今回は、ここ数年ビジネス・教育現場で注目されているレジリエンスについて、心理学の測定尺度「二次元レジリエンス要因尺度 (BRS: Bidimensional Resilience Scale)」を軸に解説します。

レジリエンス (resilience)
…「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」などと訳される心理学用語。ストレスやショックを受けても折れずに立ち直る、しなやかな心の働きを指す。

イメージとしては、サンドバッグのように「打たれても戻ってくるしなやかさ」や、ボールを手で押したときに元に戻ろうとする反発力が近い比喩です。

レジリエンスのイメージ (サンドバッグ)

本記事では、平野真理氏(2010)が開発した二次元レジリエンス要因尺度(BRS)を軸に、レジリエンスを「資質的要因」と「獲得的要因」の2次元で捉える視点、21項目の質問紙・採点方法、ビジネス・教育現場での活用法、そしてレジリエンスを伸ばす体験型研修アプローチまで一気通貫でまとめます。レジリエンスの診断テストとしてBRSを導入したい人事・教育担当者のレジリエンス研修企画の下地としてご活用ください。

レジリエンスとは何か

レジリエンスは、心理学の文脈では「逆境・ストレス・困難に直面したときに、それを乗り越え、立ち直る心理的プロセスと能力」と定義されます。もともとは物理学で「弾性・復元力」を指す言葉で、1970年代以降、発達心理学・臨床心理学の分野で「困難な環境下でも適応的に発達する子ども」の研究から概念化されました。

現代のビジネス現場では、VUCA・テレワーク・ハイブリッド勤務・中途採用比率の上昇など、従業員に持続的なストレス対応力が求められる環境変化が進んでいます。メンタルヘルス不調の早期発見・予防の観点からも、レジリエンスを測定・育成する取り組みが人的資本経営の重要テーマになっています。

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二次元レジリエンス要因尺度(BRS)とは

二次元レジリエンス要因尺度(BRS)は、東京大学の平野真理氏が2010年に発表した論文で提案されたレジリエンス測定尺度です。

レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み
――二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成
平野真理

パーソナリティ研究 2010年 19巻 2号 p. 94-106
https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/19/2/19_2_94/_article/-char/ja/

BRSの最大の特徴は、レジリエンスを「資質的要因」と「獲得的要因」の2次元に分けて測定する点にあります。資質的要因は生まれ持った気質の影響が強い側面、獲得的要因は後天的な経験・学習を通じて身につく側面を指します。

この2次元構造によって、「この人は資質的な楽観性は高いが、獲得的な問題解決志向が弱い」といったレジリエンスの内訳を立体的に把握できるようになり、単一合計点では見えない個人差・育成の介入ポイントを特定できます。

資質的レジリエンス要因(4因子)

資質的レジリエンス要因は、個人の気質的な特徴に根差した4つの因子で構成されます。

1. 楽観性
将来に対して肯定的な期待を保持する傾向。困難な状況でも「最終的には何とかなる」という見込みを持てる力です。

2. 統御力
体調や感情といった自分ではコントロールしにくい側面を、自覚的に統御する力。疲労やイライラを言語化して整え直す力もここに含まれます。

3. 社交性
他者と関わることを好み、コミュニケーションを取るのが容易な傾向。困難時に周囲の支援を引き出しやすい土台になります。

4. 行動力
物事に対して目標や意欲を持ち、それに向かって努力・達成できる能力。立ち直りの局面での能動的な行動化につながります。

これら4因子は、気質的な個人差が大きい領域ですが、職場環境・上司のフィードバック・研修設計によって行動レベルでの引き出し方は変えられます。

獲得的レジリエンス要因(3因子)

獲得的レジリエンス要因は、経験・学習を通じて後天的に身につく3つの因子で構成されます。研修や教育介入の主たる対象は、この獲得的要因です。

1. 問題解決志向
問題を積極的に解決しようとする志向性、および解決スキルを学ぼうとする傾向。「困った→解決策を探す」という反応パターンの習慣化です。

2. 自己理解
自分自身の考えや特性について理解し把握する力。自分の反応パターン・ストレス源・強み弱みへの気付きが含まれます。

3. 他者心理の理解
他者の心理を認知的に理解する力。対立や摩擦の局面で相手の立場・感情を推測し、建設的に対応するスキルの基盤です。

獲得的要因は研修・経験学習・対話・フィードバックなどの介入で育成可能なため、組織の人材育成施策では特にこの3因子に焦点を当てる設計が有効です。

21項目の質問紙と採点方法

BRSでは、資質的要因4因子+獲得的要因3因子の計7因子を、合計21項目の質問紙で測定します。各項目に対し、「1. まったくあてはまらない」〜「5. よくあてはまる」の5件法で回答します。

二次元レジリエンス要因尺度 (BRS) の質問紙と採点
出典: 平野真理 (2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み――二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成. パーソナリティ研究, 19, 94-106.

採点は原則として各因子内の項目得点を合計し、因子ごとのプロフィールで評価します。自己理解因子のQ11は逆転項目になっているため、採点時に反転処理(6−回答値)が必要です。

尺度開発者である平野氏の尺度利用マニュアルには、次の重要な注意が記されています。

必ずしも本尺度の総得点が高いことが望ましいわけではないことに留意し、個人の有するレジリエンス要因をプロフィール的に理解するために活用いただければ幸いである。

詳細な採点方法・同意書の取り扱い・逆転項目の処理は、以下のマニュアルに記載されています。

「二次元レジリエンス要因尺度」使用マニュアル (日本パーソナリティ心理学会)

ビジネス・教育現場でのBRS活用

BRSは21項目と比較的軽量な尺度で、5〜10分で実施できます。そのため、研修前後のアセスメント・自己理解ワークの教材として導入しやすい特長があります。

新入社員研修では、入社直後と3ヶ月後・6ヶ月後の複数時点で測定し、獲得的要因の変化を追うパターンが一般的です。内定者研修では、自己理解ワークと組み合わせて「自分のレジリエンスの強み・弱みを言語化する」材料として活用できます。

管理職・リーダー研修では、自分自身のレジリエンスだけでなく、部下のレジリエンスをどう観察・支援するかの視座を得るための素材として有効です。ストレスチェックの結果と合わせて読むことで、個人の「やられ方」と「立ち直り方」のパターンを把握できます。

教育現場では、大学生・専門学校生のキャリア教育・就業準備プログラム、看護・医療教育の実習前後評価などに広く利用されています。

実施時のポイントは3つ。第一に、総得点ではなくプロフィール(因子別レーダーチャート)で結果を返すこと。第二に、結果を人事評価に使わないと明言すること。第三に、事前・事後の2時点以上で測定し変化量を対話の素材にすること。

レジリエンスを高めるアプローチ

獲得的要因(問題解決志向・自己理解・他者心理の理解)は、適切な介入により育成可能であることが先行研究で繰り返し示されています。代表的なアプローチを3つ紹介します。

認知再評価トレーニング

同じ出来事をどう解釈するかによって、ストレス反応の強度は大きく変わります。「ABC理論(Ellis)」や「思い込み犬モデル(レジリエンストレーニング)」に基づき、自動思考を自覚し、代替的な解釈を探す練習を積むことで、問題解決志向が高まります。

自己理解ワークショップ

ジョハリの窓・ストレングスファインダー・ライフラインチャートなど、自己理解を深めるツールを用いて、自分の思考・反応パターンを言語化します。BRSの結果を振り返りの素材に使うと、自己理解因子の育成に直結します。

体験型ゲーム研修による疑似体験

ストレス場面・対人葛藤・意思決定のプレッシャーを安全に疑似体験できるビジネスゲームは、短時間でレジリエンスの各因子を刺激できる有力な手段です。ゲーム中の自分の反応を振り返ることで、自己理解・他者心理の理解・問題解決志向を同時に鍛えることができます。

レジリエンスを育てる体験型研修ゲーム

株式会社HEART QUAKEでは、レジリエンスの獲得的要因に直接アプローチする研修ゲームを提供しています。BRSの因子との相性で2本ご紹介します。

メンタルヘルスゲーム「ストマネ」

メンタルヘルスゲーム「ストマネ」

ストマネは、ストレスマネジメントをゲーム感覚で学べるメンタルヘルス研修ゲームです。参加者は仮想の業務日常を通じて自分の働き方とメンタルの関係を体験的に把握し、ストレス源の発見・対処法の選択・セルフケアの重要性を学びます。

BRSの観点では、資質的要因の「統御力」と獲得的要因の「問題解決志向」「自己理解」を同時に刺激する設計で、レジリエンス研修の中核ワークとして活用できます。

メンタルヘルスゲーム「ストマネ」 導入社数・満足度グラフ

2026年2月現在、ストマネの導入社数は約60社、受講者満足度は4.92(5点満点)となっております。

ストマネは、「自身と仲間の健康に配慮した働き方」を学ぶことのできる秀逸な学習教材だと思います。全ての労働者に実践的なセルフケア教育として体験して欲しい。また、より健康でイキイキとした組織を目指すマネージャーのラインケア教育として体験してもらいたいです。

スペック
推奨人数: 4〜100名
所要時間: 2〜4時間
形式: カード版(対面)
料金: レンタル5万円〜/講師派遣10万円〜

詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
メンタルヘルスゲーム「ストマネ」紹介ページ

攻略!きみのストレスを発見せよ!

攻略!きみのストレスを発見せよ!

攻略!きみのストレスを発見せよ!は、伊藤絵美先生監修のストレスマネジメントを学ぶカードゲームです。日常で発生するストレッサーを擬似体験し、自分のストレス反応に気づき、適切な対処法を選ぶ力を養います。

BRSの観点では、獲得的要因の「自己理解」を中心に鍛えられる構造で、自分のストレス反応パターンを言語化するセルフモニタリング能力を高め、レジリエンスの基盤を強化できます。

詳細はゲーム紹介ページをご覧ください。
攻略!きみのストレスを発見せよ! 紹介記事

よくある質問(FAQ)

Q1. BRSは自由に利用できますか?

A. 学術研究・教育目的での利用は、適切な出典明記(平野真理 2010)のうえで行われています。商用利用(研修教材としての販売等)を行う場合は、日本パーソナリティ心理学会の利用マニュアル記載の条件を確認のうえ、必要に応じて原著者・出版元への問い合わせを推奨します。

Q2. KiSS-18など他の社会的スキル尺度との違いは?

A. KiSS-18 (菊池 1988)は対人関係スキルに焦点を当てた尺度で、BRSはレジリエンス(ストレス・逆境からの回復力)に焦点を当てた尺度です。両者を組み合わせると、対人スキルと心的回復力の両面から個人のソフトスキルを立体的に把握できます。

Q3. 研修前後で変化が出ない場合、どう解釈すべきですか?

A. 2時点の差だけで判断せず、因子別の内訳・受講者の自己記述コメント・職場での行動観察を組み合わせて総合的に評価してください。特に資質的要因は短期介入では動きにくいため、変化を追う対象は獲得的要因3因子に絞るのが実務的です。

Q4. 総得点の高い/低いで良し悪しを判定できますか?

A. できません。尺度開発者の平野氏も「総得点が高いことが望ましいわけではない」と明記しており、あくまでプロフィール(因子バランス)で個人の特徴を理解するための尺度です。

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その他、実施時期や受講人数など(300文字以内)

まとめ

本記事では、平野真理氏(2010)が開発した二次元レジリエンス要因尺度(BRS)を軸に、レジリエンスを資質的要因と獲得的要因の2次元で捉える視点、21項目の採点法、ビジネス・教育現場での活用、育成アプローチまで解説しました。

要点は3つです。第一に、BRSはレジリエンスを「資質的4因子+獲得的3因子」の2次元7因子で立体的に測定できる尺度であること。第二に、総得点ではなく因子別プロフィールで個人を理解するのが開発者の意図に沿った使い方であること。第三に、獲得的要因は研修・ワークショップ・体験型ゲームなどの介入で育成可能であり、BRSはその効果測定ツールとして有効に機能すること。

レジリエンスは、一度測って終わるものではなく、研修と実務を往復しながら長期的に育てていく資質です。本記事がレジリエンス育成施策の企画・実行の下地になれば幸いです。


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