今回は非常に興味深い論文を見つけたのでご消化したいと思います。
それがこちらです。

職場のいじめ・嫌がらせにおける傍観者の
建設的な介入を促すためのゲーミング・シミュレーション

シミュレーション&ゲーミング
2024 年 34 巻 2 号 p. 75-86

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasag/34/2/34_340201/_article/-char/ja

職場でのいじめ・嫌がらせ、という要素と、その解決策として、弊社が取り組んでいるゲーミング・シミュレーションという要素にとても興味を惹かれました。

職場でのいじめ、嫌がらせについて

論文にも記載されていましたが、厚生労働省による「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、総合労働相談件数は118万件を超え、「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が8年連続トップとなっているようです。

「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します
~「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が8年連続トップ~

厚生労働省 令和2年7月1日
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000213219_00003.html

いじめ・嫌がらせというと小中学校のイメージがありますが、残念ながら企業でも
問題となっているようです。

ここ数年、法律の改正もあり、企業ではパワーハラスメントを含む様々なハラスメントへの対策・研修が実施されているかと思います。

パワーハラスメント(パワハラ)の3要素

しかし、いじめ・嫌がらせは上記の3要件に満たしているとは言えず、泣き寝入りしてしまうケースも実際にはあるのだと想像できます。

なお、論文によれば、職場でのいじめ・嫌がらせの特徴として以下のものが挙げられるということです。

風通しの良い職場・悪い職場、という言葉がありますが、上画像の発生前・背景を読むだけで風通しの悪い職場の方が職場でのいじめ・嫌がらせが多そうな印象を受けます。

論文では傍観者に着目

この論文が面白いと感じた点として、傍観者に着目されているところです。
こういった問題は加害者を産まないような施策・研修に注目が集まりますが、傍観者という圧倒的に数が多い対象に向けての施策を行っているところはポイントだと思います。

傍観者に注目した背景として著者は以下のように記述されています。

対象者が職場のいじめ・嫌がらせの企業研修を
講義形式もしくはE-learning形式で受講しており,
その内容は行為者にならないための法律上の注意点や
被害者になった時の対処法であると回答している.

また,対象者は,「行為者でも被害者でもない自分には関係ない」,
当たり前のことばかりで頭に入ってこない」,
何も考えずに画面のボタンを押しているだけ」と認識している.

このことから,誰もが職場のいじめ・嫌がらせに傍観者として巻き込まれる
可能性を秘めているにもかかわらず,当事者意識に乏しく,
企業研修を受ける意義を感じていない
ことが推測できる.

そこで,参加者が傍観者として,職場のいじめ・嫌がらせの予防・解決に
重要な役割と責任があることを自覚
し,主体的に学びや気づきを得る仕組み
を備えた教育プログラムを開発することが必要であり,
これが本研究分野の課題であると考える.

いかがでしょうか。ズキッと来た研修担当の方も多いのではないでしょうか?
講義形式もしくはE-learning形式で研修を提供しているものの、自分ごとになっていないため、当然ながら記憶に残らない研修となってしまっているようです。

なお、論文では傍観者のモデルというものが紹介されていました。

職場のいじめ・嫌がらせゲームの概要

前述の通り、講義形式もしくはE-learning形式で研修効果に疑問が残るということで、著者はビジネスゲーム形式の研修を選択されたようです。

ゲームでは参加者1人1人に役割が与えられ、発生するイベントに対して、2択、または3択の選択肢から1つを選ぶ形式のようです。

選んだ選択肢よって結末が変わるのもゲームとして面白いと思います。

研修効果と取り組むべき施策

論文では、職場のいじめ・嫌がらせゲームの研修効果の測定をインタビューによって明らかにしています。

特に,
事前にゲーミング・シミュレーションで疑似体験することが対話するきっかけ
(i7,i10)になったと回答している

本文には上記の記述もあり、ビジネスゲーム形式を選択されたのは一定の効果を挙げられたようです。

さて、ここからは論文の内容を踏まえた私の意見として、職場でのいじめ・嫌がらせにおいて取り組むべき施策を書いてみたいと思います。それが、以下の3点です。

1. 傍観者の積極的な介入を促す教育プログラムの導入

2.匿名での相談・報告システムの強化

3.組織文化の改善と管理職への教育

1つめは傍観者の積極的な介入を促す教育プログラムの導入ということで、論文で紹介されていたようなゲーミング・シミュレーションを活用した研修を実施し、疑似体験を通じて介入の難しさや重要性を学ばせること、です。
学校のいじめ問題もそうだと思いますが、「傍観者の責任」を認識し、行動につなげるワークショップを定期的に開催することも重要だと思います。
また、ゲームだけではなく、具体的な介入方法や対応手順を分かりやすくまとめたガイドラインを作成し、従業員に配布する必要もあるでしょう。

2つめは匿名での相談・報告システムの強化で、匿名で通報できるホットラインやチャットボットを設置し、従業員が安心して相談できる環境を整備することが重要です。
すでにやられている企業は多いと思いますが、定期的に社内アンケートを実施し、職場のハラスメントの実態を把握していく必要があるでしょう。

3つめは組織文化の改善と管理職への教育で、
管理職向けのハラスメント防止研修を実施し、具体的なケーススタディを交えて学ばせることが効果的だと思います。
風通しの良い職場づくり/心理的安全性の高い職場」を推進し、従業員同士の相互信頼を高めていくことが本質的な防止策です。
いじめ・嫌がらせの問題が発生しにくい職場環境(例:成果主義一辺倒ではなく、チームワークや心理的安全性を重視する文化)を構築していく必要があるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は職場でのいじめ・嫌がらせについてのゲームについて書かれた論文をご紹介しました。ぜひ本文もご覧いただけばと思います。

職場のいじめ・嫌がらせにおける傍観者の
建設的な介入を促すためのゲーミング・シミュレーション

シミュレーション&ゲーミング
2024 年 34 巻 2 号 p. 75-86

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasag/34/2/34_340201/_article/-char/ja


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