チームでの振り返りが活動の改善につながるという実験結果
個人の内省だけでなく、チームで振り返ることが活動の改善につながることを、秋保・縄田・池田・山口(2018)「チームの振り返りで促進される暗黙の協調:協調課題による実験的検討」が実験で示しています。ただし興味深いのは、一定の試行回数を経た後に差が出るという点と、「価値観の一致(共有メンタルモデル)」が成果の決定要因ではない可能性が示唆されたことです。
本記事では、実験の概要、結果の解釈、残された疑問、実務への応用までを整理します。
秋保 亮太(中京大学) / 縄田 健悟(福岡大学) / 池田 浩(九州大学) / 山口 裕幸(九州大学)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssp/34/2/34_1705/_pdf/-char/ja
個人の振り返り(内省)とチームの振り返りの違い
これまでの記事で、労働時間が短い管理職が行っている5つの行動や変革型リーダーは内省するで、個人の振り返りの重要性を扱ってきました。振り返り(内省的省察)は以下のような行動を指します。
・経験したことを多様な視点から捉え直す
・自分の仕事の成功や失敗の原因を考える
・様々な意見を求めて自分の仕事のやり方を見直す
引用: 職場における経験学習尺度の開発の試み
木村充、舘野泰一、関根雅泰、中原淳
https://ci.nii.ac.jp/naid/10029782312
個人でこの内省を行うか、チームで行うかは、別の効果を持ちます。今回はチームでの振り返りに焦点を当てます。
実験の設計:2人1組のボール移動ゲーム
論文では以下のような実験が行われました。


ゲーム内容: ボールをスタートからゴールまで、台に書かれた数字の順に進むようにハンドルを操作して移動させる。会話・身振り手振りによるコミュニケーションを全て禁止し、暗黙の了解だけで協調する設計。
実験手順:
1回のゲームはスタートからボールが落ちるまで
12回を1セット
1セット終了後に質問表記入
2セット(計24回)実施
条件分け: 2グループに分けて比較
・A: 1回のゲーム後に1分間ゲームに関する会話を行ったチーム(振り返りあり)
・B: 1回のゲーム後に1分間雑談を行ったチーム(振り返りなし)
この振り返りの有無で、暗黙の協調遂行度(ボールの進行度)に違いが出るかを検証しています。
実験結果:試行回数を重ねると差が出る

結果として、試行数が増すにつれて、振り返りあり条件と振り返りなし条件に暗黙の協調遂行度の差が出ていることが確認されました。最初の数回では差が見られませんが、後半になるほど振り返りありチームのパフォーマンスが優位になっていきます。
このことから以下の結論が導かれます。
チームでの振り返りは活動の改善につながる。ただし、その効果は一定の試行回数を経た後に現れる。
意外な発見:「価値観の一致」は決定要因ではなかった
この実験で特に興味深い発見は、「よい成果を出していたチームのほうが共通の価値観(共有メンタルモデル)を持っていたわけではない」ということです。
直感的には、成果を出していたチームのほうがゲームに関する価値観(「2人で呼吸を合わせるのが大事」など)が一致していて、成果を出していないチームは一致していない、と予想したくなります。しかし実験では、価値観の一致と成果の間に有意な相関は確認されなかったのです。
つまり、「振り返りが効果を生むメカニズム」は価値観の共有ではない別の要因にあるということ。では何が要因なのか——この実験ではそこまでは解明されていません。これは「振り返りの中の何が成果に影響を与えるのか?」という面白い謎を残す結果です。
実務への3つの応用示唆
この実験結果から、実務への応用ポイントを3つ整理します。
①チームでの振り返りは「時間をかけて効く」
「1回だけ振り返りをやっても効果が出ない」と諦めないこと。週次・月次の定期的な振り返りを継続することで、一定期間を経てからパフォーマンスに現れます。短期的な効果測定だけで「無駄」と判断するのは早計です。
②「価値観の統一」を目的にしすぎない
「チーム内で価値観を揃えよう」と過度にこだわる必要はありません。価値観が揃っていなくても振り返りは機能することが示唆されています。多様な価値観を許容したうえで、振り返りの機会を設けることに注力すべきです。
③暗黙の協調に意識的な振り返りを加える
業務では多くの部分が「暗黙の了解」で動いています。その暗黙領域に意識的な対話と振り返りを加えることで、徐々に協調の質が上がっていく——これが本実験の本質的な示唆です。
チームの振り返りを定着させる5つの工夫
実務でチーム振り返りを導入・定着させるコツを整理します。
①決まった時間・場所でルーティン化
毎週金曜午後・隔週火曜朝など、予測可能な時間に実施。「振り返りの時間」を業務スケジュールに組み込む。
②短時間から始める
いきなり1時間の振り返り会を設定するとハードルが高い。15〜30分の軽い振り返りから始めるのが定着しやすい。
③フレームワークを使う
KPT(Keep-Problem-Try)、YWT(やったこと-わかったこと-つぎにやること)、4行日記など、思考の切り口を提供するフレームを使うと議論が散らばらない。
④ファシリテーター役をローテーション
同じ人が毎回進行するとマンネリ化。持ち回りでファシリテーターを担当することで、メンバー全員が振り返りを「自分ごと化」できる。
⑤「次のアクション」で必ず閉じる
振り返って終わりではなく、次週のアクションを明文化して閉じる。これがないと振り返りが「反省会」で終わってしまいます。
チーム振り返りに関するよくある質問
Q. 何回ぐらい振り返りをすれば効果が出ますか?
A. 本実験では24試行(2セット)の後半で差が明確化しました。業務に置き換えれば、週次の振り返りを3〜6ヶ月継続して初めて効果が実感できる目安と考えられます。
Q. 全員が発言することが大事ですか?
A. 全員発言自体が目的化すると形式的になります。心理的安全性が確保された場で、発言したい人が発言できる環境を作ることのほうが重要。
Q. 成果が出ないチームの振り返りはどう改善すべきですか?
A. まず振り返りのテーマが具体的すぎないかを確認。抽象度を一段上げて「どんなときうまくいったか」を振り返ると、見えてくるパターンが変わります。
まとめ
秋保ほか(2018)の実験は、チームでの振り返りが活動の改善に効くこと、ただし一定の試行回数が必要であること、そして「価値観の一致」は決定要因ではなさそうだ、ということを示しました。
実務では、ルーティン化・短時間から・フレームワーク活用・ファシリテーター輪番・次のアクションで閉じる、という5つの工夫で振り返り文化を定着させるのがおすすめです。
関連テーマとしてビジネスマンはどのように内省しているのか?、リフレクティング・プロセスを用いたチームでの振り返りのやり方もあわせてご覧ください。
