不正のトライアングルとは

不正のトライアングル(Fraud Triangle)動機・機会・正当化

「なぜあの人が不正を?」「うちの会社に限って…」──企業不正のニュースを見て、そう思ったことはありませんか。

実は、不正は特別な悪人が起こすものではありません。「普通の人」が不正に手を染めてしまう条件が、1953年に犯罪学者ドナルド・クレッシーによって明らかにされています。

それが「不正のトライアングル(Fraud Triangle)」です。

クレッシーは、詐欺罪で服役中の約200人にインタビューを行い、不正行為が発生するには3つの要素が揃う必要があることを発見しました。

要素 英語 意味
圧力 Pressure 不正を行う動機となるプレッシャー
機会 Opportunity 不正を実行できる環境・状況
合理化 Rationalization 不正を正当化する心理

出典: Cressey, D.R. (1953). Other People’s Money: A Study in the Social Psychology of Embezzlement.

この3つが揃ったとき、これまで真面目に働いてきた人でも不正に手を染めてしまう。逆に言えば、3つのうち1つでも取り除けば、不正は防げるということです。

3つの要素を具体例で理解する

① 圧力(Pressure)── 不正への動機

「やらなければならない」と感じる状況が、不正の引き金になります。

・売上目標の未達 → 数字を水増ししてしまう

・過度な成果主義 → 短期的な成果のためにデータを改ざんする

・経営危機 → 粉飾決算で資金調達を続ける

・個人的な借金 → 会社の金に手をつける

圧力は組織的なものと個人的なものがあります。特に組織的な圧力(過剰なノルマ、「結果を出せ」という上からのプレッシャー)は、組織ぐるみの不正につながりやすい点で危険です。

② 機会(Opportunity)── 不正ができる環境

「やろうと思えばできてしまう」環境が、不正を可能にします。

・業務が1人に集中している(属人化)

・ダブルチェックの仕組みがない

・上司が現場の業務内容を把握していない

・監査が形骸化している

KPMG FASが実施した「Fraud Survey 2024」では、不正の根本原因として「属人的な業務運営」を過半数の企業が挙げています。1人で発注から承認、経理処理まで完結する状況が、不正の温床になっています。

出典: KPMG FAS「Fraud Survey 日本企業の不正に関する実態調査2024」

③ 合理化(Rationalization)── 自分を納得させる心理

不正を行う人は、自分の行為を「仕方がない」と正当化します。

・「一時的だから。あとで戻せばいい」

・「会社のためにやっている」

・「みんなやっている。自分だけじゃない」

・「自分は正当に評価されていない。これくらい当然だ」

・「誰にも迷惑をかけていない

合理化は本人の中で無意識に行われるため、外から止めるのが最も難しい要素です。だからこそ、研修で「合理化の心理」を事前に知っておくことが重要になります。

不正のダイヤモンド ── 第4の要素「能力」

2004年、ウルフとハーマンソンは不正のトライアングルに第4の要素「能力(Capability)」を加えた「不正のダイヤモンド(Fraud Diamond)」を提唱しました。

要素 説明
圧力 不正への動機・プレッシャー
機会 不正が可能な環境
合理化 自分を正当化する心理
能力 不正を認識し、実行できる地位・スキル・度胸

出典: Wolfe, D.T. & Hermanson, D.R. (2004). “The Fraud Diamond: Considering the Four Elements of Fraud.” The CPA Journal, 74(12), 38-42.

圧力・機会・合理化が揃っても、実行する地位・知識・度胸がなければ不正は起きません。逆に言えば、組織内で権限を持つ人ほど不正を実行できてしまいます。

実際、KPMGの調査では不正実行者の約7割が役員や管理職であることが報告されています。権限と知識を持つ人がトライアングルの3要素にさらされたとき、不正のリスクは最大化します。

不正が起きやすい組織の特徴

日経リサーチの調査によると、「風通しの良い職場ではコンプライアンス違反が起きにくい」ことが3万人規模のデータで示されています。

では、不正が起きやすい組織とはどのような組織でしょうか。以下のチェックリストで確認してみてください。

不正リスク チェックリスト

No. チェック項目 対応する要素
1 達成困難なノルマや目標が設定されている 圧力
2 成果が過度に重視され、プロセスが軽視される 圧力
3 業務が特定の人に集中している(属人化) 機会
4 ダブルチェックや承認フローが形骸化している 機会
5 上司に意見や懸念を伝えにくい雰囲気がある 合理化
6 問題が起きても原因究明や再発防止がされない 合理化
7 「昔からこうだから」で慣習が見直されない 合理化

参考: 日経リサーチ コンプライアンス経営診断プログラム / KPMG FAS Fraud Survey 2024

3つ以上当てはまる場合、組織として不正のトライアングルが成立しやすい環境にある可能性があります。

研修でどう伝えるか

不正のトライアングルを座学で教えるだけでは、「知識」にはなっても「自分ごと」にはなりにくいのが現実です。

コンプライアンス研修で本当に伝えるべきは、「自分もこの構造にハマりうる」という気づきです。

効果的な研修のポイント

1. 「あなたならどうする?」を問う

架空の事例ではなく、自社で起こりうるシナリオを使ってグループディスカッションを行う。「自分だったら…」と考えることで、合理化の心理を実感できます。

2. 認識のズレを可視化する

同じ行為でも「問題ない」と思う人と「アウト」と思う人がいます。この認識のズレを見える化することで、「自分の判断基準は絶対ではない」と気づけます。

3. 「声を上げる練習」をする

不正を見つけたとき、どう行動するか。内部通報制度の存在を知るだけでなく、実際に「おかしいと思います」と言う練習をすることが重要です。

まとめ

不正のトライアングルが教えてくれるのは、「不正は個人の問題ではなく、構造の問題である」ということです。

圧力を生む過度なノルマを見直す

機会を減らす内部統制を整備する

合理化させない風通しの良い組織文化をつくる

この3つのうち1つでも取り除くことが、不正の防止につながります。

コンプライアンス研修は「やってはいけないことを教える場」ではなく、「自分も不正の構造に巻き込まれうることに気づく場」です。不正のトライアングルは、その気づきを促す最も有効なフレームワークの一つです。


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