Slack・Teams・Chatworkなどビジネスチャットが普及した現在、メンションの嵐・通知疲れ・既読プレッシャーといった「社内SNS疲れ」も広がっています。そんな中、岩本ほか(2018)の論文「企業内つぶやきシステムの効用のモデル化」で紹介されている制約の強いシンプルな社内SNS設計が、改めて価値を持っています。

本記事では、論文で紹介された企業内つぶやきシステムの仕組み、確認された8つの効果、そして2020年代の社内コミュニケーション課題への応用までを解説します。

参考論文: 企業内つぶやきシステムの効用のモデル化 2018
岩本 茂子, 小川 祐樹, 諏訪 博彦, 太田 敏澄

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ssi/7/2/7_1/_article/-char/ja/

社内SNSが広まっている背景

社内SNS Slack

多くの企業が社内SNSを導入する目的は、インフォーマルなコミュニケーションの促進、情報共有・人間関係構築です。広まった背景には以下の要因があります。

・多拠点事業所間のコミュニケーションの必要性
・リモートワーク普及によるオフィス接触の減少
・働き方の多様化(時短・フレックス・副業等)
・Z世代・ミレニアル世代のチャット文化への親和性
・Slack・Teamsなどビジネスチャットツールの成熟

近年は「社内SNS」よりもビジネスチャットという呼称が一般的ですが、機能としてはインフォーマルな投稿・グループ対話・プロジェクト単位のチャンネルなど、SNS的な要素を含みます。

ビジネスチャット普及の「副作用」

一方で、2020年代に入って社内SNS/ビジネスチャットの副作用も顕在化しています。

①通知疲れ: 常時接続状態で脳が休まらない
②オーバーコミュニケーション: 情報過多で重要な情報が埋もれる
③既読・反応プレッシャー: 即返信・スタンプ反応を求められる心理的負担
④非同期のはずが同期化: 本来非同期ツールなのに、即時応答を期待する文化の形成
⑤ネガティブな反応の連鎖: 匿名性やテキスト表現でネガティブ反応が増幅する危険
⑥境界の曖昧化: 就業時間外の通知でオン/オフの切れ目が失われる

これらの副作用は、「自由度が高い」設計から生じている側面があります。そこで、あえて制約を強く設計したシンプルな社内SNSが、改めて注目されるようになっています。

論文で紹介された「企業内つぶやきシステム」の仕組み

岩本ほか(2018)の論文で紹介されていた企業内つぶやきシステムは、日常的なビジネスチャットとは全く異なる制約の強い設計になっています。

1. 午前8:30に利用社員へ投稿催促メールが届く
2. 投稿するのは今日の意志(気分)と1行のメッセージだけ
3. 午前11:30に、その時間までに投稿した人のメッセージ一覧と意志の集計結果がメール配信される
4. ただし、11:30のメールが届くのは2で投稿した人のみ(投稿しなかった人には届かない)

企業内つぶやきシステムの配信メール
画像参照: 企業内つぶやきシステムの効用のモデル化 図2

論文ではシステムの制約を以下のようにまとめています。

本つぶやきシステムの制約をまとめると、
「1日1回の発信であること」
「発信をした者しか、他の発信者のメッセージを受け取れないこと」
である。

設計が生み出す「3つの面白さ」

このシステム設計には、通常のビジネスチャットにはない3つの特徴があります。

①「投稿しないと読めない」相互性の設計
発信者のみが他の発信者のメッセージを読める仕組みは、ギブアンドテイクの構造を強制します。情報を得るためには自分から発信する必要があり、結果として組織全体の発信率を引き上げます。

②「1日1回・1行」という制約
文量・頻度の制約があることで、負担が最小化されます。通知疲れ・オーバーコミュニケーションとは無縁の設計です。

③「いいね・コメントができない」
投稿への反応はリアル対面でしかできない設計。結果として、社内SNSがリアルコミュニケーションのきっかけになります。また、ネガティブな反応が投稿に対して起こりづらい副次効果もあります。

論文が確認した「8つの効果」

論文によれば、利用社員へのアンケート・インタビューによって8つの効果が確認されています。

書くメリット
1. 情報公開: 自分の状態を他人に伝えることができる
2. 関係構築: 他の人との会話のネタができる
3. 自己啓発: 1行書くために脳を使う
4. ルーティン: 1日の始まりという区切りになる

読むメリット
5. 状況認識: 他の人の状態を知ることができる
6. 他者認識: 他の人の興味のあることがわかる
7. 時事トピック: 旬な話題がわかる
8. ストレス発散: なんとなしの息抜き

企業内つぶやきシステム効果モデル
画像参照: 企業内つぶやきシステムの効用のモデル化 図5

論文は8つの効果を3つのカテゴリに集約しています。

関係構築(2.関係構築+6.他者認識)
社会的スキル向上(3.自己啓発+7.時事トピック)
ストレス軽減(4.ルーティン+8.ストレス発散)

つまり、制約の強いシンプルな社内SNS設計が、人間関係・スキル・ストレスの3面で正の効果を持つことが実証されています。

既存ツールでの類似機能実装アイデア

論文で紹介された企業内つぶやきシステムは独自開発でしたが、既存のビジネスチャットでも類似の設計思想は実装可能です。

①Slackの「朝会チャンネル」運用
毎朝決まった時間に1人1投稿ルールでチャンネル投稿。投稿しないと読まれない非同期の朝会として運用可能。ただし意思的な運用ルールが必要。

②Notion・Trelloの「気分ボード」
チームメンバーが今日の気分アイコン+1行メッセージを更新する簡易的なカード。閲覧と投稿のバランスを可視化。

③社内専用の簡易アプリ
Google Apps ScriptやZapierで、メール投稿→集計メール配信のワークフローを構築。論文に近い設計を低コストで再現可能。

④既存ツールでの制約運用
「1日1投稿まで」「返信はリアルで」などの運用ルールとして合意することで、既存のSlackでも近い効果を生み出せる。

ストレスマネジメントを体験的に学ぶ研修

ツール導入・運用ルール整備に加えて、社員個々人のストレス対処力がチーム全体のコミュニケーションの質に影響します。過剰な負荷を抱えた状態での発信は、関係性を痩せさせがちです。

弊社のメンタルヘルスゲーム「ストマネ」は、ラインケア(管理職による部下のメンタルヘルス対応)を体験的に学ぶカードゲーム型研修。社内SNSの運用改善と並行して実施することで、過度なストレスを早期に発見・対処する組織的な仕組みづくりに繋がります。

ストマネ

2026年2月現在、ストマネの導入社数は約60社、受講者満足度は4.92(5点満点)となっております。

ストマネ 導入社数・満足度グラフ

詳細はストマネ紹介記事もご覧ください。

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社内SNS設計に関するよくある質問

Q. 既に導入しているSlack/Teamsを置き換える必要がありますか?
A. いいえ、必ずしも置き換える必要はありません。論文の設計思想を運用ルールとして取り入れるだけでも効果が期待できます。例えば「朝の1投稿チャンネル」を別途作るなどの工夫から始められます。

Q. 投稿を強制すると社員が嫌がりませんか?
A. 完全強制ではなく、投稿しないと読めないという設計により、「読みたい人は自然に投稿する」構造になります。強制ではなく仕組みでインセンティブを与える設計がポイントです。

Q. テキストコミュニケーションが苦手な人はどうすれば?
A. 1行のみという制約があるため、長文が苦手な人にも参加ハードルが低い設計です。「天気」「調子」「今日の目標」など、極めて短い投稿で十分として運営する合意形成がおすすめです。

まとめ

SlackやTeamsが普及した現在、制約のあるシンプルな社内SNS設計は改めて価値を持っています。岩本ほか(2018)の「企業内つぶやきシステム」は、1日1回・1行・リアクション不可という制約の中で、関係構築・社会的スキル向上・ストレス軽減という3つの効果を実証しました。

既存のビジネスチャットでも類似の運用ルールを取り入れることは可能。ツール導入だけでなく、組織の関係性の質を高めるチームビルディング研修と組み合わせることで、より効果的な社内コミュニケーション改善が実現できます。

関連テーマとして職場のメンタルヘルスマネジメントを促す体験型研修「ストマネ」もあわせてご覧ください。

参考論文:
企業内つぶやきシステムの効用のモデル化 2018
岩本 茂子, 小川 祐樹, 諏訪 博彦, 太田 敏澄

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ssi/7/2/7_1/_article/-char/ja/


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