組織市民行動の具体的な行動(日本版の組織市民行動尺度より)
組織の生産性やチームの活性化に関心のあるマネージャーや人事担当者の方なら、組織市民行動(OCB)という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
命令されなくても自発的にとる行動が、組織全体の効率を押し上げる。近年ではエンゲージメントや心理的安全性への関心の高まりから、組織市民行動はふたたび注目を集めています。
今回は日本版の組織市民行動尺度を手がかりに、組織市民行動にはどのような具体的行動が含まれるのかを整理し、現場で促すためのヒントまで解説していきます。
組織市民行動(OCB)とは
組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior、以下OCB)は、アメリカの経営学者デニス・オーガンが1988年に提唱した概念です。オーガンは組織市民行動を次のように定義しています。
2. 公式の報酬システムによって直接、もしくは明確に承認されているものではなく
3. 集合的に組織の効率を促進するもの
平たく言えば、命令されなくても自主的な行動によって、組織の効率性を高めるものです。
例えば、誰に頼まれたわけでもないのに社内で事例共有勉強会を開く、休んでいる同僚の仕事を引き取る、新人が困っていたら声をかけて助ける、といった行動はいずれも組織市民行動に該当します。
なぜ今、組織市民行動が注目されているのか
OCBが近年あらためて注目されている背景には、働き方や組織運営の変化があります。
ひとつは、テレワークやジョブ型雇用の広がりによって、役割分担がこれまで以上に明確になり、その結果として「担当外の業務にまで手を伸ばす」といった行動が減りやすくなっていることです。業務上の隙間を誰が拾うのか、という問題が顕在化しやすくなりました。
もうひとつは、エンゲージメントや心理的安全性といった概念への関心の高まりです。実際、学術研究ではエンゲージメントが高い社員ほどOCBを発揮しやすいという傾向が報告されており、OCBの多い職場はチーム全体のパフォーマンスも高い傾向があると示されています。
つまり組織市民行動は、「余分な頑張り」ではなく、良い組織かどうかを映し出す鏡のような行動群だと考えることができます。
組織市民行動の5つの次元
オーガンは組織市民行動を以下の5つの要素(次元)で構成されるものとして整理しました。

参考: 『職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究』
5つの次元の詳細については、下記の記事もあわせてご覧ください。
組織市民行動の5つの次元
なお、学生スポーツの分野では組織市民行動が多いチームは大会での成績も良いという研究結果も報告されています。

スポーツパフォーマンス研究 4, 117-134, 2012
河津慶太, 杉山佳生, 中須賀巧
日本版の組織市民行動尺度について
では、具体的にどのような行動が組織市民行動と言えるのでしょうか。ここからは、先ほど紹介した5つの次元をより細かい行動レベルで把握するために、日本版の組織市民行動尺度を紹介します。
日本版の組織市民行動尺度については、産業・組織心理学研究に掲載された田中堅一郎氏の論文を引用しています。
田中 堅一郎
産業・組織心理学研究
2002年 15巻 2号 p. 77-88
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/15/2/15_77/_article/-char/ja/
上記論文によれば、組織市民行動尺度は以下の5因子で定義されます。

第1因子:対人援助
同僚・部下・上司などに対して、自発的に手を差し伸べる行動群です。
・多くの仕事を抱えている人の手助けをする
・休んでいる人の仕事を代わりに手伝ってあげる
・仕事上のトラブルを抱えている人を、進んで手助けする
・他の部署を尋ねに来た訪問者の応対をする
・自分の周りにいる同僚や部下、上司に手を貸せるようにいつも準備している
・他の部署にいる人の仕事を助けてあげる
・上司の仕事であっても進んで手伝う
・同僚の仕事上のトラブルを進んで手助けする
対人援助は5因子のなかでもイメージしやすい項目で、いわゆる「困っている人をそのままにしない文化」が根付いているかどうかを測る尺度だと考えるとわかりやすいでしょう。
第2因子:誠実さ
業務時間や組織の資源を、きちんと仕事に使おうとする姿勢を指します。
・不必要に仕事の手を休めないように心がける
・仕事中に必要以上の休息を取らないようにする
・仕事中は無駄な会話で時間をつぶさないようにする
・昼休みや休憩時間を長く取りすぎないよう努める
・仕事上のささいなことに対して、くどくど不平を言わないようにする
・自分の意見を職場の人たちに押し付けない
・自分から積極的に仕事を見つける
・会社(組織)の備品や消耗品を無駄使いしないよう努める
一読すると「当たり前では?」と感じるかもしれませんが、ルールで縛るのではなく本人の誠実さに委ねているという点が組織市民行動らしさです。
第3因子:職務上の配慮
ミスや情報の扱いに対して細やかな配慮を示す行動群です。
・仕事で間違いに気がついたらすぐにそれを正す
・一度受けた仕事は最後まで責任を持って実行する
・自分の仕事に注意を行き届かせる
・同僚や部下からの疑問や質問には、丁寧に答える
・職場の人に迷惑にならないように注意して行動する
・個人的に得た有益な情報を、適切な時に職場に提供する
業務品質と情報共有の両方に関わる因子で、現場の信頼関係を支える土台になります。
第4因子:組織支援行動
所属する会社そのものを積極的に支えようとする行動です。
・自分の会社(組織)が開催するイベントの情報を主体的に紹介する
・仕事の場以外でも積極的に自分の会社(組織)を宣伝する
・優秀な人材を自分の会社(組織)に入るように勧める
・参加が義務付けられていなくても、会社(組織)が主催する行事や祭典には参加する
・仕事の時間以外でも、顧客が会社(組織)に対して良い印象をもってもらえるよう努力する
・会社(組織)の新しい展開や内部の事情を、いち早く知るように努める
・社内報や掲示物にまめに目を通して、社内の最新事情を知っておく
組織支援行動は、エンゲージメントや愛社精神と強く重なる因子です。昨今はワークライフバランスの観点から「仕事の時間以外での貢献」を前提にしない考え方も広がっているため、項目の捉え方には時代的な変化がある点には留意しておきましょう。
第5因子:清潔さ
職場環境をきれいに保つ行動群です。
・職場では机はいつもきれいにし、汚さないように努める
・職場では自分の身の回りをきれいに掃除する
・文具品・消耗品を使いやすいように整理し、配置する
5次元モデル(Organ, 1988)でいうところの市民の美徳(Civic Virtue)にあたる要素が、日本版尺度では「清潔さ」として表れているのが特徴的です。小さな行動の積み重ねが、結果として職場の雰囲気やミス防止につながっていきます。
5次元モデルと5因子の違い
ここまで読んで、「5次元モデルとちょっと違わないか?」と思った方もいるかもしれません。
例えば、第5因子の「清潔さ」は、5次元モデルでいう「市民の美徳」とも「職務上の配慮」とも重なりそうに見えます。これは、日本の職場文化を反映したデータをもとに因子分析を行ったことで、オーガンの提示した5次元とは少し異なる枠組みが浮かび上がったためです。
5次元モデルと因子の違いについては、先ほどの田中氏の論文でも詳しく触れられていますので、興味のある方はぜひ論文本体もご覧ください。
田中 堅一郎
産業・組織心理学研究
2002年 15巻 2号 p. 77-88
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/15/2/15_77/_article/-char/ja/
組織市民行動を促す4つのアプローチ
組織市民行動は「やる気のある個人」任せにしていては、なかなか広がっていきません。組織として促していくには、次のようなアプローチが有効です。
1. 心理的安全性を高める
困っている人に声をかけたり、担当外の業務を引き取ったりする行動は、「余計なことをしたと思われないか」という不安がある環境では起きにくくなります。心理的安全性の確保は組織市民行動の土台と言えます。発言のハードルを下げ、失敗を責めない雰囲気づくりから始めましょう。
2. 相互理解を深める機会を設ける
同じオフィスにいても、互いの業務内容や忙しさが見えていないと、助け合いは発生しません。1on1や部門間交流、雑談の機会、ワークショップなどを通じて、「誰が何に困っているか」を共有できる状態をつくることが大切です。
3. 役割と貢献の可視化
組織支援行動や対人援助は、評価制度のなかで見えにくい「縁の下の力持ち」的な貢献になりがちです。MVPや称賛の仕組み、感謝を伝え合うツール(Thanksカードなど)を通じて、OCB的な行動を可視化し、本人に伝わるようにすると継続しやすくなります。
4. 体験を通じた役割意識の転換
日常業務のなかだけで「組織全体を見てほしい」と言っても、視点を切り替えるのは簡単ではありません。ビジネスゲームや体験型研修を活用して、一度立場を入れ替えた状態でコミュニケーションを体験することで、組織全体を俯瞰する視点が育ちやすくなります。
組織市民行動を育む研修なら「部課長ゲーム」
組織市民行動を組織的に促していきたい、役割を超えた連携が生まれるチームを作りたい。そんなときに活用いただけるのが、ハートクエイクの「部課長ゲーム」です。

部課長ゲームは、参加者が部長・課長・平社員の役割を与えられ、制約のあるコミュニケーションのなかでチームの目的を達成するビジネスゲームです。
役職ごとに渡される情報が異なり、しかも直接話せる相手まで限定されています。「伝えたいのに伝わらない」「相手が何を困っているか見えない」というもどかしさを体験することで、普段の職場における情報共有や相互支援の重要性を自然に振り返ることができます。
組織市民行動でいうところの「対人援助」「職務上の配慮」「組織支援行動」がそれぞれどれだけ機能しているのか、ゲームという安全な場で可視化できる点が特徴です。
2025年11月現在、部課長ゲームの導入社数は約140社、受講者満足度は4.82(5点満点)となっております。
部課長ゲームの基本スペック
・所要時間: 1〜2時間(ふりかえりを含めた目安)
・参加人数: 5名〜100名超(少人数から大人数まで対応可能)
・実施形式: 対面(カード版) / オンライン
・対象: 新入社員から管理職まで、部門横断ワークショップにも対応
役職ごとの視点を短時間で切り替えられる構成のため、半日の研修枠に組み込みやすく、フォローアップワークや振り返りディスカッションと組み合わせた設計もご相談いただけます。
部課長ゲームに関するお問い合わせ
部課長ゲームを活用した研修にご興味がある方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 組織市民行動を高めると、具体的にどんな効果がありますか?
対人援助や職務上の配慮といった行動が増えることで、情報共有が活発になり、ミスの早期発見や業務の属人化解消につながるとされています。研究ではOCBが多いチームほど業績が高い傾向も示されており、離職率の低下やエンゲージメントの向上とも関連が報告されています。
Q2. 5次元モデルと日本版尺度、どちらを使えばよいですか?
海外文献との比較や理論的な背景を重視するのであれば、5次元モデル(Organ, 1988)を参照するのがわかりやすいでしょう。自社の実態に近い行動指標として社員に伝えたい場合は、日本の職場データから抽出された日本版尺度(田中, 2002)のほうが現場の感覚と近いケースが多いです。
Q3. 組織市民行動は評価制度に組み込むべきですか?
本来OCBは「公式の報酬システムによって明確に承認されているものではない」行動と定義されているため、厳密な評価項目に組み込みすぎると自発性が失われるリスクがあります。評価項目として点数化するのではなく、MVPや感謝の可視化など「承認される場を増やす」方向での運用がおすすめです。
Q4. 部課長ゲームはオンラインでも実施できますか?
はい、部課長ゲームにはオンライン版もあります。Zoomなどのビデオ会議ツールを使って、遠隔拠点のメンバーを含めた形で役割分担と情報共有のワークを体験いただけます。詳細は部課長ゲーム詳細ページよりお問い合わせください。
まとめ
今回は、日本版の組織市民行動尺度をもとに、組織市民行動の具体的な行動について見てきました。
対人援助・誠実さ・職務上の配慮・組織支援行動・清潔さ。5つの因子に含まれる行動項目を眺めていくと、組織市民行動は特別なものではなく、日々の職場のなかで誰もが発揮できる小さな協力の積み重ねであることがわかります。
一方で、こうした行動が自然に起きるかどうかは、組織の雰囲気や仕組みに大きく左右されます。心理的安全性を整え、互いの貢献を見える化し、ビジネスゲームなどの体験を通じて役割を超えた視点を育てる。こうした働きかけがあってはじめて、組織市民行動は組織の文化として根付いていきます。
部課長ゲームのような体験型研修も含めて、組織市民行動を促す取り組みを検討される際には、ぜひお気軽にご相談ください。
