ここ数年でSDGsに対する関心は一巡し、2026年の日本企業では「SDGsを掲げる段階」から「事業・人材育成にどう組み込むかを問われる段階」へと移ってきました。人的資本情報開示の流れと重なり、SDGs研修も「イベント型」から「日々の仕事のコンピテンシーに接続する」設計が求められています。

SDGs 17のゴール

企業や教育機関でもSDGsに関する教育研修が広がっていますが、現場からよく聞こえてくるのが「自分ごとにしにくい」という声です。

よくある受講者の声 背景にある構造
17ゴールは大きすぎて日常と結びつかない 個人の仕事とゴールの解像度の差が大きい
どこから取り組めばよいかわからない ゴール同士が相互依存関係にある
会社の事業とつながっている実感がない 自社ビジネスのプラス/マイナス両面整理が不足
「いいこと」としてのみ扱われがち 制約・トレードオフの議論が省かれている

これらのモヤモヤを抱えたままでは、SDGs研修は一過性の知識インプットに終わってしまいます。自社ビジネスが17のゴールのどれをプラスに/マイナスに動かしているかを整理する作業と、個人として持続可能性に関わるコンピテンシーの双方を育てる設計が必要です。

持続可能な市民になるために必要な8つのコンピテンシー

個人側の指針として参照しやすいのが、2017年にUNESCOが提唱した「持続可能な市民になるために必要な8つのコンピテンシー」です。SDGs研修のカリキュラムに組み込むことで、17ゴールの知識だけでなく行動レベルでの変化を促すことができます。

持続可能な市民に必要な8つのコンピテンシー

参考:Education for Sustainable Development Goals Learning Objectives (UNESCO, 2017)
# コンピテンシー 内容
1 システム思考コンピテンシー 関係性を理解し、複雑なシステムを分析する能力
2 予測コンピテンシー 多様な未来シナリオを理解し評価する能力
3 規範的コンピテンシー 自分の行動に潜む規範・価値観を省みる能力
4 戦略的コンピテンシー 持続可能性を促す革新的な行動を設計・実施する能力
5 協働的コンピテンシー 他者から学び、他者のニーズ・視点を尊重する能力
6 批判的思考コンピテンシー 規範・慣習・自らの行動に疑問を向ける能力
7 自己認識コンピテンシー 社会における自分自身の役割を振り返る能力
8 統合的問題解決コンピテンシー 上記7つを統合して問題に取り組む全般的な能力

8つのコンピテンシーを貫くキーワードは、システム思考・内省・協働・ローカルとグローバル・都市と地方・コミュニティです。SDGs研修の中には、17ゴールの説明や自社事業とのマッピングに加え、個人として8つのコンピテンシーを高めるワークを織り込むと、研修後の日常行動への接続が格段によくなります。

SDGs研修カリキュラムへの落とし込み

8つのコンピテンシーをそのまま研修テーマにすると抽象度が高いため、ワークで扱える粒度に下ろすことが実務的です。弊社で設計する場合は、以下のような対応でカリキュラム化しています。

コンピテンシー ワーク例
システム思考 ビールゲーム/共有地の悲劇ゲームで相互依存を体感
予測・戦略 自社事業の2030年シナリオを複数描く(未来シナリオワーク)
規範・自己認識 自分の価値観カードで意思決定基準を棚卸し
協働 多部署混成でSDGs課題を議論するクロスファンクショナル対話
批判的思考 SDGs施策の”副作用”を洗い出すリスクマッピング
統合問題解決 自社事業の負の側面に対する改善案を小さく試行する

ゲーム型研修とカード型ワーク、シナリオプランニングを組み合わせることで、知識インプットだけでない「持続可能性の筋肉」を鍛える構成になります。

SDGs理解の起点はシステム思考

8つのコンピテンシーの順番にどれだけ意図があるかはわかりませんが、1つめにシステム思考が置かれていることは非常に象徴的です。SDGsの各ゴールは複雑な相互依存関係にあり、1つの目標を単独で追うと別のゴールを犠牲にしてしまうトレードオフが多発します。

この関係性を扱うには、物事をシステム(構造)として捉えるシステム思考が欠かせません。システム思考になじみがない方は、ピーター・センゲ『学習する組織』、ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則』が理解の入口として有用です。

まとめ

SDGs研修を効果的に設計するには、17ゴールの知識だけでなく、UNESCOが示した8つのコンピテンシー(システム思考・予測・規範・戦略・協働・批判的思考・自己認識・統合的問題解決)を育てる要素を組み込むことが大切です。2026年は「SDGsをやっているか」ではなく「SDGsを通じて組織と個人がどう成長したか」が問われる時代。研修設計の中心を、知識ではなくコンピテンシーの向上に置くと、受講者の行動変化と人的資本指標の両方に効きます。


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