今回は研修担当者向けに、企業内研修の改善プロセスを長期データで検証した論文をご紹介します。佐々裕美・向後千春両氏が日本教育工学会論文誌に発表した『企業内研修における研修改善の長期的実践と授業理解度に対する効果の評価』(2021年)は、2008年から2019年までの12年間にわたる研修改善の実践と効果を追跡した貴重な研究です。

結論:論文が示す3つのポイント

先に本論文の結論を整理すると以下の3点です。研修担当者が自社研修を改善する際のチェックポイントとしても有用です。

・「講座体系の整備」「重要ポイントの策定」「テスト結果の即時フィードバック」の3施策が受講者の理解度向上に有意に寄与した
・これら施策の効果量は同程度で、どれか1つだけでなく組み合わせて実施することの重要性が示唆される
レクチャー型よりも実習型の研修のほうが全フェーズで理解度が高かった

企業内研修における研修改善の長期的実践と授業理解度に対する効果の評価
佐々 裕美、向後 千春
日本教育工学会論文誌45巻 (2021) 2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/45/2/45_44124/_article/-char/ja/

論文の概要|12年間の改善実践を追跡

本論文が評価された点は、2008年から2019年までの約12年にわたって研修を改善し続け、その効果を定量的に測定していることです。単年度のA/Bテストではなく、長期トレンドで施策の効果を評価している点は研修担当者にとって参考になります。

研修改善施策とその実施年度
画像引用:佐々・向後 (2021) 表1 研修改善施策とその実施年度

改善施策は数年単位で段階的に投入されており、各段階を「フェーズ」として区分。フェーズごとに受講者の理解度を測定し、改善前後の変化を分析する構造になっています。

論文で実施された4つの改善施策

論文で導入された改善施策は以下の4つです。自社研修の見直しチェックリストとしてもそのまま活用できます。

施策1:講座体系の整備

講座の種類とレベル分け・重複する講座の整理統合・不足している講座の新設を行い、受講者が自分に合う研修を選びやすい構造に再設計しました。

施策2:受講前アンケートの実施

受講者に現在の課題を事前回答させ、さらに修得目標を自分で設定させることで、研修に臨む主体性と目的意識を高めるプロセスを導入しました。

施策3:講座の重要ポイントの策定

1講座につき10個のキーポイントを設定し、講師・受講者双方が学習の焦点を明確化。学習の抜け漏れを構造的に防ぐ仕組みです。

施策4:テスト結果の即時フィードバック

講座の最後に理解度テストを実施し、解説を聞きながら受講者自身が自己採点。不明点をその場で質問させる設計で、「わからないまま終わる」を防ぐ仕掛けになっています。

結果①:3施策が理解度向上に有意に寄与

講座全体の理解度平均値および効果量の推移
画像引用:佐々・向後 (2021) 図2 講座全体の理解度平均値およびフェーズ1に対する効果量の推移

「講座体系の整備」「講座の重要ポイントの策定」「テスト結果の即時フィードバック」が理解度上昇に有意に寄与し、それぞれの施策は同程度の効果量を示した。(論文本文より)

注目したいのは3施策の効果量が同程度だった点です。これは「一つの魔法の施策」に頼るのではなく、複数の改善を組み合わせて積み上げる姿勢が研修改善に必要であることを示唆しています。

一方、施策2「受講前アンケート」単体では有意差が確認されなかった点も実務家には示唆的です。事前アンケートは当日のワーク設計・講師の情報収集など他施策とセットで機能するツールと解釈するのが妥当でしょう。

結果②:実習型はレクチャー型より理解度が高い

本論文のもう一つの興味深い発見は、研修をレクチャー型と実習型に分けて分析した結果です。

授業形式別講座グループの授業理解度 分散分析結果
画像引用:佐々・向後 (2021) 表5 授業形式別講座グループの授業理解度の分散分析・多重比較の結果

授業形式別講座グループの理解度平均値の推移
画像引用:佐々・向後 (2021) 図3 授業形式別講座グループの理解度平均値の推移

レクチャー型の理解度平均値は、フェーズとともに上昇しているが、全フェーズにわたって実習型より低かった。(論文本文より)

つまり、改善施策によってレクチャー型の理解度も上昇するものの、実習型のほうが一貫して理解度が高いという結果でした。講義を聞くだけではなく、手を動かし、意思決定し、フィードバックを受ける体験がある研修のほうが、記憶定着と実務適用の面で優位に立つことが示されたといえます。

研修担当者への5つの示唆

本論文を踏まえ、研修担当者が自社研修を見直す際のチェックポイントを5つ整理します。

・講座体系は整理されているか(レベル・種類・重複の点検)
・受講者は事前に目標と課題を言語化しているか
・各講座に10個程度の重要ポイントが明示されているか
・理解度テストと即時フィードバックの仕組みがあるか
レクチャー一辺倒ではなく、実習型(ゲーム・ワークショップ・ロールプレイ)を組み込めているか

特に最後の「実習型の導入」は、研修改善の効果量としても論文で最も強く示された要素です。座学中心の研修で理解度が頭打ちになっている組織は、実習型の比率を上げることで短期間に理解度を押し上げられる可能性があります。

研修設計をさらに深掘りしたい方へ

研修の改善と効果測定を体系的に学びたい研修担当者には、以下の書籍もおすすめです。

よくある質問

Q. 実習型研修を導入したいが社内にノウハウがありません

ビジネスゲーム型研修は、ゲームの設計・運営ノウハウが外部提供されているため、自社でゼロから作る必要はありません。講師派遣・レンタル等の形で短期間に導入可能です。

Q. 研修の理解度を測る方法はありますか

事前・事後のテスト、行動観察、振り返りシートの自由記述分析など複数の手法があります。本論文で用いられた「受講者による自己採点+即時フィードバック」は低コストで導入しやすい手法です。

Q. レクチャー型と実習型はどう組み合わせればよいですか

一般的には「理論の短い説明→実習で体験→振り返りで理論と接続」の順序が効果的です。実習だけでは概念の整理が不十分になり、レクチャーだけでは定着しません。双方を行き来する設計が推奨されます。

まとめ

今回は佐々・向後(2021)の研修改善に関する論文を紹介しました。12年にわたる長期データで3施策の有意な効果と実習型の優位性を示した本論文は、研修担当者にとって自社研修の改善軸を持つための貴重な参考資料です。

定量的に効果を測定しながら改善を積み重ねる研修設計に、本記事と論文がお役に立てば幸いです。

企業内研修における研修改善の長期的実践と授業理解度に対する効果の評価
佐々 裕美、向後 千春
日本教育工学会論文誌45巻 (2021) 2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/45/2/45_44124/_article/-char/ja/

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