システム思考の認知度は?高校教師の調査論文で見る実態と活用

今回はシステム思考をテーマに、論文をもとにした高校教師の認知度の実態と、ビジネス・教育現場での活用方法について書いていきたいと思います。
静岡県の高校理科教師を対象にした2023年の調査論文(山本 高広)によると、システム思考は教師の間で「論理」「相互作用」「全体俯瞰」など8カテゴリーで認識されている一方、「初めて知った」と回答した教師も少なくなく、授業に取り入れている教師は限られていることが明らかになりました。社会の複雑化に対応するためには、システム思考を学校教育・企業研修の双方で広めていく必要があります。
システム思考とは
あらためて、システム思考とは、物事をシステム(≒仕組み)として捉え、その構造を把握・利用して問題解決を行う思考法です。
「木を見て森を見ず」という諺がありますが、システム思考は「木を見て森も見る」思考法と言われています。
システム思考を理解するうえで欠かせないツールが因果ループ図です。最も有名な因果ループ図はベゾスが書いたとされるAmazonの成長サイクルでしょう。

因果ループ図についてはこちらで詳しく解説しています。
システム思考における因果ループ図の読み書き入門
高校教師の認知度の実態:調査論文の概要
今回紹介するのは、システム思考の学校現場での認知度を実証的に調査した、興味深い論文です。
山本 高広
理科教育学研究/64 巻 (2023) 1 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjst/64/1/64_22043/_article/-char/ja/
この論文では静岡県の高校理科教師を対象にアンケート調査を実施し、システム思考がどれぐらい認知されているのか、またシステム思考を体験できる内容を授業に取り入れているかを明らかにしています。
システム思考は8つのカテゴリーで認識されている
調査の結果、教師たちが「システム思考」という言葉から想起する単語は、以下のような共起ネットワークで表すことができました。

論文では、教師たちのシステム思考の認識を以下の8カテゴリーに整理しています。
例:構成要素を論理的につなげ把握すること
2.「生物に関する学習内容」に言及する記述
例:生態系などについて考える際に、個々の生物のみに着目するのではなく、俯瞰的な視点から総合的に捉える思考
3.「プロセス」に言及する記述
例:考えるためのプロセス
4.「部分や全体の視点」に言及する記述
例:全体の最適化を行う構造を持った思考
5.「相互作用・相互関係」に言及する記述
例:様々な事象現象が相互に関係しあっていることに関してロジカルに物事を考えること
6.「複数・複雑」に言及する記述
例:複数の事象を一体として捉え考えていく
7.「ツール」に言及する記述
例:ループ図を使いシステムとして現象を捉える
8.「その他」に言及する記述
例:現象の本質を理解する
※一部抜粋
特徴的だったのは「生物に関する学習内容」が独立カテゴリーとして現れた点です。これは理科教師ならではの認識で、食物連鎖や環境破壊といった生態系のダイナミクスを、システム思考の典型例として捉えていることが伺えます。
「初めてシステム思考という単語を知った」教師も
一方で、調査を通じてシステム思考という単語自体を初めて知ったと回答した教師も一定数いたことが報告されています。

理科という、本来システム思考と親和性が高いはずの教科でもこの状態である点は、認知普及の課題を浮き彫りにしています。
授業に取り入れている教師は限定的
さらに、システム思考の要素を授業に組み込んでいる教師はまだ多くないという結果も示されています。

システム思考の有用性は理解している教師でも、教材化・授業設計の方法までは持ち合わせていないという、認識と実践のギャップが示唆されます。
調査結果から見える3つの示唆
論文の知見はそのまま企業研修・人材育成の現場にも当てはまります。
1. システム思考は「知っている」と「使える」のギャップが大きい
言葉として知っていても、因果ループ図を描けたり、フィードバックループを意識した意思決定ができる人は多くありません。研修設計においても「インプット型講義」だけでは身に付かないことを前提にする必要があります。
2. 体験を通じた学習が鍵になる
8カテゴリーのうち「ツール」(ループ図)が独立して挙がっていることから、可視化・体験を伴う学びがシステム思考の理解を深めることが分かります。座学よりも、実際に図を描き、シミュレーションを動かす学習が有効です。
3. 「身近な題材」と接続する設計が必要
理科教師が「生物・生態系」を入り口にしているように、ビジネスパーソンには自社の事業構造や顧客行動といった身近なシステムを題材にすると理解が進みます。
システム思考をビジネス・教育で活用する方法
UNESCOが定める「持続可能な市民」の必須コンピテンシー
2017年にUNESCOが発表した持続可能な市民になるために必要な8つのコンピテンシーでは、1番目にシステム思考が掲げられています。複雑な社会課題に取り組む人材の必須スキルとして国際的に位置付けられているわけです。

Learning Objectives
https://www.sdg4education2030.org/education-sustainable-development-goals-learning-objectives-unesco-2017
名著『学習する組織』で体系的に学ぶ
ピーター・センゲの名著『学習する組織』では、システム思考が「組織が学習し続けるための5つのディシプリン」の中核として位置づけられ、1章を割いて詳しく解説されています。氷山モデル、レバレッジポイント、システム原型といった実務に活きる概念を体系的に学べる必読書です。
システム原型を学ぶ:ビジネス現場で頻発する構造
システム思考の知見が結晶化されたものに「システム原型」があります。「成長の限界」「目標のなし崩し」「成功の法則がうまくいかない」など、組織で繰り返し発生する典型的な構造をパターン化したもので、自分の組織の問題を診断する強力なツールになります。
簡単に解説!システム原型 シリーズ
体験型ビジネスゲームで実践的に学ぶ
システム思考は、座学だけでは「分かったつもり」で終わりがちです。弊社では、システム思考のエッセンスを体験的に学べるビジネスゲームを企業研修向けに提供しています。サプライチェーン全体の動きを体感する「ビールゲーム」など、参加者が実際にシステムの一部となって意思決定する体験を通じ、フィードバック遅延・情報共有・部分最適と全体最適のジレンマを身体で理解できる構成にしています。
システム思考に関するよくある質問(FAQ)
Q. システム思考とは何ですか?
A. 物事をシステム(仕組み)として捉え、その構造を把握・利用して問題解決を行う思考法です。「木を見て森を見ず」ではなく「木を見て森も見る」発想で、部分と全体の相互作用を同時に捉える点が特徴です。
Q. なぜシステム思考は認知度が低いのですか?
A. 山本(2023)の調査では、本来親和性が高いはずの理科教師でも「初めて知った」と回答する例があり、教材化や授業設計の方法が十分に確立されていないことが認知普及のボトルネックになっていると示唆されています。ビジネス現場でも同様で、言葉として知っていても実務で使える人は限られています。
Q. システム思考と論理思考は何が違いますか?
A. 論理思考は要素を順序立てて整理し因果を一直線に追う発想です。一方システム思考は要素同士のフィードバックループや遅延を含めた循環構造を扱うため、「Aが原因でBが起きる」だけでなく「BがAに戻ってくる」までを射程に含めて考えます。
Q. システム思考はビジネス現場でどう活用できますか?
A. 自社の事業構造や顧客行動を因果ループ図に起こし、成長を加速させるフィードバックや、効果の薄いレバレッジポイントに資源を投じていないかを点検するのに役立ちます。組織で繰り返し起きる問題は「システム原型」というパターン集に当てはめて診断できます。
Q. システム思考はどう学ぶのが効果的ですか?
A. (1)因果ループ図を実際に描く、(2)システム原型(成長の限界・目標のなし崩し等)を学ぶ、(3)ピーター・センゲ『学習する組織』を読む、(4)ビールゲーム等の体験型ビジネスゲームでフィードバック遅延を体感する、の組み合わせが効果的です。座学だけでは「知っているが使えない」状態に留まりがちなため、可視化と体験を組み合わせるのが重要です。
まとめ:システム思考はもっと多くの人に届ける必要がある
山本(2023)の論文が示したように、システム思考は学校現場でもまだ十分に普及しておらず、ビジネス現場でも同様の状況です。一方で、UNESCOが「持続可能な市民の1番目のコンピテンシー」と定めるほど、これからの社会で必須のスキルでもあります。
弊社では今後もシステム思考に関する記事の発信と体験型ビジネスゲームの開発・提供を通じて、認知と実践のギャップを埋める取り組みを続けていきます。
論文も無料で公開されていますので、ぜひ原文も読んでみてください。
山本 高広
理科教育学研究/64 巻 (2023) 1 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjst/64/1/64_22043/_article/-char/ja/
