研修を企画するとき、多くの人が「講師=教える人」というイメージを持ちます。しかし実際の現場では、講師の仕事は教えることだけではありません。研修の前後を含めた幅広いプロセスに関わる学びの設計者としての役割があります。

今回は、社内で研修を担当する方やスポットで講師役を任された方に向けて、研修講師の4つの役割(仕事)を、準備から検証までの流れに沿って整理していきます。

研修講師の4つの役割(仕事)の全体像

研修講師の仕事は、大きく「準備」「実施」「検証」の3つのフェーズに分かれます。そして実施フェーズの中では、講師自身がその場でどう振る舞うかによって「ティーチング」と「ファシリテーション(コーチング)」という異なる仕事が必要になります。

研修講師の4つの役割 全体像

つまり、研修講師の4つの役割とは以下の4つです。

・役割1: 研修の準備
・役割2: 実施中のティーチング(教える)
・役割3: 実施中のファシリテーション/コーチング(引き出す)
・役割4: 研修後の検証と改善

研修の質は、実施当日のパフォーマンスだけで決まるものではありません。準備で8割決まる、検証で次の学びが決まると言われるほど、前後のフェーズが重要です。それぞれの役割を順に見ていきましょう。

役割1: 研修の準備

準備は、研修全体の出来を左右する最も重要な仕事です。当日スムーズに進行できるか、参加者が学びを持ち帰れるかは、準備段階での設計と段取りにかかっています。

準備でやることの全容

準備フェーズで講師(または事務局)が担う仕事は多岐にわたります。一例として以下のような項目があります。

・研修ニーズの把握(現場の課題や経営の要請のヒアリング)
・研修目的とゴールの設定
・対象者とレベル感の決定
・カリキュラム(タイムライン)の作成
・会場の決定と環境準備
・投影資料・配布資料の作成
・備品の確保(プロジェクター/ホワイトボード/マーカー等)
・事前案内・受講者への通知
・名簿・座席表・名札の作成
・当日の会場設営と受付準備
・事後アンケートの設計

特に重要な3項目

準備項目のなかでも、研修目的・カリキュラム・資料作成の3つは研修の質を大きく左右する部分です。ここが曖昧なままだと、どれだけ当日の講師パフォーマンスが良くても「何を学んだのか分からない研修」で終わってしまいます。

逆に、備品の準備や座席配置、受付といった運営面がグダグダだと、参加者は研修が始まる前から不安や不満を抱きます。「この講師大丈夫かな」という第一印象は、準備段階の細やかさから生まれます。

役割2: 実施中のティーチング

実施フェーズの1つ目の役割がティーチングです。ティーチングとは、知識を提供したり、スキルを習得してもらったりする「教える」側の関わり方です。

ティーチングが向いている場面

ティーチングは、以下のような場面で効果を発揮します。

・新入社員研修など、共通の基礎知識を一定の質で伝達する必要があるとき
・業務マニュアルや社内ルールを正確に周知したいとき
・専門知識や理論の枠組みを短時間で共有したいとき
・参加者がまだそのテーマの前提知識を持っていないとき

ティーチング一辺倒になりがちな罠

ティーチングは進行が楽で、伝える側(講師)も達成感を得やすい手法です。ただしティーチング一辺倒になると、参加者が受け取る情報量が多すぎて処理しきれなくなることがあります。

いわゆる「聞きっぱなし研修」で、参加者は頷いているものの実際の業務には落ちてこない、という状態です。ティーチングで伝えた内容を、必ず次のファシリテーションで消化するというセットで設計するのが定石です。

役割3: 実施中のファシリテーション(コーチング)

実施フェーズの2つ目の役割がファシリテーションまたはコーチングです。こちらは、問いを投げかけ、議論を進行し、参加者自身の気づきを引き出す「導く」側の関わり方です。

ファシリテーション/コーチングが向いている場面

・参加者が実務経験を持っており、知見を持ち寄って議論する価値があるとき
・理論を伝えたあとに、現場での応用を考えてもらいたいとき
・チームビルディングやリーダーシップ開発など、正解が一つでないテーマを扱うとき
・参加者の行動変容を促したいとき

問いかけの質が成否を決める

ファシリテーションでは、講師が繰り出す問いかけの質が学びの深さを決めます。「どう思いましたか?」だけでは議論が深まらず、「あなたが明日の職場でこれを使うとしたら、どの場面で試せそうですか?」のように具体性のある問いを用意しておくことで、参加者の思考が動き出します。

ファシリテーション一辺倒も不満の元に

一方で、ファシリテーション一辺倒も参加者の不満を招きます。「問いばかり投げかけられて、結局答えが分からないまま終わった」「講師は何を知っているのか分からない」という声につながるためです。ティーチングと同様に、ファシリテーションも単独では完結しないという前提でプログラム設計を行いましょう。

役割4: 研修後の検証

研修が終わったら、それで講師の仕事が終わりではありません。検証というフェーズが残っています。

アンケートで押さえる5項目

研修後のアンケートで押さえておきたい項目は、以下の5点です。

・1. 満足度 (研修全体の満足度、講師への満足度)
・2. 理解度 (講義内容をどれだけ理解できたか)
・3. 活用度 (学んだ内容を職場で使えそうか)
・4. 気づき/学び (印象に残ったこと、新しく気付いたこと)
・5. 改善のポイント (次回に向けた要望や気付いた点)

これら5つを押さえておけば、単なる「楽しかったです」で終わらない、次につながる振り返りができます。

カークパトリックの4段階評価

研修効果の測定には、カークパトリックの4段階評価モデルも広く使われています。Reaction(反応)→Learning(学習)→Behavior(行動)→Results(結果) の順に、研修の効果を段階的に追跡する枠組みです。アンケートだけでは測れない「行動変容」や「組織成果」も視野に入れたいときに有効です。

カークパトリックによる研修効果の測定(4段階評価)

4つの役割のバランス設計

4つの役割を一通り知ったら、次に考えたいのはそれぞれのバランスです。役割の比重をどう置くかは、研修のテーマや参加者の状態によって変わります。

時間配分の目安

1日(6時間)の研修を想定した場合、おおまかな目安は以下の通りです。

・準備: 実施時間の2〜3倍(当日6時間ならば準備に12〜18時間)
・実施(ティーチング): 全体の30〜50%
・実施(ファシリテーション): 全体の50〜70%
・検証(当日振り返り+後日分析): 実施時間の20〜30%

「準備時間が長い」と感じるかもしれませんが、資料作成・カリキュラム設計・リハーサルを含めると、実際にはこのくらいの時間が必要になります。

ティーチングとファシリテーションの配分

参加者の前提知識が少ないテーマ(例: 新入社員研修の法務基礎)では、ティーチング比重を高めに設定します。一方、参加者にすでに実務経験があるテーマ(例: マネジメント研修のケーススタディ)では、ファシリテーション比重を高めに設定します。

講師はこの2つの役割を、同じ研修の中で行き来しながら使い分けることが求められます。常にティーチングモードでいるのではなく、「ここは知識を渡す」「ここは引き出す」と意識的に切り替える意識がポイントです。

研修講師に求められる5つのスキル

4つの役割を踏まえて、研修講師に求められるスキルを整理すると、以下の5つに集約できます。

1. 設計力(準備フェーズ)

研修ニーズを読み取り、ゴールから逆算してカリキュラムを組み立てる力です。参加者が1日の終わりにどういう状態になっていればよいか、を起点にカリキュラムを設計できるかどうかが分かれ目になります。

2. 運営力(準備〜実施)

会場・備品・進行・トラブル対応など、研修運営全般を滞りなく回す力です。講師が登壇するだけでなく、周辺の実務を含めて回せる視野が必要です。

3. 伝達力(ティーチング)

複雑な内容を、聞き手のレベルに合わせて分かりやすく伝える力です。噛み砕いて説明する、具体例を交える、図や比喩を使う、といった日常の訓練が効いてきます。

4. 問いかけ力(ファシリテーション)

参加者の思考や感情を動かす問いを発する力です。質問のストックを事前に用意しておくだけでなく、現場の反応に合わせて問いを変える柔軟さも大切です。

5. 省察力(検証)

実施後に自分のパフォーマンスを客観的に振り返り、次回の改善点を言語化できる力です。アンケート結果だけでなく、自分自身の違和感や気づきも大事な改善材料になります。

社内講師 vs 外部講師の選び方

研修講師の役割を理解すると、自社で講師を立てるのか、外部に依頼するのかの判断軸も見えてきます。

社内講師が向いているケース

・自社の業務や文化に紐づいた内容(新入社員向けの業務研修、社内ルール周知など)
・継続的に同じ内容を展開する必要がある(毎年同じ研修を実施する等)
・コストを抑えたい
・社員の成長機会として、講師役そのものを誰かに任せたい

ただし、社内講師がティーチングやファシリテーションの経験に乏しい場合は、外部の研修ファシリテーション研修を併用して育成する手もあります。

外部講師が向いているケース

・社外の知見や他社事例を持ち込みたい
・参加者の役職が高く、社内講師では遠慮が生まれやすい
・テーマに専門性が必要(法務・財務・ハラスメント等)
・年に1〜2回のスポット開催で、都度準備コストをかけられない

ビジネスゲーム型研修では講師の役割が試される

最後に、弊社ハートクエイクが提供しているビジネスゲーム型研修の文脈でも、4つの役割は強く意識されます。

ビジネスゲーム研修は、講師が長時間講義する形式ではなく、参加者がゲームを通じて自ら体験し、そこから気づきを引き出す形式です。つまり、講師には ティーチング比重よりもファシリテーション比重のほうが高い役割が求められます。

ゲームのルール説明はティーチング、ゲーム中の介入や振り返りディスカッションはファシリテーション、アンケート設計や事後振り返りは検証。4つの役割のバランスがそのまま研修の質に直結します。

弊社の講師派遣型研修では、これらを踏まえた上で経験豊富なファシリテーターがプログラムを設計・実施しています。研修講師の役割を意識しつつ、体験型研修を検討される場合は、以下のビジネスゲーム一覧ページもあわせてご覧ください。

ハートクエイクのビジネスゲーム一覧

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 研修講師は「教える」だけが仕事ではないのですか?

はい、教えること(ティーチング)は研修講師の仕事の一部にすぎません。本記事で紹介したように、準備・実施(ティーチング/ファシリテーション)・検証という4つの役割を通じて、参加者の学びを設計することが講師の仕事です。実施当日だけ見て「講師は教える人」と捉えると、重要な役割を見落としてしまいます。

Q2. ティーチングとファシリテーションはどちらが重要ですか?

どちらも重要で、片方だけでは研修が成立しません。テーマや参加者の状態によって比重は変わりますが、一般的には「知識を渡す→気づきを引き出す→実務への応用を考える」という流れで両者を組み合わせるのが定石です。経験豊富な講師ほど、同じ研修の中でこの2つを自然に行き来します。

Q3. 社内講師として研修を担当することになりました。何から準備すればよいですか?

まずは「研修のゴール(参加者にどうなってほしいか)」を言語化するところから始めましょう。ゴールが決まれば、カリキュラム・資料・アンケート項目が逆算で決まります。いきなり資料を作り始めるのではなく、最初の1時間はゴール設定に充てるのがおすすめです。

Q4. 外部講師に依頼する場合、どういう基準で選べばよいですか?

講師のティーチング力だけでなく、準備段階での設計力とヒアリング力を重視してください。事前の打ち合わせで「御社の現場ではどういう場面でこの研修が必要ですか?」と深く聞いてくれる講師は、現場に合ったプログラムを作れる可能性が高いです。逆にパッケージ教材をそのまま提供する提案しかない場合は要注意です。

まとめ

研修講師の4つの役割(仕事)を整理すると、以下のようになります。

・1. 準備 (ゴール設定・カリキュラム・資料・運営)
・2. 実施中のティーチング (知識伝達・スキル習得)
・3. 実施中のファシリテーション/コーチング (問いかけ・議論進行)
・4. 検証 (アンケート分析・次回改善点の特定)

「講師=教える人」ではなく、「講師=学びを設計・運営する人」という視点に立つと、準備と検証の重要性が見えてきます。ティーチングとファシリテーションを行き来しながら、参加者の気づきと行動変容をどう設計するか、が研修講師の腕の見せどころです。

本記事が、社内で講師役を担う方や、外部講師を選ぶ担当者の方の参考になれば幸いです。


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