4段階の経営理念の浸透レベル

本記事では、柴田モデルの4段階浸透レベル、松岡モデルの議論による深化メカニズム、SUPPモデルの段階別施策を解説。
これらを体系的に理解し、自社に合った施策を実行することが、人事・経営企画担当者に求められます。
今回は、経営理念の浸透をどう捉え、どう深めていくかというテーマで、2026年時点で人事・経営企画担当者が押さえておくべき3つのモデル(4段階浸透レベル・松岡モデル・SUPPモデル)と、研修実務での使い分けを整理します。
理念浸透は多くの企業で継続課題になっており、弊社にも理念浸透のためのビジネスゲーム研修に関するお問い合わせを多く頂戴しています。
ビジネスゲームを用いた理念浸透研修については、以下の記事で詳しく紹介しています。
NASAゲームを用いた理念浸透研修
なぜ経営理念の浸透が2026年もホットな経営課題なのか
リモートワーク・ハイブリッド勤務が定着し、採用の多様化が進んだ2020年代後半、「同じ空間で同じ仕事をしていれば理念は自然に伝わる」という時代は終わりました。
以下のような環境変化が重なり、意図的な設計なしには理念浸透が成立しない局面が増えています。
・Z世代・ミレニアル世代が主力となり、価値観の多様化が進行
・中途採用比率の上昇で入社時の理念教育機会がバラつく
・副業・越境学習で「自社の理念」の相対化が常態化
・DX推進で業務プロセスが変わり、理念と行動の結びつきを再構築する必要
だからこそ、「浸透の段階」と「段階ごとに有効な施策」を体系的に理解し、自社の浸透度に合った手を打つことが、人事・経営企画の実務者に求められています。
4段階の経営理念の浸透レベル(柴田モデル)
浸透度を段階的に捉える枠組みとして、柴田仁夫氏(2013)の研究で整理された4段階モデルがよく参照されます。

経営理念の浸透に関する先行研究の一考察
柴田 仁夫
経済科学論究, 巻10, p.27-38, 発行日 2013
https://sucra.repo.nii.ac.jp/records/15090
レベル1: 存在や言葉を知っている
「企業理念?あー聞いたことがあるよ、なんとかって言葉でしょ」というレベル。社員名札の裏側に印字してある、朝礼で唱和している、というだけで「知っている」状態になります。この段階では理念は単なる情報として認識されているだけで、行動にはつながりません。
レベル2: 具体例を知っている、経験したことがある
理念を体現して成果を上げた社員を表彰し、スピーチをしてもらうなど、具体的なエピソードを通じて理念を「経験」している段階です。多くの企業がこの段階の施策(表彰式・社内報・朝礼でのエピソード共有)を実践しています。
ただし、他人の事例を聞いているだけでは「自分ごと」になりにくく、行動変容には次の段階が必要です。
レベル3: 意味を理解し、自分の言葉で言える
理念を「自分ごと」として捉え、自分の業務・行動と紐づけて人に語れる段階。「うちの理念は○○だから、私はこの案件でこう判断した」と説明できるかがポイントです。
この段階に到達するには、他者と議論する・具体的な行動選択に迷う経験をする・自分の解釈を言語化するといった、能動的な関わりが必要になります。
レベル4: 理念を体現している
他の社員がお手本とすべきロールモデルの段階。コンピュータで言うなら、OSレベルまで理念が浸透し判断の前提条件になっている状態です。毎回考える必要がなく、自然に理念に沿った判断・行動ができます。
この段階の社員がどれくらい存在するかが、組織文化の厚みを決めます。
松岡モデル: 浸透プロセスが深化するメカニズム
浸透レベルが段階的に存在することは理解できても、「どうやって深化させるのか」がわからなければ施策は打てません。その手がかりになるのが松岡モデルです。

経営理念の浸透メカニズムの一考察 ― ヒューマン・ヘルスケアのエーザイを事例として
高橋 輝
http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/takahashi.pdf
松岡モデルで興味深いのは、浸透度2のところに「矛盾・疑問・ギャップ」というプロセスが明示されている点です。理念を鵜呑みにするのではなく、「この理念は本当に正しいか」「自分の経験と矛盾しないか」と健全に疑う段階を経ることで、最終的な理解が深まるという構造です。
さらに浸透度3では、その疑問・ギャップを他メンバーと議論することで、多面的な解釈・共通言語化が進みます。議論こそが浸透の原動力という洞察は、研修設計上も大きなヒントになります。
SUPPモデル: 浸透段階と施策を対応付ける実務フレーム
もう一つの有用なモデルが、柴山慎一氏(社会情報大学院大学)が提唱するSUPPモデルです。浸透の段階(Stage)ごとに、インターナルコミュニケーション(IC)施策を設計することを提案しています。
柴山 慎一(社会情報大学院大学 教授)
https://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201808/internal-public-relations/013872.php
SUPPモデルのユニークな点は、浸透度2と3の間に「断絶」が明示されていることです。「知っている」から「できる」の間には壁があり、通常のコミュニケーション施策だけではここを越えられない、という実務的な示唆です。
断絶を越えるためには、体験を通じた理解・議論による自分の言葉への翻訳・具体的な行動選択場面での意思決定経験、といった能動的な介入が必要になります。
浸透段階別に有効な施策パターン
3つのモデルから導かれる実務的な示唆を、浸透段階別の施策として整理すると以下のようになります。
| 浸透段階 | 社員の状態 | 有効な施策 |
|---|---|---|
| 段階1: 認知 | 理念を知っている | 社内報・朝礼唱和・理念カード配布・社内ポータル掲載 |
| 段階2: 経験 | 具体例を知っている | 表彰制度・理念体現者インタビュー・ケーススタディ共有 |
| 段階3: 理解 | 自分の言葉で語れる | ワークショップ・ビジネスゲーム・対話セッション・1on1 |
| 段階4: 体現 | 無意識に体現できる | 評価制度への組込み・理念推進リーダー任命・越境学習での再確認 |
自社の社員が平均的にどの段階にいるかを診断し、その一段上に引き上げる施策を集中投下するのが、理念浸透プロジェクトの基本戦略となります。
ビジネスゲームが浸透度2→3で特に効く理由
最も難しいとされる「知っている」から「自分の言葉で語れる」への移行(段階2→3の断絶)を越えるために、ビジネスゲームが有効です。

ビジネスゲームが段階2→3で効く理由は以下の通りです。
・ゲーム後の振り返りで、自分の選択を理念と紐づけて説明する機会が必然的に発生
・他参加者との議論で、理念の多様な解釈が可視化される
・ゲーム特有の「失敗しても大丈夫」な環境で、普段より深い自己開示・議論が起きる
例えばNASAゲーム(月面コンセンサスゲーム)は、合意形成プロセスの中で「自社の判断基準は何か」を問い直すことになり、理念に根ざした意思決定の訓練として機能します。合意形成ゲーム全般の詳細は下記記事をご参照ください。
NASAゲーム(月面コンセンサスゲーム) 詳細
NASAゲームを用いた理念浸透研修
まとめと書籍のご案内
経営理念の浸透を体系的に捉える3つのモデルと、段階別の施策パターンを整理しました。
・松岡モデル: 段階2に「矛盾・疑問・ギャップ」段階3に「議論」を明示し、能動的関与が深化を生むと示唆
・SUPPモデル: 段階2と3の間の「断絶」を越える設計の必要性を指摘
自社の浸透段階を把握した上で、「一段上に引き上げるための施策」を集中投下することが、理念浸透プロジェクトを空振りさせないコツです。段階2→3の断絶には、体験型研修やビジネスゲームのような能動的・対話的アプローチが特に有効です。
経営理念の浸透メカニズムをさらに体系的に学びたい方には、以下の書籍がおすすめです。複数企業の事例調査をベースに、浸透のプロセスとメカニズムを学術的に整理した一冊です。
