経営理念浸透が顧客満足と従業員満足に繋がるという研究

先日、とあるお客様から経営理念の浸透についてのビジネスゲームを開発してほしいという声をもらいました。(実際の発注ではなく、相談ベースとして)
弊社では直近での開発予定は無かったのですが、以前にデータで見る企業理念浸透研修の効果とはという記事を書いたこともあり(記事は下記リンク)、少し気になって、経営理念の浸透について調査してみました。
データで見る企業理念浸透研修の効果とは
すると、経営理念浸透が顧客満足と従業員満足に繋がるという先行研究があることがわかりました。
松葉 博雄 2008
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/21/2/21_2_89/_pdf
論文中の仮説としては
というものです。ちなみに、CSとは顧客満足(Customer Satisfaction)、ESとは従業員満足(Employee Satisfaction)を表しています。

参考:経営理念の浸透が顧客と従業員の満足へ及ぼす効果 図1より
論文中でも取り上げられていますが、CSとESは、1994年にハーバード・ビジネス・スクールのヘスケット教授(Heskett)らが提唱したサービス・プロフィット・チェーン(SPC)というモデルによって相互に影響を及ぼすとされています。(上図))
サービス・プロフィット・チェーンについては、過去に従業員満足とサービス・プロフィット・チェーンという記事でも紹介していますが、以下のことがわかっています。
従業員満足とサービス・プロフィット・チェーン
トップによる理念浸透施策はESとCSを高める

参考:経営理念の浸透が顧客と従業員の満足へ及ぼす効果 図7より
論文の調査結果では上図の通り、トップによる経営理念の浸透施策が従業員の理念浸透に影響し、理念浸透は従業員満足及び、顧客の次回来店意向に影響する(=顧客満足)
※本論文の研究対象はコンタクトレンズの販売店なので顧客満足が次回来店意向となっています。
なお、論文の事例企業(コンタクトレンズ販売店)で実際に行われているトップによる経営理念の浸透施策は、論文(松葉 2008, 2.7節)で次のように記述されています。
・新入社員を対象とした合宿形式の研修を、経営トップ自ら講師となって実施(SPC概念・CS/ESの理論的背景を解説、グループ討議+研修後レポート提出)
・経営トップが各部署の従業員との定例ミーティングで必ず基本理念・企業理念・経営理念を話題にする

参考:経営理念の浸透が顧客と従業員の満足へ及ぼす効果 表3より
論文の共分散構造分析では、「トップによる浸透施策」から「理念の浸透」への標準化パス係数は0.53(5%水準で有意)と報告されており、トップの行動が理念浸透を強く規定することが定量的に裏付けられています。さらに「理念の浸透」は「顧客志向」「精神の理解」を経て「ES=CS」へと連鎖し、最終的に従業員満足度と次回来店意向(=実際の来店行動)に影響を与えていました。
ポイントは、これらの施策はいずれもトップ自身の継続的なコミットを必要とする点です。「制度を整える」だけでは不十分で、語り続け・行動で示し続けることが理念浸透の前提条件になります。サービス・プロフィット・チェーン(SPC)の枠組みでも、ESを起点としてCSが向上する流れが示されており、トップ → 従業員 → 顧客の3段階の伝播を意識して施策設計するのが効果的です。
別の論文においても、理念への共感は理念の行動反映に繋がることがわかっています。

高 巖(2010) 経営理念はパフォーマンスに影響を及ぼすかー経営理念の浸透に関する調査結果をもとに
本記事の理論背景である「経営理念がどのように組織内に浸透するのか」をさらに深く知りたい方には、高尾義明・王英燕『経営理念の浸透――アイデンティティ・プロセスからの実証分析』(有斐閣, 2012年)が参考になります。組織アイデンティティ論を基礎に、大規模調査で理念浸透のメカニズムを実証分析した一冊です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回紹介した論文から、経営理念の浸透は従業員満足(ES)と顧客満足(CS)につながることがわかりました。
また、理念の浸透についてはトップによる理念浸透施策が重要だということもわかりました。
また、他論文を通しても理念への共感は実際の行動に影響を及ぼすことがわかっていますので、ぜひ経営理念の浸透施策を行ってみてください。
参考
松葉 博雄 2008
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/21/2/21_2_89/_pdf
ー経営理念の浸透に関する調査結果をもとに
高 巖 2010
http://www.reitaku-u.ac.jp/ja/wp-content/themes/reitaku-jp/uploads/2010/03/20100305.pdf
