上司と部下の信頼関係の非対称性インフォグラフィック

「上司と部下の信頼関係が大事」とはよく言われますが、上司が部下に対して求める「信頼される要素」と、部下が上司に対して求める「信頼される要素」は、実は同じではないことをご存知でしょうか?

本記事では、藤原勇氏(2017)による研究「上司・部下関係における相互の被信頼を測定する尺度の作成」をベースに、上司→部下と部下→上司のそれぞれで信頼されるために必要な要素、その共通点と違い、そして相互信頼を育てる実践方法を整理して解説します。

上司と部下の信頼関係とは — 「相互の被信頼」という考え方

信頼関係というと「一方向の信頼(上司→部下)」をイメージしがちですが、職場ではそれだけでは十分ではありません。上司が部下を信頼し、部下も上司を信頼するという双方向の「相互信頼」があって、はじめて健全な職場関係が成立します。

「相互の被信頼」という視点

藤原(2017)の研究は、この双方向の信頼を「相互の被信頼(Mutual Trustworthiness)」という概念で捉えている点がユニークです。「自分が相手をどう信頼するか」だけでなく、「相手から自分がどう信頼されているか」という相手からの被信頼感を両方向で測定しています。

この視点に立つと、信頼関係には4つの方向性があることが分かります。

・上司が部下を信頼する(上司→部下の信頼)
・上司が部下から信頼されていると感じる(上司の被信頼感)
・部下が上司を信頼する(部下→上司の信頼)
・部下が上司から信頼されていると感じる(部下の被信頼感)

藤原(2017)の研究概要

上司・部下関係における相互の被信頼を測定する尺度の作成

藤原 勇
産業・組織心理学研究 2017年 第31巻 第1号 pp.37-54

J-STAGE 論文ページ

藤原氏はこの研究で、上司・部下それぞれの視点から信頼に影響を与える要素を網羅的に抽出し、日本企業の実態に即した尺度として整理しています。以下では、この論文で明らかになった信頼要素を、上司視点・部下視点の順に紹介していきます。

上司と部下の信頼関係

上司が部下を信頼する5つの要素

まずは、上司が部下を信頼するときに、どのような要素を見ているのかを整理します。

上司が部下を信頼する要素

1. 専門性・能力の高さ

上司はまず、部下が自分の担当業務で十分な能力を発揮できるかを見ています。期待される水準を満たせるかが、信頼の第一条件です。

2. 報告・連絡・相談(ホウレンソウ)

「こまめに報告・連絡・相談できる」という行動は、藤原論文でも最重要要素のひとつとされています。上司は部下の進捗を把握できてはじめて安心して仕事を任せられます。ホウレンソウを軽視する部下は、能力が高くても「丸投げできない」状態になります。

ホウレンソウの質を高める関連記事として、部下からの「ホウレンソウ」は「おひたし」で返すもあわせてご覧ください。

3. 納期・約束の厳守

納期を守れるか、小さな約束を忘れないか——こうした行動は、能力以上に信頼の土台となります。能力が高くても納期にルーズな部下は、結局「任せにくい人」と見なされます。

4. 傾聴する真摯な態度

上司が指示や助言をしたときに、まっすぐに聞き入れる姿勢です。「分かりました」「やってみます」と素直に受け止められる部下は、それだけで信頼されやすくなります。逆に、最初から否定的な態度を取る部下は、能力があっても信頼を得るのが難しくなります。

5. 自己管理力

自分の仕事のスケジュール、体調、モチベーションを自分で管理できる力です。上司が「放っておいても自走する部下」を高く評価するのは、自己管理力を信頼の指標として見ているからです。

部下が上司を信頼する6つの要素

続いて、部下が上司を信頼するときに見ている要素です。上司視点とは異なる要素が多く含まれているのが特徴です。

部下が上司を信頼する要素

1. 礼儀の欠如がない(人柄)

藤原論文でとくに強調されているのが、「礼儀が欠如していないこと」が信頼の必要条件である点です。裏返せば、礼儀を欠いた上司は、能力がどれだけ高くても部下からの信頼を失います。

2. 指示・助言の的確さ

上司からの指示や助言が的を射ているかどうかは、部下が上司を評価する重要な軸です。見当違いの指示やその場しのぎの助言が続くと、部下は「この上司は頼りにならない」と判断します。

3. 思いやり・配慮

部下の状況や感情への配慮も、信頼に強く影響します。藤原論文では「思い遣り」が上司への信頼の固有要素として明記されており、いわゆる「人間性」の部分が部下視点では大きな比重を占めていることが分かります。

4. 言動の一貫性・正直さ

言っていることがころころ変わる上司、嘘をつく上司は信頼されません。藤原論文でも「言動の一貫性」「正直さ」「悪意ある言動がないこと」が信頼要素として挙げられています。

5. 積極的で真面目な仕事態度

上司自身が仕事に前向きで真摯に取り組んでいる姿勢も、部下の信頼に直結します。「自分は何もせず部下に丸投げする上司」は信頼を失う典型例です。

6. 能力の高さ

能力の高さは上司信頼の必要条件でもあります。ただし、上司に求められる能力は「部下への指示や判断の質」の文脈であり、単純なプレイヤーとしての能力ではない点に注意が必要です。

信頼要素の違いと共通点の早わかり対比表

上司と部下の信頼要素の共通と違い

藤原論文が示した、上司視点と部下視点の信頼要素の「共通点」と「違い」を整理すると、次のようになります。

共通する3つの信頼要素

上司→部下、部下→上司のどちらにも共通して現れた要素は次の3つです。

共通要素 具体的な行動
こまめなホウレンソウ 報告・連絡・相談が適切にできる
積極的で真面目な仕事態度 仕事への前向きさ・学習態度の高さ
能力の高さ 役割に見合った能力の発揮

ビジネスパーソンとして信頼される共通基盤は、この3つと言えます。

固有要素の違い(対比表)

一方、上司視点と部下視点で「それぞれ固有の要素」はくっきり分かれています。

比較軸 上司が部下に求める固有要素 部下が上司に求める固有要素
カテゴリー 行動面(How) 人柄・姿勢(Who)
代表要素 納期厳守・傾聴・自己管理力 思いやり・言動の一貫性・正直さ
ネガティブ要素 自己管理の欠如 礼儀の欠如・自己中心的・マナー不足
信頼の評価軸 タスク遂行力 人格・リーダーシップ

上司は部下に対して「任せた仕事をちゃんとやってくれるか」という行動面を見ており、部下は上司に対して「どんな人格の人か」という人柄面を見ている、という対照的な構造が浮かび上がります。

なぜ上司と部下で信頼される要素が違うのか

この非対称性はなぜ生まれるのでしょうか。藤原論文では詳しく論じられていませんが、組織論の一般的な知見と合わせて考えると、次のように解釈できます。

役割期待の非対称性

上司は部下に対して「業務遂行」を期待していますが、部下は上司に対して「支援・評価・意思決定」を期待しています。役割期待が異なるため、信頼される要素も自然と異なります。

部下は「自分がちゃんと仕事をできるよう支えてくれるか」「公平に評価してくれるか」「頼れるリーダーか」を見ているので、評価軸が「人格」寄りになります。

評価の方向性の違い

もうひとつの違いは、評価の方向性です。上司は部下の行動を業務上の結果として評価できますが、部下は上司の行動を自分への影響として体感します。そのため、部下にとって「礼儀がない」「思いやりがない」はダイレクトに信頼低下につながるのです。

相互信頼を育てる3つの実践

論文の知見を実務に活かすには、どのような取り組みが有効でしょうか。相互信頼を育てるために、次の3つの実践が効果的です。

1. ホウレンソウの仕組み化

共通要素である「ホウレンソウ」を、個人の努力ではなく仕組みで担保します。週次の進捗ミーティング、チャットでの短いステータス共有、1on1での進捗同期などをルーティン化することで、双方が「今何が起きているか」を把握し続けられます。

部下側のホウレンソウだけでなく、上司側の「おひたし(お=怒らない、ひ=否定しない、た=助ける、し=指示する)」の返し方も重要です。詳しくは部下からの「ホウレンソウ」は「おひたし」で返すをご覧ください。

2. 1on1での双方向フィードバック

1on1の場を、上司から部下への一方的な評価の場ではなく、双方向のフィードバックの場として設計することが大切です。部下から上司への「もっとこうしてほしい」を言える場がないと、部下側の信頼感(被信頼感)が育ちません。

3. 叱り方・フィードバックの質を高める

部下が上司に求める要素として「思いやり」「言動の一貫性」「礼儀」があるとおり、叱り方・フィードバックの質は信頼関係に直結します。感情的な叱責や場当たり的なフィードバックは、一度で信頼を損ないます。適切な叱り方についてはやってはいけない部下の叱り方6選目標未達の部下へのフィードバック|4つのケース別の対処法が参考になります。

信頼関係を深める関連研究

上司と部下の信頼関係をより深く理解するために、関連する研究や概念もあわせて押さえておきましょう。

ホランダーの同調性と有能性

リーダーが信頼を獲得する方法として、古典的には同調性(Conformity)と有能性(Competence)の2軸で説明されます。これは藤原論文の「能力の高さ+積極的な態度」とも整合的な知見です。詳しくはリーダーが信頼を獲得するための2つの方法で解説しています。

心理的安全性と上司の行動

上司の行動が職場の心理的安全性に与える影響についても、近年多くの研究が行われています。部下が本音を言える職場は、上司の信頼を高める行動と密接に関連しています。関連記事: 心理的安全性を高める上司の行動についての研究

信頼関係を育む「かかわり行動」

信頼関係を日常のなかで育む具体的な技法として、「かかわり行動」という概念もあります。うなずき、アイコンタクト、相づちといった小さな行動の積み重ねが信頼を醸成します。詳しくは信頼関係を構築するための「かかわり行動」をご覧ください。

まとめ|上司と部下の信頼は「非対称な相互信頼」として捉える

上司と部下の信頼関係は、一方向の「上司が部下を評価する」構造ではなく、双方向の「相互の被信頼」として捉えることが重要です。藤原(2017)の研究は、その双方向の信頼要素に共通点と違いがあることを示しました。

・上司・部下に共通の信頼要素: ホウレンソウ/積極性/能力
・上司が部下に求める固有要素: 納期厳守/傾聴/自己管理力 (行動面)
・部下が上司に求める固有要素: 思いやり/言動の一貫性/礼儀 (人柄面)
・役割期待と評価方向の違いがこの非対称性を生む
・実践としてはホウレンソウの仕組み化/双方向1on1/質の高いフィードバックが有効

部下の立場の方は「ホウレンソウ・納期・傾聴・自己管理」を意識し、上司の立場の方は「礼儀・思いやり・言動の一貫性」を意識することで、職場の相互信頼は着実に育っていくはずです。


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