学生からのネームバリュー・認知が弱い「採用弱社」が新卒採用で成果を出すには、母集団形成の強化選考歩留まり改善のどちらを優先すべきでしょうか。結論としては、採用弱社は選考歩留まり改善を優先すべきです。

本記事は弊社の「”採用弱社”の戦略論」シリーズの第3回。クイズ形式で戦略の選び方を検証し、少子化・売り手市場が続く2020年代後半の採用環境での実務的な打ち手まで整理します。

シリーズ全記事はこちら: “採用弱社”の戦略論

採用弱社の戦略論

用語の整理:母集団形成と選考歩留まり改善

まず用語を整理します。

母集団形成: ナビサイトでの説明会エントリー数・ブックマーク数・スカウトクリック率など、自社への認知・興味関心を持つ学生を増やす取り組みのこと。

選考歩留まり改善: エントリーから内定承諾に至るまでの選考プロセス中の離脱を防ぐ取り組みのこと。1次選考通過率、最終選考辞退率、内定承諾率など複数段階の指標で測定されます。

新卒採用における成果は、以下の式で表せます。

採用人数 = 母集団(応募者数) × 選考歩留まり率(応募者採用率)

両方を伸ばせればベストですが、リソース(予算・採用担当者)に制約がある採用弱社はどちらかに優先投資する判断が必要です。

クイズ:ABC商事の最適戦略はどちら?

ABC商事は前年度、予算200万円を集客施策に投下して100名の母集団を形成し、
3名の採用に成功しました。

初の新卒採用で一定の成果を出した自信から、
今年度は予算300万円で6名の採用目標を設定。
この状況で取るべき戦略はどちらでしょうか?
なお、採用担当者は1名、ABC商事は採用弱社とします。

A. 母集団形成を強化する戦略
B. 選考歩留まり率を改善する戦略

クイズ

正解:B. 選考歩留まり率を改善する戦略

以下、それぞれの戦略について数字でシミュレーションしてみます。

戦略A(母集団形成強化)のシミュレーション

ABC商事の前年の集客単価は200万円÷100名=2万円/名。同じ単価で300万円の予算を投下すると、150名の母集団が形成可能です。

ここに前年同水準の選考歩留まり率3%を掛けると、採用見込み人数は4.5名。目標6名に対して1.5名不足です。

さらに現実的なリスクを考慮すると事態はより厳しくなります。

リスク①:集客単価の上昇
新卒採用市場は売り手市場の長期化と少子化による労働人口の減少で、企業の母集団形成競争が年々激化しています。キャリタスリサーチの企業調査でも、応募者数が「減った」とする企業の割合が増加傾向にあります。

新卒採用の企業調査
画像参考: 株式会社ディスコ キャリタスリサーチ 2020年卒・新卒採用に関する企業調査

集客単価が仮に10%上昇して2.2万円になった場合、300万円の予算で集められる母集団は約136名。選考歩留まり率3%では採用見込み4.1名で、目標未達です。

リスク②:採用担当者のキャパシティ
運よく150名以上の母集団を形成できたとしても、採用担当者1名で前年比+50名分を捌くのは過重負担です。面接設定・選考通過連絡・フォローなど運営工数が比例して増えるため、対応品質の低下→歩留まりの悪化という悪循環に陥りやすくなります。

採用担当者の負担

以上から、採用弱社にとって戦略A(母集団形成強化)は難易度が高いと言えます。

戦略B(選考歩留まり改善)のシミュレーション

前年のABC商事は100名の母集団から3名採用=選考歩留まり3%。これを6%に改善できれば、100名でも6名採用可能。集客単価が10%上昇しても、300万円で136名を形成して歩留まり4.4%に改善すれば目標達成できます。

重要なのは、新卒採用を始めたばかりの企業は選考歩留まり改善の余地が多いということです。ベンチマーク的な優良企業の歩留まりを知らず、我流で運営しているケースがほとんどだからです。改善施策を体系的に入れれば、歩留まり倍増も十分に現実的な範囲です。

選考歩留まり改善のための6つの具体策

選考歩留まりを改善する代表的な施策を6つ整理します。

①面接官トレーニング
面接官の質を高めることで、学生の見極め精度魅力付けの両立が実現できます。特に一次面接官の印象が最終承諾率に与える影響は大きく、面接官研修の投資対効果は非常に高いです。関連: 新卒採用 面接官が心得るべき「態度」の影響力

②リクルーター制度
一次面接通過者に若手社員をリクルーターとして付け、志望度アップと選考辞退リスクの抑制を両立。3年目〜5年目社員を活用することで、学生が抱きがちなキャリアイメージへの具体的な回答が得られます。

③選考フロー全体のUX見直し
連絡の速さ・スケジュール調整のしやすさ・提出書類の簡素化など、「応募者体験(候補者体験 / CX)」の最適化が歩留まりに直結します。連絡までのリードタイムを48時間以内に縮めるだけでも辞退率は下がります。

④選考での情報開示の拡充
面接時・選考中に配属・待遇・キャリアパスに関する具体情報を積極開示することで、学生の不安と疑問が減り、承諾率が上がります。

⑤社員との接触機会の増加
座談会・社内見学・若手との懇親会など、社員と直接接する機会を選考プロセスの中に組み込む。特に採用弱社では「働く人の魅力」が決め手になるケースが多いです。

⑥内定後フォローの設計
内定から入社までの数ヶ月間に定期的な接触を設計。内定者懇親会・メンター制度・事前課題・インターン的な体験などで、入社意欲の維持と入社後ギャップの最小化を図ります。

2020年代後半の採用環境を踏まえた追加アクション

少子化の加速、ダイレクトリクルーティング・SNS採用の普及、通年採用の広がりといった環境変化を踏まえて、追加で検討すべき観点です。

①ダイレクトリクルーティングへのシフト
ナビサイト依存から抜け出し、OfferBox・dodaキャンパスなどのダイレクトリクルーティングを活用。量から質への切り替えで母集団の初期適合性を高められます。

②採用広報の強化
オウンドメディア・SNS・採用ピッチ資料・社員インタビュー動画など、自社を語る一次情報を増やす。ナビサイト経由では伝わりにくい自社の魅力を補完します。

③通年採用への移行
単発一括型から通年型に切り替えることで、時期による母集団波動を平準化し、採用担当者の負荷を分散できます。

④リファラル採用の制度化
既存社員からの紹介は歩留まり率が高い傾向があるため、リファラル制度の整備が採用弱社にも特に有効です。

採用弱社の新卒採用に関するよくある質問

Q. 母集団形成を完全に諦めるべきですか?
A. いいえ。採用人数は「母集団 × 歩留まり」の掛け算なので、どちらもゼロでは成り立ちません。リソース配分の重心を歩留まり改善に傾けるという意味です。

Q. 選考歩留まり率の業界ベンチマークは?
A. 業界・採用規模・ブランド力で大きく異なりますが、一般論としてエントリー→内定承諾までの全体歩留まりは1〜10%の範囲に収まることが多いです。自社の現状値を把握するところから始めてください。

Q. 採用担当者が1名体制のまま施策を増やすのは難しくないですか?
A. 採用担当者1名体制の場合、施策を絞り、他部門の巻き込み(リクルーター制度・経営層の登場・面接官の拡充)でマンパワーを拡張する発想が重要です。全てを採用担当者が巻き取ろうとしない設計がコツです。

まとめ

採用弱社にとって、母集団の数を追うだけの戦略は忙しくなるだけで成果が出にくい構造になりがちです。集客単価の上昇と採用担当者のキャパシティ制約から、予算増でも目標達成は難しいケースが多いためです。

一方、選考歩留まり改善は予算だけで解決できない代わりに、一度構築すれば翌年以降も効き続ける累積効果があります。少子化で今後も集客単価が上昇し続けることを考えれば、採用弱社が遅かれ早かれ取り組むべき本命施策です。

シリーズ他記事も併せてご覧ください: “採用弱社”の戦略論シリーズ面接官が心得るべき「態度」の影響力


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