簡単に解説!システム原型その4:共有地の悲劇

誰でも自由に使える共有資源を、参加者それぞれが個人の合理性で使い続けた結果、資源が枯渇して全員が損をするシステム原型です。対処は ①ルール・上限の合意 ②所有権の明確化 ③相互監視と信頼の仕組み化 の3つ。SDGsや気候変動の議論と同じ構造を持ちます。
【この記事で分かること】
・共有地の悲劇の構造と因果ループ図
・漁場・SDGs・組織内の代表事例
・共有地の悲劇を防ぐ3つのアプローチ
目次
1. 共有地の悲劇とは
2. 因果ループ図|共有地の悲劇の構造
3. 共有地の悲劇の構造|漁場で見る5ステップと現代版
4. ビジネス・組織で起きる共有地の悲劇 3つの典型例
5. 共有地の悲劇から抜け出す3つのアプローチ
6. 「共有地の悲劇」に関するよくある質問(FAQ)
7. 関連研修|SDGs×システム思考「共有地の悲劇ゲーム」
8. まとめ|個人合理性と全体最適のすれ違いを構造で見る
不定期でお届けしているシステム思考の基本となる8つのシステム原型シリーズ。第4回の今回は共有地の悲劇(Tragedy of the Commons)を紹介します。
2025年現在、SDGs・サステナビリティ経営・気候変動対応の議論とあわせて語られることの多いキーワードです。システム思考のレンズで見ると”個人最適と全体最適のすれ違い”がクリアに可視化できます。
過去のシステム原型シリーズは以下からご覧ください。
簡単に解説!システム原型 シリーズ
共有地の悲劇とは
共有地の悲劇(コモンズの悲劇)は、経済学者ギャレット・ハーディンが1968年に論文で広めた概念です。
“自分一人くらい多く使っても大丈夫”という個人合理性が積み重なり、全体としては崩壊するパターンです。漁業資源・気候変動・社内の予算枠まで、規模が変わっても根っこは同じ構造で説明できます。
因果ループ図|共有地の悲劇の構造

※本来は”+”を”S(Same)”、”ー”を”O(Opposite)”で表記しますが、わかりやすさのため”+/ー”で示しています。
| 因果関係 | 内容 |
|---|---|
| 漁獲量↑ → 短期利益↑ | 個人にとっての合理性 |
| 漁獲量↑ → 魚の単価↓ | 供給過多による価格低下 |
| 単価↓ → 必要漁獲量↑ | 生活維持のための乱獲加速 |
| 乱獲 → 資源枯渇 → 全員の漁獲量↓ | 共有地の悲劇の成立 |
この図が示すのは、“個人が合理的に動くほど、全体としては破滅に向かう”という、システム思考が可視化するパラドックスです。短期利益のループが回るほど、長期の資源量を削るループが加速する——この同時進行性が共有地の悲劇の本質です。
共有地の悲劇の構造|漁場で見る5ステップと現代版
分かりやすい事例が漁場です。ある漁場にAさん・Bさんの2人の漁師がいる設定で考えてみます。

画像参照:日経新聞
| ステップ | 起きること |
|---|---|
| ①Aが漁獲量を増やす | 稼ぎが増える |
| ②Bも追随する | 同じか、もっと獲ろうとする |
| ③漁獲量増→単価低下 | 魚が増えて1匹あたりの値段が下がる |
| ④さらに獲らないと生活できない | 加速度的に乱獲が進む |
| ⑤漁場から魚が消える | AもBも廃業 |
漁場という共有地が枯渇すれば、そこに依存する全員に悲劇が訪れる——これが共有地の悲劇の典型的な5ステップです。
そして同じ構造は、現代のSDGs・気候変動・生物多様性の問題でも繰り返されています。
| 共有地 | 個々の合理性 | 全体の悲劇 |
|---|---|---|
| 大気 | CO2を出せばコストが安い | 気候変動/海面上昇/異常気象 |
| 海洋 | 漁獲量を増やせば稼げる | 漁業資源の枯渇 |
| 森林 | 伐採で利益を出せる | 生物多様性喪失/土壌流出 |
| 抗生物質 | 使うほど個別治療の効果が高い | 耐性菌増加 |
| 地下水 | 汲み上げるほど利用できる | 枯渇・地盤沈下 |
漁場・大気・森林・地下水——共有地は変われど、個人合理性と全体最適のすれ違いという構造は同じです。SDGsを単なるスローガンでなく構造として理解する第一歩が、ここにあります。
ビジネス・組織で起きる共有地の悲劇 3つの典型例
共有地の悲劇は地球規模の話だけではありません。企業組織の中でも、毎日のように起きています。代表的な3パターンを紹介します。
例1: 社内会議室・予算枠の取り合い
社内の会議室や年間予算枠は、各部門にとっての共有資源です。「自分の部門だけは確実に押さえておきたい」と各部門が早押し予約や予算先取りをした結果、本当に必要なプロジェクトが会議室を取れない・期中の追加予算が尽きるという事態が起きます。
| 個人合理性 | 全体の悲劇 |
|---|---|
| 部門ごとに会議室を保険で予約 | 空予約だらけで実需が取れない |
| 期初に予算を最大限申請 | 本当に必要な追加投資が通らない |
部門KPIで縛られているほど、共有資源を先取りする行動が”合理的”になり、組織全体の俊敏性が削がれていきます。
例2: 共有サーバー・クラウド予算の食い荒らし
社内共通のサーバー・クラウド予算(AWS / GCPなど)も典型的な共有地です。各チームが「自分のジョブだけ重くても全体は大丈夫」と判断した結果、CPU/メモリの逼迫やコスト上限の突破で、全社の業務が止まるリスクを抱えます。
| 個人合理性 | 全体の悲劇 |
|---|---|
| 自チームのバッチを並列化 | 他チームのジョブが遅延・失敗 |
| 使っていないリソースを残す | コスト上限突破で月末アラート |
「他チームのジョブが落ちても、自分の責任ではない」という状態が共有地の悲劇を加速させます。
例3: 優秀人材の部門間取り合い
優秀な社員も組織全体の共有資源です。各部門が「うちで採用したい・うちのプロジェクトに専任で欲しい」と争奪戦を展開すると、本人の燃え尽き・育成投資の偏り・他部門の機会損失が同時に発生します。
| 個人合理性 | 全体の悲劇 |
|---|---|
| 自部門で囲い込み・抜擢 | 他部門の戦略案件が回らない |
| 案件を集中投入で成果を出す | 本人の燃え尽き・離職リスク増 |
いずれも“自部門の合理性”と”組織全体の最適”がずれた瞬間に発生します。経営はこの3パターンを早期に検知する仕組みが必要です。
共有地の悲劇から抜け出す3つのアプローチ
共有地の悲劇に対する処方箋は、大きく3つに整理できます。どれか1つではなく、組み合わせるのが現実的です。
アプローチ1: ルール・上限の合意
当事者全員で話し合って、共有地の利用上限を決める方法です。漁業の漁獲制限、CO2排出権取引、社内であれば「会議室予約は2週間先まで/1部門3室まで」といった運用ルールが該当します。
短期で導入しやすい反面、合意形成と監視コストが必要です。違反した時のペナルティ設計とセットで運用しないと、形骸化しやすい点が弱点です。社内なら経営会議や横断委員会の承認をもって正式ルール化するのが定石です。
アプローチ2: 所有権の明確化
共有地を分割し、それぞれに所有権・責任を与える方法です。漁業の入漁権、土地の私有地化、社内であればクラウド予算の部門別チャージバック、人材の正式な部門配属などが該当します。
「使った分だけ支払う/結果が自分に返ってくる」状態を作ると、個人合理性と全体最適が一致しやすくなります。一方で分割しにくい資源(大気・全社共通の優秀人材など)には適用しづらい弱点があります。クラウドのチャージバックを導入した企業で、無駄な常時起動インスタンスが激減した事例は典型的な成功パターンです。
アプローチ3: 相互監視と自主管理(オストロム的アプローチ)
ノーベル経済学賞のエリノア・オストロムが体系化した、当事者コミュニティが自分たちでルールを作り、互いに監視する方式です。地域の入会地、地下水組合、社内のSREや横断委員会、エンジニアリング・ガイルドなどが該当します。
外部からの強制ではなく当事者自身が運用するため、ルールが現場に合いやすく、納得度も高い点が強みです。一方で規模が大きくなると機能しにくいため、段階的な仕組み化が必要です。
これら3アプローチを“合意(短期)×所有権(中期)×自主管理(長期)”の順で組み合わせると、現実的な運用に落とし込めます。1つだけに頼ると必ずどこかで穴が生まれます。
「共有地の悲劇」に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 共有地の悲劇とは何ですか?
経済学者ギャレット・ハーディンが1968年に広めた概念で、誰でも自由に使える共有資源(コモンズ)を個々が合理的に最大利用した結果、資源が枯渇し全員が不利益を被る現象です。「個人合理性の積み重ねが全体崩壊を招く」典型構造として、システム思考の基本原型のひとつとされています。
Q2. 漁場以外でどんな現代事例がありますか?
大気・水資源(CO2排出/水質汚染)、地下水のくみ上げ、インターネットの帯域、観光地のオーバーツーリズム、無料SaaSのフリーライドなどが代表例です。いずれも「自分1人くらい」という意思決定が積み重なり、共有資源が劣化・枯渇していく構造を持ちます。
Q3. SDGsや気候変動とどう関係しますか?
SDGs・気候変動・生物多様性の課題は、共有地の悲劇の構造とほぼ同型です。地球や大気という共有資源を、企業・国家・個人がそれぞれの合理性で使い続けることで全体崩壊に向かう、という枠組みで整理できます。SDGs研修で共有地の悲劇を扱う意義はここにあります。
Q4. 共有地の悲劇を防ぐ方法はありますか?
代表的なアプローチは①当事者間の合意・ルール設定(漁獲制限/CO2排出権取引)、②所有権の明確化(共有地を私有地化)、③相互監視と信頼の仕組み化(地域コモンズの自主管理)の3つです。エリノア・オストロムは③の自主管理が機能する条件を体系化し、ノーベル経済学賞を受賞しました。
Q5. 企業内・組織内でも共有地の悲劇は起きますか?
起きます。社内の共有資源(会議室・予算枠・優秀な人材・サーバーリソースなど)を各部門が個別最適で使い切ろうとした結果、組織全体のパフォーマンスが落ちる例が典型です。部門KPIだけを追うと共有地の悲劇に陥りやすく、横断的なルール設定や全体最適の対話が予防策になります。
関連研修|SDGs×システム思考「共有地の悲劇ゲーム」
弊社では、共有地の悲劇の構造をチームで疑似体験できるゲーム型研修をご用意しています。SDGs研修・サステナビリティ研修の体験ワークとして、個人合理性と全体最適の衝突を体感できる設計です。

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まとめ|個人合理性と全体最適のすれ違いを構造で見る
共有地の悲劇は、“個人合理性の積み重ねが全体崩壊を招く”という、システム思考で最も重要な原型のひとつです。漁場・気候変動・社内のリソース配分まで、規模が変わっても根っこの構造は同じ。因果ループ図で可視化し、合意・所有権・自主管理の3アプローチを組み合わせることで、構造の罠から抜け出せます。
シリーズで他のシステム原型も解説していますので、合わせてご覧ください。


