学校教育も企業研修も、近年はアクティブラーニングへの流れが強まっています。一方的に知識を伝達するだけの講義ではなく、受講者自身が課題に取り組み、対話し、振り返る学び方が標準になりつつあります。

アクティブラーニングを企画する時に必ずぶつかる問いがあります。「受講者は今どのレベルまで学べているのか」「次にどの段階に進めるべきか」をどう判断するのかという問いです。この判断を支える代表的な枠組みが、本記事で紹介する改訂版ブルームのタキソノミーです。

学校教育の文脈では、2012年8月の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」の中で、アクティブラーニングが次のように位置付けられています。

従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が
意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を
与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し
解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)
への転換が必要である。

引用: 文部科学省 中央教育審議会答申 (2012年8月)

企業研修の世界でも、講義型の集合研修から、ビジネスゲームやワークショップを使ったアクティブラーニング型の研修にシフトする動きが加速しています。本記事では、ブルームのタキソノミーがどんな枠組みか、改訂版で何が変わったか、そしてどう研修設計に活かすかを、実例を交えながら整理していきます。

改訂版ブルームのタキソノミーとは

ブルームのタキソノミー(教育目標分類)は、1956年にアメリカの教育心理学者ベンジャミン・ブルームが発表した、学習者の認知レベルを段階的に整理する枠組みです。学習目標を「何を覚えているか」だけでなく「どの程度の認知操作ができるか」で分類できる点で、教育現場に大きな影響を与えました。

その後、2001年にブルームの弟子の一人であるローリン・アンダーソンらがこのタキソノミーを改訂し、現在は改訂版が広く参照されています。

ブルームのタキソノミー(従来版と改訂版)
画像参照:文部科学省 資料

上の図の左側が1956年版(ブルーム)、右側が2001年版(アンダーソンら)です。左側は1次元の6段階の積み上げ、右側は「認知プロセス次元」(横軸の6段階)と「知識次元」(縦軸の4分類)を組み合わせたマトリックスになっています。

タキソノミーの基本的なアイデアは、学習が単純な暗記から始まり、徐々に高次の認知操作へと発展していくという階段モデルです。下記の表に、改訂版の6段階を簡潔に整理しました。

ブルームのタキソノミー 6段階の説明表
画像参照:Intel Education 思考スキルの構造

6段階の認知プロセスを企業研修の例で読み解く

改訂版の認知プロセス次元は「記憶する→理解する→応用する→分析する→評価する→創造する」の6段階で構成されています。それぞれ企業研修ではどのような行動を指すのか、実例とともに整理します。

1. 記憶する (Remember)
用語、定義、手順、ルールを思い出せる段階です。例: ハラスメント研修で「パワハラの6類型」を答えられる、コンプライアンス研修で就業規則の主要条項を引用できる、など。研修評価としては小テスト、用語確認クイズなどが該当します。

2. 理解する (Understand)
用語や手順の意味を自分の言葉で説明したり、要約したり、例示したりできる段階です。例: ハラスメントの定義を後輩に説明できる、損益計算書の構造を自分の言葉で説明できる。研修では要約発表、概念マップ作成などが評価方法になります。

3. 応用する (Apply)
学んだ知識を新しい場面に当てはめて使える段階です。例: 部下から相談を受けた時に1on1のフレームに沿って対応できる、与えられた予算で広告計画を立案できる。研修ではロールプレイ、ケーススタディの解決などが対応します。

4. 分析する (Analyze)
情報を構成要素に分け、関係性や原因を見抜ける段階です。例: 売上低下の要因を分解して説明できる、組織のサイレント離職の構造的要因を整理できる。研修ではデータ分析演習、原因分析ワークなどが該当します。

5. 評価する (Evaluate)
基準に照らして判断・批評・選択できる段階です。例: 複数の改善案を比較して最適案を選べる、新規事業案を投資判断基準で評価できる。研修ではディベート、ピアレビュー、意思決定演習などが対応します。

6. 創造する (Create)
要素を組み合わせて新しいものを作り出せる段階です。例: 新規事業のビジネスモデルを設計できる、研修プログラム自体をゼロから企画できる。研修ではプロジェクト型学習、グループでの企画立案、プロトタイプ作成などが該当します。

アクティブラーニングの本質は、4から6の高次レベル(分析・評価・創造)を、研修内できちんと体験させるところにあります。記憶と理解だけで終わる研修は、見た目はアクティブでも認知レベルとしては低い段階にとどまります。

従来型と改訂版の2つの違い

ブルームによる従来版(1956年)とアンダーソンらによる改訂版(2001年)では、大きく2つの違いがあります。

違い1: 6段階の項目と順序

従来版は「知識→理解→応用→分析→統合→評価」の順でしたが、改訂版では「記憶→理解→応用→分析→評価→創造」になりました。「統合」がなくなり「創造」が最上位に追加された点が大きな変化です。

「創造」が最上位に置かれたのは、現代社会で求められる学力観の変化を反映しています。改訂版での「創造」は次のように説明されています。

物事を組み合わせて新たなものを作り出すプロセス。
「創造」の課題達成のために、学習者は「考えを生み出し」、
「計画をつくり」、「成果物を作り上げ」ます。

引用: Intel Education「効果的なプロジェクトの設計: 思考スキルの構造」

また、項目名が名詞(知識、理解…)から動詞(記憶する、理解する…)に変わったのも改訂版の特徴です。学習目標を「学習者が何をできるようになるか」という行動レベルで記述しやすくする意図があります。

違い2: マトリックス形式への進化

改訂版はもう1つの軸として「知識次元」を加え、6×4のマトリックスになりました。横軸が認知プロセス次元(記憶〜創造)、縦軸が知識次元です。同じ「応用する」でも、応用する対象が事実なのか概念なのか手続きなのかメタ認知なのかで、難易度や設計が変わってくることを表現できるようになりました。

知識次元の4分類を研修設計に使う

改訂版で追加された知識次元は、「何を知っているか」を4つに分類した軸です。研修設計の文脈で簡潔に整理します。

知識次元 説明 研修例
事実的知識 単語、用語、固有事項 就業規則の条項、業界用語
概念的知識 分類、原理、モデル マネジメント理論、フレームワーク
手続き的知識 手順、技法、利用シーン 1on1の進め方、PDCAサイクル
メタ認知的知識 自分の認知や学び方への理解 自分の意思決定パターン、内省習慣

メタ認知的知識は「自分がどのように考え、感じ、学んでいるか」への理解を指します。多くの場合、内省(リフレクション)や対話を通じて自分自身の認知を理解していくプロセスが取られます。アクティブラーニングが内省タイムを重視するのは、まさにこのメタ認知的知識を育てる意図があるからです。

研修設計では、6段階の認知プロセス次元と4分類の知識次元の組み合わせで「この研修のゴールはマトリックスのどのセルか」を一度言語化してみると、設計の解像度が一気に上がります。

ブルームのタキソノミーで研修を設計する3ステップ

改訂版タキソノミーを実際に研修設計で使うときの基本的な流れを3ステップで整理します。

ステップ1: ゴールを「動詞+対象」で書く
研修終了時に受講者に何ができるようになっていてほしいかを、必ず動詞で書き出します。「ハラスメントの種類を覚えている」だけでなく「ハラスメントの兆候を早期に発見し、適切に対応できる」のように、認知プロセス次元のどの段階を狙うのかを明示します。

ステップ2: アクティビティを段階に合わせて選ぶ
記憶・理解レベルなら講義+小テスト、応用・分析レベルならケーススタディ+ロールプレイ、評価・創造レベルならプロジェクト型学習+発表と、ゴールの段階に応じてアクティビティを選びます。よくある失敗は、ゴールが「創造」レベルなのに講義しかやっていない、というケースです。

ステップ3: 評価方法も同じ段階で設計する
評価方法もゴールと同じ段階で設計するのが鉄則です。創造レベルがゴールならテスト形式の評価ではなく、実際に成果物を作らせて評価する方が整合します。ゴール・アクティビティ・評価の3つを同じセルに揃えることを「整合性 (alignment)」と呼び、教育設計の世界では基本中の基本とされています。

事例:NASAゲームを改訂版タキソノミーで読み解く

弊社が提供しているコンセンサスゲーム「NASAゲーム」は、アクティブラーニング型研修の代表例の1つです。改訂版タキソノミーで分解してみましょう。

NASAゲームの様子

NASAゲームでは、参加者が月面に不時着したという設定で、生き残るために必要な15個のアイテムを優先順位付けします。最初に個人で順位を付け、次にグループで合意形成して順位を出し、最後にNASAの模範解答と比較します。

このゲームの中で発生する学びを認知プロセス次元で整理すると次のようになります。

記憶/理解: 月面の環境(重力、気圧、温度差)に関する基礎知識を思い出し、アイテムの用途を理解する
応用: 学んだ知識を「月面で生き残る」という新しい場面に適用してアイテムを評価する
分析: 各アイテムの優先度を、生存への寄与度という軸で構成要素ごとに分解して考える
評価: グループメンバーの異なる順位案を比較し、論拠の妥当性を判断して合意を作る
創造: 模範解答との差分を踏まえ、自分たちの意思決定プロセスをどう改善するかを考え、明日からの仕事への応用案を作る
メタ認知: 「自分は反対意見が出たときにどう反応する人間か」「自分の合意形成スタイルは何か」を内省する

1つのゲームで認知プロセス次元の6段階+知識次元のメタ認知までをカバーできるのが、ビジネスゲームをアクティブラーニングに使うことの強みです。NASAゲームの詳細については「NASAゲームのやり方とルール」、アクティブラーニングとビジネスゲームの関係性については「アクティブラーニングとビジネスゲームの関係性」、MITが採用したアクティブラーニング設計とNASAゲームの共通点については「MITのアクティブラーニング設計と弊社代表ゲームの共通点」もあわせてご覧ください。

アクティブラーニングへのよくある誤解3つ

最後に、研修担当者がアクティブラーニングを設計する時に陥りがちな誤解を3つ挙げます。

誤解1: 「グループワークさえやればアクティブラーニング」
グループワークはアクティブラーニングの一部に過ぎません。グループで雑談しているだけでは、認知プロセス次元のどの段階にも到達しないことがあります。タキソノミーで「どのレベルを狙うのか」を最初に決めた上で、その段階に必要な対話の構造を設計することが大切です。

誤解2: 「評価を後回しにする」
アクティブラーニングは盛り上がりやすいので、体験そのものに満足してしまい、評価設計が後回しになりがちです。整合性の原則に照らすと、ゴールと同じ段階での評価を最初に決めてからアクティビティを設計するのが本来の順序です。

誤解3: 「内省タイムをスキップする」
時間が足りないと内省タイムが真っ先に削られがちですが、内省はメタ認知的知識を育てる中心パーツです。最低でも研修の最後に5〜10分、書き出して言語化する時間を確保するだけでも、定着率が大きく変わります。

まとめ|タキソノミーは”研修の解像度を上げる地図”

改訂版ブルームのタキソノミーは、アクティブラーニング型の研修を設計する上で「研修の解像度を上げるための地図」として機能する強力な枠組みです。6段階の認知プロセス次元と4分類の知識次元を組み合わせることで、「この研修のゴールはどのセルか」「そのセルに合ったアクティビティと評価は何か」を体系的に検討できるようになります。

特に企業研修では、「記憶」「理解」レベルだけで終わってしまう研修と、「分析」「評価」「創造」のレベルまで体験させる研修の差が、現場での行動変容に直結します。研修担当者の方は、次に企画する研修のゴールを動詞で書き出し、それがタキソノミーのどのセルに対応するかを一度マッピングしてみることをおすすめします。

ビジネスゲームを使ったアクティブラーニング型研修にご興味のある方は、ぜひ弊社までお問い合わせください。NASAゲームをはじめとした各種ゲームの資料をご案内します。


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