メンタルヘルス対策のなかでも、社員自身が自分のストレスと向き合う「セルフケア」は基本かつ要です。ただ、研修の場で「自分のストレスに気づきましょう」と言ってもピンと来ない参加者は少なくありません。

そんなときに役立つのが、ストレス点数表(社会的再適応評価尺度)です。ライフイベントごとに数値化されたストレス値を使うと、抽象的だった「自分のストレス量」が一気に具体化されます。本記事では、セルフケア研修でストレス点数表を使いこなすための活用ワーク4パターンとファシリテーションのコツを、実施時の注意点まで含めて整理します。

ストレス点数表(社会的再適応評価尺度)とは

ストレス点数表は、アメリカの精神科医 Holmes と Rahe が1967年に発表した社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale)のことです。日本では「ライフイベント法」と呼ばれることもあります。

研究では約400人の被験者に対し、結婚を「50点」を基準として他のライフイベントのストレス度を相対評価してもらい、全43項目のランキングを作成しました。1位は配偶者の死(100点)、7位に結婚(50点)が入り、失業、解雇、妊娠、転職などの項目が続きます。

Holmesらは、過去1年間に経験したライフイベントの点数合計が300点を超えると約8割の人に何らかの健康障害が生じたと報告しています。また Rahe は直近3〜6ヶ月の合計スコアを用いる短期指標も提案しており、こちらのほうが研修用途には使いやすい尺度です。

尺度そのものの詳細や項目一覧については、こちらの記事で詳しく解説しています。

社会的再適応評価尺度とは?ホームズのストレスランキング一覧と活用法

なぜセルフケア研修でストレス点数表を使うのか

セルフケア研修の現場で、参加者からよく出てくる反応は「自分は特にストレスを抱えていないと思う」というものです。ところがストレス点数表を使って直近半年のライフイベントをチェックしてもらうと、本人の自覚と数値のあいだに大きなギャップが出ることが多々あります。

ストレス点数表のメリットは「気づき」を数字に変換できることです。「なんとなく疲れている」を「半年で220点、Rahe基準ではやや注意領域」と言い換えるだけで、参加者は自分の状態を客観視できます。

もう一つの利点は、ポジティブなライフイベントもストレス源としてカウントする点です。結婚(50点)や昇進(29点)、転居(20点)など、本人が「良いこと」と感じている出来事もエネルギーを使う変化として扱われます。この視点は、頑張りすぎ傾向のある社員ほど盲点になりがちで、研修で扱う価値が高い情報です。

セルフケア研修での活用ワーク4パターン

ここからは実際に研修で使える具体的なワーク設計を4パターン紹介します。所要時間の目安はいずれも20〜40分で、単独実施・組み合わせ実施のどちらも可能です。

ワーク1: 過去半年の振り返りスコア測定(個人ワーク/20分)

まず参加者全員に、直近6ヶ月で経験したライフイベントの点数合計を算出してもらいます。下記の自社Web版ツールを使うとチェックボックス形式で手早く計算できるので、紙のワークシートを配布する必要がありません。

ストレス点数表(無料Web版)を使って測定してみる

ストレス点数表の診断画面

ストレス点数表の結果画面

測定後は、「Rahe基準では150点以下=安定、150〜299点=要注意、300点以上=高リスク」という目安を共有します。ここで重要なのは、点数を合否判定のように扱わず、あくまで参加者自身の「気づきの材料」として提示することです。

ワーク2: 未来半年の予測チェック(個人ワーク/15分)

次は視点を未来に向けます。今後6ヶ月で予定されているライフイベント(昇進、引越、子どもの進学、親の介護スタートなど)を書き出し、それぞれに点数を割り当ててもらいます。

このワークのねらいは、ストレスを「予測可能なもの」として準備する習慣をつけることです。予想合計点が高い場合は、その時期に休息時間を先に確保しておく・相談相手をあらかじめ決めておくなど、事前の対処行動をセットで考えてもらいます。

ワーク3: ペア共有&傾聴ワーク(ペアワーク/25分)

ワーク1・2の結果を2人1組で共有します。聞き手は評価やアドバイスをせず、質問と要約だけで相手の話を受け止めます。話し手→聞き手交代で各10分、最後に5分のふりかえりを入れる構成が標準です。

この形式は「自分のストレスを他者に言語化する」体験そのものが介入効果を持ちます。共有することで参加者同士の支援ネットワークが形成される副次効果もあり、セルフケアの枠を超えてチームのメンタル耐性を底上げできます。

ワーク4: コーピング選択ディスカッション(グループワーク/40分)

4〜5人のグループで、スコアの高かったライフイベントを1つ取り上げ、「自分ならどう対処するか」のアイデアを出し合います。問題焦点型(状況そのものを変える)と情動焦点型(感情を調整する)の両方を意識して挙げてもらうと、バランスの良いコーピングレパートリーが作れます。

コーピングの基礎やレパートリーの作り方については、こちらの記事もあわせて参照してください。

セルフケアのためのコーピングリスト(レパートリー)

研修ファシリテーションの4つの注意点

ストレス点数表を使う研修には、いくつか注意点があります。以下の4点を押さえておくと事故を防げます。

第一に、スコアを人事評価や選別の材料にしないことを明言してください。参加者が「正直に書いたら不利になるかもしれない」と感じた瞬間、ワークの価値は消えます。

第二に、点数の結果は本人の手元だけで管理してもらい、講師や会社が回収しないルールにします。共有ワーク(ワーク3)では話す内容を参加者自身が選べる設計にしておきます。

第三に、スコアが高く出た参加者には、研修後に個別相談できる窓口(産業医、カウンセラー、EAP契約先など)を必ず案内してください。数字を見て不安になったまま研修を終わらせない配慮が必要です。

第四に、Holmesらの尺度が1960年代のアメリカ中産階級を対象に作られた古い指標である点にも触れてください。現代日本の20〜40代には体感と合わない項目もあります。この論点を深く掘り下げたい場合は、下記の記事が参考になります。

社会的再適応評価尺度は古い?現代の20〜40代向けにストレスランキングを再考してみた

セルフケア研修全体のなかでの位置づけ

ストレス点数表は、セルフケア研修のなかで「気づきフェーズ」を担う教材です。研修全体としては、気づき → 知識習得 → 対処法の実践 → 相談行動 という4段階で設計することが多く、ストレス点数表は冒頭の気づきパートで使うのが効果的です。

厚生労働省のメンタルヘルスケア指針では、セルフケアに加え、ラインケア、事業場内スタッフによるケア、事業場外資源によるケアの4つが柱として示されています。セルフケア研修はこのうち最も手前の1層を担うもので、組織全体の対策としては他の層との連携設計も欠かせません。

4つのケアの全体像や、セルフケア研修そのものの設計例は以下の記事で扱っています。

メンタルヘルスの4つのケアを理解しよう!

オンライン・1時間半できるセルフケア・メンタルヘルス研修

よくある質問

Q. 研修時間はどのくらい必要ですか?

ワーク1単独で実施するなら30分あれば完結します。ワーク1〜3をフルセットで実施する場合は90〜120分を見込んでください。ワーク4まで含めてコーピング習得を目標にする場合は、2時間半〜3時間のセッション設計が望ましいです。

Q. オンライン研修でも使えますか?

使えます。測定は上記のWeb版ツールで画面共有せずに各自が進められ、ペアワークはブレイクアウトルームで実施できます。むしろプライバシーが保たれやすい分、参加者の本音が出やすい傾向があります。

Q. 参加者のスコアを集計して組織全体の健康度を測ってもいいですか?

推奨しません。ストレス点数表はあくまで個人の気づきツールであり、集団調査の尺度としては統計的な検証が不十分です。組織全体のメンタルヘルス状態を測る目的であれば、厚労省のストレスチェック制度で使われる職業性ストレス簡易調査票(57項目版)を使うのが適切です。

Q. 若手社員にも有効ですか?

有効ですが、1960年代の尺度のため「結婚」「住宅購入」のようなイベントは若手には遠い話題になりがちです。若手中心の研修では、現代版にアレンジした尺度や、職場固有のストレッサー(異動、配属ガチャ、遠方配属など)を追加してアレンジすると体感との一致度が上がります。

ゲームで体験的に学べるセルフケア研修『攻略!きみのストレスを発見せよ!』

ストレス点数表は「気づきフェーズ」の有力な教材ですが、参加者がより能動的に学ぶには、ゲーム型のワークを組み合わせるのも有効です。弊社では、伊藤絵美先生(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス代表)監修のセルフケア体験型ゲーム「攻略!きみのストレスを発見せよ!」を提供しています。

攻略!きみのストレスを発見せよ! ゲーム画像

自分の思考のクセ(認知の歪み)に気づき、コーピングの引き出しを増やすことを目的としたカードゲーム形式の研修教材で、ストレス点数表と組み合わせて使うと「気づき → コーピング → 実践」の流れを1本のセッションで設計できます。

ゲーム研修会社が伊藤絵美先生監修の「攻略!きみのストレスを発見せよ!」をやってみた

五月病対策のためのゲームを使ったセルフケア研修

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まとめ

ストレス点数表(社会的再適応評価尺度)は、セルフケア研修で参加者の「気づき」を具体化するためのシンプルで強力な教材です。

本記事で紹介した4つの活用ワーク(過去振り返り/未来予測/ペア共有/コーピング選択)を研修設計に組み込めば、参加者は自分のストレス状態を言語化し、具体的な対処行動につなげやすくなります。ただし、スコアを評価に使わない・集団調査には使わない・フォローアップ先を示すという3つの運用ルールだけは必ず押さえてください。

セルフケア研修の設計や、ゲーム型教材との組み合わせについてご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。


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