は形を変えていると報じられていますが、“社員に自由に挑戦させる時間を意図的に確保する”という仕組みの本質は、いまも多くのテック企業に引き継がれています。
事例②キーエンス|ニーズカード
営業利益率が50%を超えることで知られるキーエンスは、知の探索を「現場からの吸い上げ」に仕組み化した好例です。
キーエンスにはニーズカードと呼ばれる制度があります。営業担当者が顧客先で見つけた潜在的なニーズ・困りごとを月に2件カードに書いて商品開発部門に提出する、というシンプルな仕組みです。
| ニーズカードに記載する内容 |
|---|
| 顧客の困りごと(現場で観察したもの) |
| その裏にある潜在的なニーズ |
| 経済価値(金額・工数・頻度) |
営業全体では月2000件以上のニーズカードが集まるそうで、これが新商品開発の起点になっています。「アイデアを出す文化がない」ではなく、アイデアを出すことを月次の業務として組み込むという設計の力が光る事例です。
事例③未来工業|500円提案制度
未来工業株式会社にも面白い提案制度があります。
未来工業では、事業や業務に関する提案を1つするごとに500円が支給される制度があります。特筆すべきは、提案を封筒に入れて提出すると、中身を見ずに受け取って500円を支給するという仕組みです。
優秀な提案には別途3万円、多数提案賞として15万円など上乗せもあり、年間5000件もの提案が集まるといいます。
未来工業の提案には、改善(知の深化)寄りのものも多いですが、それでも社員が声を上げること自体を徹底的に低コスト化・高報酬化する設計は、両利きの経営を実現するうえで非常に示唆に富んでいます。
3事例から学ぶ「知の探索を仕組みにする」共通パターン
Google・キーエンス・未来工業の3事例を並べてみると、次の共通点が見えてきます。
| 共通パターン | 各社の工夫 |
|---|---|
| ①時間・枠の確保 | Google: 20%ルール/キーエンス: 月2件ノルマ/未来工業: 提出のたびに即金 |
| ②心理的ハードルを下げる | 封筒で中身を見ない/ニーズカードは1枚単位/自由課題でOK |
| ③量を先に担保する | 年5000件、月2000件など、まず数を集める設計 |
つまり、「知の探索ができる会社」は、社員を優秀なアイデアマンにしようとする代わりに、凡人でもアイデアを出さざるを得ない仕組みを整えているのです。
アイデアを沢山出すためのファシリテーションや、ブレストで出たアイデアが実行されない問題については、以下の記事で深掘りしています。
アイデアを沢山出すためのファシリテーションスキル
ブレストで出たアイデアはなぜ実行されないのか?とその対策
また、知の探索を推進する人材の特徴や職場環境については、以下の記事もあわせてどうぞ。
イノベーションを起こす人に共通する5つのスキル
イノベーションを生む職場環境の8つの特徴
イノベーションを生む対話の4つの要素
まとめ
「知の探索」と聞くと難しそうで、自社には縁のない話に思えるかもしれません。しかし、Google・キーエンス・未来工業の3事例を見ると、いずれもアイデアが出やすい仕組みを設計しているだけで、ヒーローに頼っているわけではないことがわかります。
両利きの経営を実現するヒントは、特別な才能ではなく仕組みの設計にあります。まずは自社の「知の探索」に使える時間・予算・場が確保されているかを棚卸しすることから始めてみてください。
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