ワークショップにお菓子が効果的だという論文の紹介
ワークショップや研修のグループディスカッションで、お菓子をテーブルに置くとアイデア数とディスカッション評価が有意に向上するという研究があります。飛田操(2017)「菓子が集団による創造的パフォーマンスに及ぼす効果」(福島大学人間発達文化学類論集)の結果をもとに、「なぜグループ作業でだけ効果が出るのか」「現場でどう運用すれば良いのか」を整理しました。
過去の研修備品紹介記事(ワークショップのための便利な備品/研修で使える便利な備品・道具)にお菓子は含めていませんでしたが、本論文の知見を踏まえると備品リストに追加すべきと言えます。
飛田 操
福島大学人間発達文化学類論集(2017)
研究の概要:針金ハンガー代替活用の発想課題
本研究では、針金ハンガーを服をかける以外に使う方法を考える創造性課題を実施。まずは個人で、次に3人グループで発想してもらい、せんべい・チョコレート・焼き菓子が置かれた群とお菓子がない群で結果を比較しています。
個人作業では効果なし、グループ作業で圧倒的に効果あり
個人作業フェーズの結果はこうでした。

個人作業では、アイデアの数・評価のいずれもお菓子有無で有意差がなかったのです。ここだけ見ると「お菓子は効果なし」と結論づけてしまいそうです。
しかしグループ作業フェーズで結果は一変します。
①アイデア数の比較

②ディスカッション評価の比較

いずれもお菓子がある群が圧倒的に良い結果となりました。個人作業では差がないのに、グループ作業では有意差が出る点が本研究の興味深いポイントです。
「仲が良いから効果が出ただけでは?」への答え
「それは集まったメンバーが知り合い(元から仲良し)だから効果が出ただけでは」と思う方は鋭いです。本研究では集団親密度という指標を用いてこの点も検証されており、親密度を統制してもお菓子の効果は確認されています。つまり、初対面メンバーでも、お菓子を置くとグループ創造性は向上するという結果です。
詳細は論文本文をご参照ください。
なぜグループ作業でだけ効果が出るのか?(考察)
本論文はメカニズムを断定していませんが、グループ作業特有の条件を考えると、以下の3つの経路が寄与している可能性が高いと考えられます。
①会話の「場」を和らげる(心理的安全性の初動)
初対面に近いメンバー同士では、発言のハードルが最初の障壁です。お菓子は「手を伸ばす・渡す・受け取る・感想を言う」という小さな非言語的やりとりを自然発生させ、発言コストを下げます。
②ポジティブ情動が拡張-形成プロセスを誘発(Fredrickson, 2001)
ポジティブな気分は思考の範囲を広げ、新しいつながりを発見しやすくする(拡張-形成理論)と知られています。お菓子がもたらす小さな快情動がグループ内に波及することで、発散型の発想が促されると考えられます。
③血糖値と認知負荷(補助仮説)
グループ作業は個人作業より社会的認知コストが高く、糖質補給の恩恵を受けやすい可能性があります。ただし本研究は個人作業では差が出なかったため、主因とは考えにくく、あくまで補助要因です。
実務への応用:ワークショップ/研修でのお菓子運用のコツ
研究結果をふまえて、研修・ワークショップ設計者が意識したいポイントを整理します。
①個包装で取りやすいものを選ぶ
せんべい・チョコ・クッキーなど片手で取れるサイズが推奨。アレルギー表示のある個包装品なら対応しやすくなります。
②グループワーク直前に出す
アイスブレイクやグループ作業の開始時がベスト。座学だけのセッションに長時間置くと、むしろ集中を妨げる場合があります。
③「遠慮なくどうぞ」と一言添える
日本的な遠慮で手を出せない参加者が多いと、小さな非言語やりとりが発生しません。ファシリテーターからの明確な許可が発動条件です。
④1人当たり2〜3個は用意
お菓子が枯れるとマイナス効果。量が足りているのが前提です。
⑤長時間ワークショップでは休憩時に追加
3時間以上のプログラムなら、休憩のたびにお菓子を補充すると集中力持続の効果が期待できます。
よくある質問
Q. お菓子の種類は自由に選んで良いですか?
A. 基本は個包装・アレルギー表示のあるものを選びましょう。研究内のお菓子はせんべい・チョコレート・焼き菓子でした。匂いが強いもの・手が汚れるものは避けると良いです。
Q. オンライン研修でも効果はありますか?
A. 本研究は対面が前提ですが、オンラインでも「事前に各自好きなお菓子を準備してもらう」「休憩時に雑談で紹介し合う」といった工夫で近い効果が期待できます。
Q. 会社の備品として常備するならどれくらい必要ですか?
A. 目安として1人当たり2〜3個、加えて予備を10%程度見込むと余裕を持てます。
まとめ
飛田(2017)の研究は、グループ作業時のお菓子の存在がアイデア数・ディスカッション評価・集団親密度に対する頑健な効果を持つことを示しています。お菓子単体で研修の成否が決まるわけではありませんが、グループディスカッションの発動を助ける小さなレバーとして研修設計者が活用する価値は十分にあります。
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飛田 操
福島大学人間発達文化学類論集(2017)
