サンクスカードとウェルビーイングの関係
今回はサンクスカードとウェルビーイングの関係について、妹尾大氏ら(2018)の研究論文を参照しながら、「サンクスカード制度は導入するだけでは意味がない」という重要な知見と、効果を最大化する運用のヒントを解説します。
結論:論文が示した3つの重要ポイント
先に本論文が明らかにした結論を提示します。
・サンクスカード制度を導入するだけではウェルビーイング(WB)度に効果はない
・ただし実際に書いた日のWB度は上がる(感謝する側のWB度が上昇する)
・日常的に「よかったこと」をそこそこ書いていて、日によって変動が大きい人に最も効果が出やすい
つまり、サンクスカードは「箱を置いて放置」するタイプの施策ではなく、書く行動を日常化させる運用ができて初めて価値が生まれる制度ということです。
妹尾 大(東京工業大学)、平野 雅章(早稲田大学)、小川 美香子(東京海洋大学)、齋藤 敦子(コクヨ株式会社)、大橋 真人(コクヨ株式会社)、杉村 宏之(株式会社中川ケミカル)
http://www.jasmin.jp/activity/zenkoku_taikai/2018_fall/program/1B2-2.html
ウェルビーイング(well-being)とは
ウェルビーイングとは「満たされた状態」を意味し、WHOの定義では肉体的・精神的・社会的に全てが満たされた状態を健康と位置づけています。本論文ではWB度を測定指標として「今日1日を振り返ってよかったと感じたことの合計数」で定義しています。
測定がシンプルなため、社内でのウェルビーイング施策の効果検証にも応用しやすい指標です。
結果①:制度導入「だけ」では効果なし
論文の先行研究では、感謝付箋(=サンクスカード)の制度導入そのものはWB度向上に寄与しないことが示されています。
(3)感謝付箋発行の有無とWB度に相関関係がある
読み解くと、「制度を作っただけで、実際には発行されない」状態では効果はないということです。社内に箱やツールを設置しても、社員が実際にカードを書く行動が起きなければWB度は変わりません。
多くの企業でサンクスカードの運用が停滞する原因が、この「制度導入=ゴール」の誤解にあります。
結果②:書くと本人のWB度が上がる
興味深いのは、サンクスカードを書くと、もらった側ではなく書いた本人のWB度が上がるという点です。他の先行研究でも同様の傾向が示されています。
(4)感謝される行為の頻度とWB度の間には、有意な関係は見られない。
これは運用設計上の重要なヒントです。「もらった人を喜ばせるための制度」ではなく、「書いた本人がウェルビーイングを高めるための制度」としてリフレーミングすることで、参加動機の設計が変わります。
結果③:中感度の人に最も効果が出る

論文では被験者を幸福感度の違いで3つに分類し、感謝付箋の効果を分析しています。
(4) 中感度の被験者は、感謝付箋発行によって自己のWB度が高まる
(5) 高感度の被験者は、感謝付箋発行によってWB度への影響を与えることなく継続して高水準を保つ
ポイントは中感度の被験者です。日常的に「よかったこと」をそこそこ書いていて、日によって変動が大きい人に、サンクスカードは最も効果を発揮します。高感度の人は元から高い水準を維持しており、制度に頼らずWBを保てるため伸びしろが限定的です。
言い換えると、サンクスカードは「ポジティブに捉えられる日とそうでない日の差が大きい中間層」の底上げに効く施策と言えます。
社内で効果を出すための運用設計ヒント
論文の知見を整理すると、サンクスカード運用で効果を出す設計指針は次の3点に集約できます。
・「制度導入」ではなく「実行頻度」をKPIに置く(設置ではなく、月間発行数・週次発行率を追う)
・「書き手のWB向上」を目的に据える(もらう側のメリットではなく、書く人にとっての価値を訴求する)
・書き続けやすい仕掛けを用意する(デジタル化・短文OK・匿名可・日次リマインド等、行動障壁を下げる運用)
特に3点目は、心理的安全性と併せて設計することで持続性が大きく変わります。「書くと評価されるのでは/評価の道具にされるのでは」という不安が強い職場では、どれだけツールを整えても発行数は伸びません。
感謝文化の土台となる心理的安全性を体験で学ぶ研修
サンクスカード運用の成否を分けるのは、書くことへの心理的安全性です。弊社ではチームビルディング体験を通じて心理的安全性の土台を作る研修「ベストチーム」を提供しています。

ウェルビーイングとサンクスカードを深く学ぶ推薦書
ウェルビーイングとポジティブ心理学の関係を体系的に学びたい方には、以下の書籍もおすすめです。
よくある質問
Q. サンクスカードの運用を始めましたが発行数が伸びません
制度導入だけでは効果が出にくい、というのが論文の結論です。月間発行数をKPIに設定し、日次リマインド・短文OK・デジタル化などで書く行動のハードルを下げる施策を追加することをおすすめします。
Q. サンクスカードは誰にとって効果的ですか
論文によれば、「日によってWB度の変動が大きい中感度の人」に最も効果が出やすいとされています。高感度の人は元から高いWB水準を保てるため影響が小さい傾向です。
Q. もらう側のWB度も上がりますか
本論文および関連する先行研究では、書く(=感謝する)側のWB度向上が有意に確認されています。もらう側のWB度上昇は統計的に有意な関係が見られていません。制度設計上は「書き手のWB向上」を第一目的にすると合理的です。
まとめ
サンクスカードは「制度を置くだけ」では効果が出ません。本論文の示唆は、実行頻度を高める運用と書き手のWB向上を目的化する設計が要である点にあります。
感謝を可視化する文化を組織に根付かせる第一歩として、本記事が制度設計の参考になれば幸いです。
妹尾 大(東京工業大学)、平野 雅章(早稲田大学)、小川 美香子(東京海洋大学)、齋藤 敦子(コクヨ株式会社)、大橋 真人(コクヨ株式会社)、杉村 宏之(株式会社中川ケミカル)
http://www.jasmin.jp/activity/zenkoku_taikai/2018_fall/program/1B2-2.html
