働き方改革(働く場所改革)とウェルビーイングの関係性

働き方改革の柱の一つが働く場所の改革です。テレワークやリモートワークの普及で、自宅・カフェ・シェアオフィス・サテライトオフィスなど、働く場所の選択肢が広がりました。
2018年当時はまだ一部企業の取り組みでしたが、2020年のコロナ禍で一気に拡大。そして2024年以降は出社回帰やハイブリッドワークへの揺り戻しが各社で起きています。本記事では、テレワークと従業員のウェルビーイングの関係を扱った2017年の学術論文を紹介しながら、制度の意味と活用のポイントを整理します。

テレワークの目的は時代とともに広がっています。2010年代は通勤困難な従業員(妊娠・子育て・介護中)の負担軽減や、企画・開発職の創造性向上、外出が多い職種のICT環境整備が中心でした。コロナ禍以降はワークライフバランス全般・地方移住・副業対応・採用競争力など、目的が多様化しています。
つまり、テレワークやリモートワークは従業員の働きやすさを高め、結果として組織の生産性を高めることを目的とした制度です。
働く場所の選択肢は本当に働きやすさにつながっているのか?
では、働く場所の選択肢は本当に働きやすさにつながっているのでしょうか。それを実証的に調べた論文があります。コクヨと早稲田大学が2017年に発表したものです。
齋藤敦子(コクヨ株式会社)・杉村宏之(早稲田大学) 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2017s/0/2017s_245/_pdf/-char/ja
論文では働く場所の柔軟な選択とウェルビーイングの関係を調査しています。
ウェルビーイングは、ポジティブ心理学の権威マーティン・セリグマン博士によれば、以下の5つの要素で説明されます。
2.Engagement:エンゲージメント、没頭
3.Relationship:関係性、人間関係
4.Meaning and Purpose:人生の意味や意義
5.Achievement:何かを成し遂げること
論文では、1日の業務時間中に感じた「よかったこと」の合計数を「1日のウェルビーイング度」、1日の業務時間中に働いた場所の数を「1日の働く場所の柔軟性」として、両者の関連を分析しています。
分析結果として、大きく3つのことが明らかになりました。
(仮説 2-a、有意水準1%)
2.働く場所の柔軟性が高い群の方が、固定的な群に比べてウェルビーイング度の平均値が高い。
(仮説 2-b・2-c、有意水準5%)
3.感謝する頻度が高い群の方が、頻度が低い群に比べてウェルビーイング度の平均値が高い。
(仮説 3-a、有意水準5%)
つまり、働く場所の選択肢が多く、かつ実際に柔軟に活用している従業員のウェルビーイング度は高い一方、選択肢が多くても活用していない従業員ではウェルビーイング度に直結しない、ということです。
また、ウェルビーイングの先行研究で効果が認められていた「感謝」については、感謝されることよりも感謝することのほうがウェルビーイング度が高いことも示されました。
制度があるだけで活用されてなければ意味がない
論文から言えるのは、テレワーク制度を作っても活用されなければウェルビーイングの向上にはつながらない、ということです。
2018年公開当時、弊社が働き方改革のワークショップを実施したある大手企業では「在宅勤務の制度はあるが、多くの社員が月に1度程度しか利用していない」という声が上がっていました。
ところが2020年のコロナ禍で状況は一変し、多くの企業でテレワークが当たり前になります。一方、2024年以降は出社回帰・原則出社への方針転換を打ち出す企業も増加しており、再び「制度はあるが使えない」状態に戻りつつある現場もあります。
つまり、制度の有無ではなくいかに活用される文化・運用設計を作るかが問われる構造は、2018年から変わっていません。
まとめ
働く場所の柔軟性は、実際に活用されてはじめてウェルビーイングを高めます。コロナ禍を経て揺り戻しが進む2026年現在も、論文が示した「制度より活用」という示唆は色あせていません。ぜひ論文自体も読んでみてください。
齋藤敦子(コクヨ株式会社)・杉村宏之(早稲田大学) 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2017s/0/2017s_245/_pdf/-char/ja
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