ワーク・ファミリー・バランスを保つための2つの条件

目次
1. 研究の前提:保育園に子どもを預けている420世帯へのアンケート
2. 発見1:妻の「家庭が仕事に与える葛藤」が高い
3. 発見2:フレックスタイムは効かない、効くのは「運用レベルの柔軟性」
4. 発見3:夫の家事・育児分担と延長保育の利用しやすさ
5. 2020年代への応用:リモートワーク・男性育休・ジョブ型時代の観点
6. 人事施策として何を優先すべきか
7. 多様な働き方の相互理解を促す:ワークスタイルトランプ
8. 共働き支援・組織開発|研修導入をご検討の方へ
9. ワーク・ファミリー・バランスに関するよくある質問
10. まとめ
仕事と家庭の両立に悩む共働き夫婦・人事・経営者の方向けに、ワーク・ファミリー・バランスを保つための2つの条件を、松田茂樹(第一生命保険研究開発室)の論文「仕事と家庭生活の両立を支える条件」をもとに解説します。
本記事は共働き夫婦のワーク・ファミリー・バランスを保つ実践条件を解説する記事です。ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)の定義や3つの発生メカニズム(時間/緊張/行動)の解説は 定義編記事 をご覧ください。
ワークファミリーコンフリクトとは|共働き時代の両立課題と解決策
結論からお伝えすると、ワーク・ファミリー・バランスを保つ鍵は以下の2つ。
2. 延長保育の利用しやすさ
フレックスタイム制の有無は実は効いておらず、実際に出退勤を自分で決められる・残業を断れる・休暇を取りやすいという運用レベルの柔軟性が決定的であることが示されています。本記事では研究の詳細と、2020年代のリモートワーク/男性育休時代への応用を解説します。
前段の定義編記事は冒頭リンクを参照ください (重複表示のため省略)。
研究の前提:保育園に子どもを預けている420世帯へのアンケート
本研究は東京都と千葉県の保育園に子どもを預けている夫婦420世帯を対象としたアンケート調査に基づいています。対象者には以下2つの概念についての質問項目に回答してもらい分析を行いました。
・ファミリー・ワーク・コンフリクト(家庭が仕事に与える葛藤)

発見1:妻の「家庭が仕事に与える葛藤」が高い
調査で確認された重要な発見の一つは、妻のほうが家庭生活によって仕事に与える葛藤を感じる比率が高いということです。具体的には以下のような項目で葛藤が強く現れていました。
・子育てのために仕事量をおさえなくてはいけない
・子供と過ごす時間をつくるために、長い時間働けない
これは、日本における育児・家事の性別役割分担の偏りが背景にあると考えられます。2006年の調査以降、男性の育児参加率は向上していますが、2020年代においても主たる育児担当は妻側に偏っている家庭が多い傾向は続いています。
発見2:フレックスタイムは効かない、効くのは「運用レベルの柔軟性」
労働環境とワーク・ファミリー・バランスの関係を分析した結果、以下のような興味深い結論が出ました。
・フレックスタイム制はWFコンフリクト・FWコンフリクトの低下に影響なし
・労働時間管理の柔軟性が高いと、夫・妻ともにコンフリクト低下に繋がる
フレックスタイム制の「制度」だけでは効かないという結果は特に印象的です。制度があっても、職場の雰囲気・上司の考え・実際の業務量で実質的に使えない場合、コンフリクトの軽減にはつながらないからです。
むしろ論文では、夫については制度があるほうがコンフリクトを感じやすい傾向も指摘されており、「制度はあるのに活用できない」というジレンマが葛藤を強めることが示唆されています。
一方、労働時間管理の柔軟性とは具体的に以下のような運用を指します。
・残業を断りやすい
・休暇を取りやすい
これらは「制度」よりも「運用・文化」に依存する要素であり、上司・同僚・組織全体の合意形成が前提になります。
発見3:夫の家事・育児分担と延長保育の利用しやすさ
最後の重要な発見は、夫の協力と延長保育の重要性です。
①夫の家事・育児分担率
夫の家事・育児分担率が高いほど、夫のワーク・ファミリー・コンフリクトと妻のファミリー・ワーク・コンフリクトが低いことが確認されました。夫が家事・育児に関与することは、夫自身の家庭葛藤と妻の仕事葛藤の両方を減らす効果があります。
②延長保育の利用しやすさ
延長保育がしにくいほど夫婦のコンフリクトが高まることが示されました。論文では以下のような指摘がされています。
そうした場合に延長保育を利用しやすいことが、夫婦のコンフリクトを低減する。
2020年代への応用:リモートワーク・男性育休・ジョブ型時代の観点
この研究は2006年の発表ですが、核心的な示唆は2020年代にも応用可能です。むしろ働き方改革の進展で選択肢は増えています。
①リモートワーク/ハイブリッドワーク
出勤の物理的制約がなくなり、労働時間管理の柔軟性が実質的に高まる。ただし「常時オンライン状態」による新しいコンフリクト(オンとオフの境界の曖昧化)も発生します。
②男性育休の取得義務化
2022年の育児・介護休業法改正で男性育休取得の義務付けが進みました。これは夫の家事・育児分担率を高める制度的後押しとなります。ただし実態としては、取得期間が短い・業務とのコンフリクトが残るケースも多く、制度だけでなく運用の柔軟性が依然として重要です。
③ジョブ型雇用の広がり
職務が明確化されることで、業務範囲の線引きが可能になり、残業を断りやすい文化が生まれやすくなります。一方、成果主義が強すぎると「家庭のために仕事を制限できない」プレッシャーを生むリスクも。
④保育・学童の拡充
延長保育・病児保育・学童保育の選択肢は広がりつつあります。企業主導型保育所の設置も広がっており、企業レベルの福利厚生として取り組む余地があります。
人事施策として何を優先すべきか
この研究から、企業人事が優先的に取り組むべき施策の優先順位は以下のように整理できます。
①最優先:労働時間管理の「運用」改善
フレックスタイム制度を入れるだけでは不十分。上司の意識改革・残業を断る心理的安全性・休暇取得の奨励を同時に進める。
②次点:延長保育・学童保育との連携
社員の子どもが通う保育園・学童について、延長対応状況の把握と企業主導型保育所の設置検討。
③重要:男性育休・家事参加の文化醸成
男性育休の取得率・期間の目標設定、育休復帰プログラムの整備。家事参加を評価する文化の醸成。
④継続:リモートワーク・ジョブ型への移行
労働時間の柔軟性を制度面から支える仕組みとして、リモートワーク・ジョブ型雇用への移行を段階的に進める。
多様な働き方の相互理解を促す:ワークスタイルトランプ
ワーク・ファミリー・バランスの実現には、自分と他者の働き方観の違いを理解することが前提となります。弊社では相互理解ワークショップツール「ワークスタイルトランプ」を提供しています。

ワークスタイルトランプは、自分が大切にしている働き方の価値観をカードで選び、チーム内で共有するツール。家庭・育児・キャリアなど異なる事情を抱えるメンバーの相互理解に活用いただいています。
2025年10月現在、ワークスタイルトランプの導入社数は190社、受講者満足度は4.59(5点満点)となっております。
詳細はワークスタイルトランプ紹介記事もご覧ください。
共働き支援・組織開発|研修導入をご検討の方へ
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ワーク・ファミリー・バランスに関するよくある質問
Q. フレックスタイムを導入しているのに効果が感じられません
A. 制度の存在だけでは不十分で、実際に活用できる運用になっているかが鍵です。上司の意識・業務量・同僚の反応を含めた職場文化のチェックが必要。「制度はあるが使えない」のでは効果は出ません。
Q. 男性育休を取らせたいが、本人が遠慮して取りません
A. 経営層・管理職層が率先して取得する文化を作ることが重要。取得率の目標数値化・取得者への処遇上の不利益がないことの明示・復職後のキャッチアップ支援の整備がセットで効きます。
Q. リモートワークは本当にワーク・ファミリー・バランスを改善しますか?
A. 一般的にはプラスに働きますが、常時オンライン問題(就業時間外の連絡・会議の長時間化)を管理しないと、かえって仕事と家庭の境界が曖昧になってコンフリクトが増えることがあります。明確なオフ時間の設定が重要です。
まとめ
松田(2006)の研究は、ワーク・ファミリー・バランスに本当に効くのは「労働時間管理の柔軟性」と「延長保育の利用しやすさ」であることを示しています。フレックスタイム制度の「存在」ではなく、運用レベルの柔軟性・文化・保育インフラが決定要因です。
2020年代にはリモートワーク・男性育休義務化・ジョブ型雇用といった新しい要素も加わり、企業の打ち手は増えています。制度と運用・文化をセットで整えることで、共働き世帯の葛藤を減らし、結果として優秀人材の定着・生産性向上につなげることができます。
関連テーマとして共働き時代のワーク・ファミリー・コンフリクト、心理的安全性を知り、高めるゲーム型研修「ベストチーム」もあわせてご覧ください。

