今回は経営デザインシートを使ったビジネスモデル研修の進め方について解説します。経営デザインシートは内閣府の知的財産戦略推進事務局が公開している将来構想用のフレームワークで、自社や事業の「これまで」と「これから」を1枚のシートに書き出すことで、長期的な視点での戦略立案や新規事業の検討に活用できます。誰でも無料でダウンロードでき、研修やワークショップ、自社内の戦略会議など幅広い場面で利用されています。

本記事では、経営デザインシートの概要と特徴、ビジネスモデルキャンバスとの違い、書き方の5ステップ、ビジネスモデル研修で活用する際のポイントまで一通り整理します。

経営デザインシートとは?

経営デザインシートは、内閣府 知的財産戦略推進事務局が2018年に公表した将来構想を行うための思考補助フレームワークです。1枚のワークシートに沿って、自社や事業の「これまで」「これから」「移行戦略」を書き出すことで、ビジネスモデルや経営戦略を整理しながら長期的な視点で次の打ち手を考えることができます。

経営デザインシートの全体像

経営デザインシート 記入欄イメージ
画像参照:内閣府 経営デザインシート 対象別ガイド

経営デザインシートのねらいは大きく3つあります。

・自社や事業の存在意義を意識した上で、これまでの価値創造メカニズムを把握する
・長期的な視点でこれからの在りたい姿を構想する
・在りたい姿に向けて、今から何をすべきかという移行戦略を策定する

引用:内閣府 知的財産戦略推進事務局「経営をデザインする」

経営デザインシートは大企業向け、中小企業向け、個人事業主向けなど対象別に複数のバリエーションが用意されており、首相官邸サイトから無料でダウンロードできます。研修や社内ワークショップでも、対象や目的に合わせてバリエーションを選んで使えるのが利点です。

経営デザインシート ダウンロードページ(首相官邸サイト)

経営デザインシートとビジネスモデルキャンバスの違い

ビジネスモデル研修の現場では、もう1つの代表的なフレームワークであるビジネスモデルキャンバスがよく使われます。両者は似ているようで思想や使い所が異なるため、最初に整理しておきましょう。

ビジネスモデルキャンバスの全体図
画像参照:エントレジム「ビジネスモデルキャンバス」解説より

ビジネスモデルキャンバスは、アレックス・オスターワルダー氏らが提唱した9つのブロック (顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、リソース、主要活動、パートナー、コスト構造) で現在のビジネスモデルを可視化するためのフレームワークです。一方、経営デザインシートは「これまで」と「これから」、そしてその間をつなぐ「移行戦略」を1枚で扱う点が特徴です。

両者の違いを表で整理すると次のようになります。

観点 経営デザインシート ビジネスモデルキャンバス
提唱元 内閣府 知的財産戦略推進事務局 アレックス・オスターワルダーら
扱う時間軸 これまで+これから+移行戦略 主に現在のビジネスモデル
想定する思考法 バックキャスティング 構造分析・要素分解
主な用途 中長期の戦略構想・新規事業立案 既存事業の整理・改善・共通理解
使う場面の例 事業承継、サステナビリティ戦略、知財活用 事業計画書作成、社内勉強会、新規事業初期

ビジネスモデル研修ではどちらか一方を採用するというよりも、「現状を把握するためのキャンバス」と「未来を構想するためのデザインシート」を組み合わせて使うと、参加者の思考を立体的に整理しやすくなります。

経営デザインシートの書き方の特徴「バックキャスティング」

経営デザインシートの書き方を語る上で外せないのが、バックキャスティングという思考法です。

バックキャスティングの考え方
画像参照:内閣府「経営をデザインする」

バックキャスティングとは、上画像のとおり、今を出発点として未来を考えるのではなく、未来を出発点として現在を考える発想法です。

引用:NTTコムウェア「あすに架ける」

バックキャスティングは、特にSDGsのような長期目標を扱う文脈でよく使われます。現在の延長線上では答えが見いだせない課題に対して、まず解決された未来を具体的にイメージし、その未来から逆算して「いつ・どのターニングポイントを越える必要があるか」「今は何に取り組むべきか」を描いていきます。

経営デザインシートでも、まず「これからの在りたい姿」をできるだけ具体的に描き、そこから逆算して必要な資源・価値・ビジネスモデル・移行ステップを書き込んでいくことが推奨されています。

具体的なイメージとして、内閣府の経営デザインシート紹介ページにも掲載されているメガネ販売のJINSが作成したシートを見てみましょう。

JINSの経営デザインシート
画像参照:内閣府 経営デザインシート活用事例 (JINS)

右側の「これから」を見ると「もはやメガネを使わない」という記載があり、視力矯正のためのメガネ販売という現在事業から、集中体験の提供や働き方改革といった、メガネというモノから離れた未来像が描かれています。バックキャスティングを使って既存事業の枠を一度外して未来を描いている点が、この事例の見どころです。

経営デザインシートの書き方ステップ

実際に経営デザインシートを記入していく際の基本的な流れを5ステップで整理します。研修で使う場合も、おおよそこの順序に沿って進めるとスムーズです。

ステップ1: 自社や事業の存在意義を明確にする
最初に、自社が何のために存在しているのか、誰にどんな価値を届けているのかを言語化します。ミッションやビジョンが既にある場合はそれを参照し、なければシンプルな1〜2文で書き出すところから始めます。

ステップ2: 「これまで」を整理する
現在の事業が、どんな資源を使い、どんな価値を生み出し、誰に届けているかを書き出します。ビジネスモデルキャンバスと近い視点で、自社の現在のビジネスモデルを正直に振り返ります。

ステップ3: 外部環境の変化を捉える
顧客、競合、技術、社会、規制などの変化を整理し、これまでの事業がそのままでは通用しなくなる理由を明確にします。ここを甘く見積もると「これから」が現状の延長線上にとどまりやすくなるので、丁寧に時間をかけたいパートです。

ステップ4: 「これから」の在りたい姿を構想する
バックキャスティングで、できるだけ大胆に未来の姿を描きます。どんな顧客に、どんな価値を、どんな仕組みで届ける会社になっていたいのかを言葉と簡単な絵で表現します。最初から正解を当てに行かず、複数案を描いて選ぶスタイルが向いています。

ステップ5: 移行戦略を策定する
「これまで」と「これから」をつなぐためのアクションを書き出します。何年後にどんな状態を目指し、そこから逆算して今期・来期・3年後にやるべきことは何か、必要な投資や人材育成は何かを整理します。

5つのステップは順番通りに一直線で進める必要はなく、行ったり来たりしながら何度も書き直すことが前提のフレームワークです。1回で完成させようとせず、月次や四半期で見直していくのが定着のコツになります。

ビジネスモデル研修で活用する際のポイント

経営デザインシートをビジネスモデル研修やワークショップで使う場合、いきなり個人ワークで書かせるのではなく、いくつかの工夫を入れると参加者の理解と納得感が高まります。

1. 目的とゴールを最初に共有する
「今日のゴールは1枚を完成させることではなく、自社や事業の見方が変わるきっかけを得ること」というスタンスを最初に共有します。完成度に固執すると手が止まってしまうため、走りながら直していく前提を伝えるのが重要です。

2. 個人ワーク → グループ討議 → 全体共有の3層構造にする
最初に各自で「これまで」を書き出し、その後グループで気づきを共有しながら「これから」を膨らませると、視点が広がります。最後に全体に共有してフィードバックを受けるところまで設計すると、思考が深まります。

3. 参考事例を必ず1件は見せる
内閣府サイトに掲載されているJINSなどの事例を冒頭で見せることで、シートの埋め方の解像度が一気に上がります。事例を見ずに白紙のシートだけを渡されると手が止まりやすいので、必ず1件は実例を共有するようにしましょう。

4. 振り返りに必ず時間を取る
書き終えた後に、「自分のシートを見て驚いたこと」「明日から変えたいこと」を1人ずつ言語化する時間を必ず設けます。フレームワークに記入することがゴールではなく、参加者の思考と行動が変わることがゴールであることを忘れないようにします。

経営デザインシートが注目されている背景

経営デザインシートは2018年に公表されて以降、内閣府による普及活動を経て、知財・無形資産経営の文脈で広く知られるようになりました。

経済産業省が公表している「価値協創ガイダンス」や、内閣府が公表した「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」など、企業の長期的な価値創造を可視化する取り組みが近年増えており、経営デザインシートもこうした流れの中で活用が広がっています。

参考: 内閣府 知的財産戦略推進事務局 経営デザインシート ポータル

ビジネスモデルや事業構造そのものを問い直す必要がある場面、例えば事業承継、新規事業立案、サステナビリティ戦略の策定、人材育成のための経営シミュレーションなどで、経営デザインシートは思考の足場として有効な道具になります。

まとめ|経営デザインシートは”未来から逆算する”研修の起点になる

経営デザインシートは、内閣府が公開している1枚のフレームワークながら、自社や事業を「これまで」と「これから」の両面から見直すための強力なツールです。未来から逆算するバックキャスティングと組み合わせて使うことで、現状の延長線では生まれない発想を引き出せる点が、ビジネスモデル研修との相性の良さに直結しています。

研修で使う際は、ビジネスモデルキャンバスとの使い分け、5ステップでの書き方、個人ワークとグループ討議の組み合わせを意識すると、参加者の思考と行動の変化につながります。新規事業の検討や中長期戦略の議論で次に何を試そうか迷っている方は、まず内閣府のダウンロードページからシートを入手して、社内の小さなチームで1枚書いてみるところから始めることをおすすめします。

なお、経営判断やビジネスモデルを実際に体験しながら学べる研修を探している場合は、弊社の部課長ゲームのような経営シミュレーション型のビジネスゲームを組み合わせるのも有効です。理論として経営デザインシートを学んだ後に、シミュレーションで意思決定を体験すると、学びの定着度が大きく変わります。


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