カスハラの9種類と事例|カスタマーハラスメントの類型と対策

今回は、サービス業・小売業・コールセンターなどを中心に深刻な問題となっているカスタマーハラスメント(カスハラ)について、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」で整理されている9つの類型と、それぞれへの具体的な対応方法、そして企業として取り組むべきカスハラ対策の全体像までを一気に解説します。
例えば、パーソル総合研究所様の2024/06/05のプレスリリースでは以下のように報告されていました。

被害経験者の32.6%が、ここ3年でカスハラ経験が「増加」と回答。(「減った」は13.8%。「わからない」は6.9%)
引用:「カスタマーハラスメントに関する定量調査」を発表
パーソル総合研究所
https://rc.persol-group.co.jp/news/202406051000.html
およそ3人に1人のサービス職従事者がカスハラ被害を経験しており、さらにそのうちの3割が「ここ3年で増えている」と回答しているわけですから、もはや個別のトラブルではなく、企業として向き合わなければならない労務リスクと言えるでしょう。
各企業でもカスハラについての対策を打ち出しており、JR東日本様では「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」をホームページに公開されています。

JR東日本様 ホームページ
また、弊社もお世話になっているヌーラボ様では「カスタマーハラスメントへの対応に関する方針」のテンプレートを公開・配布されています。

ヌーラボ「カスタマーハラスメントへの対応に関する方針」のテンプレートを公開・配布!誰でも自社の方針策定ができるようノウハウを共有
こうした社会的な動きの土台となっているのが、厚生労働省が無料で配布している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。本記事ではこのマニュアルをベースに、9つの類型・対応例・企業として整備すべき仕組みまで順に見ていきます。
カスタマーハラスメントとは?通常のクレームとの違い
そもそも「カスハラ」と「正当なクレーム」はどう違うのでしょうか。厚生労働省のマニュアルでは、カスタマーハラスメントを次のように整理しています。
ポイントは「要求内容そのもの」ではなく、「要求を実現しようとする手段・態様」と、その結果としての「就業環境の侵害」にあります。つまり、要求の中身が妥当であっても、怒鳴る・長時間拘束する・土下座を強要するといった態様であればカスハラに該当しうる、という考え方です。
実務的には次の2ステップで整理するとわかりやすくなります。
まず1つ目は、要求内容そのものが妥当かどうかを判断する段階です。商品不良・サービス不備・対応ミスなど、企業側に非があるクレームであれば、一次対応は誠実に謝罪し、事実確認を行うのが基本です。要求内容が明らかに不当(「無償で新品に交換した上で1万円払え」等)である場合には、そもそもクレームとしての正当性がないため、会社としての対応ラインを早めに決める必要があります。
2つ目は、要求を実現しようとする手段・態様が社会通念上相当かどうかを判断する段階です。ここで「大声で怒鳴る」「何時間も居座る」「土下座を強要する」「SNSに晒すと脅す」といった行為が確認された場合、たとえ一次クレーム内容に正当性があっても、その態様部分についてはカスハラとして切り分けて対応する必要があります。
この2段階の視点を現場に共有しておくことで、「お客様のご要望にお応えする」という本来業務と、「就業環境を守るための毅然とした対応」とを同じテーブルで議論できるようになります。
厚生労働省マニュアルに基づくカスハラの9類型
少し前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。厚生労働省カスタマーハラスメント対応マニュアルでは、代表的なカスハラとして次の9つの類型が整理されています。

厚生労働省 あかるい職場応援団「カスタマーハラスメント」
2. リピート型
3. 暴言型
4. 暴力型
5. 威嚇・脅迫型
6. 権威型
7. 店舗外拘束型
8. SNS/インターネット上での誹謗中傷型
9. セクシャルハラスメント型
ここからは、それぞれの類型について「どんな行為が該当するか」「現場で起きがちな具体例」を整理していきます。
時間拘束型
時間拘束型は、長時間にわたって従業員を拘束する行為のことで、店頭での居座り・長電話・同じ説明を何度も繰り返させるといったケースが該当します。たとえば、すでに説明済みの内容について「もう一度最初から全部説明しろ」と要求し、それを何時間も繰り返すようなケースが典型例です。
本来業務が止まってしまうだけでなく、他のお客様対応にも支障が出るため、現場の生産性を大きく損なうタイプのカスハラです。
リピート型
リピート型は、同じ内容の問い合わせや要求を執拗に繰り返すタイプです。理不尽な要望に対して、電話・メール・来店を繰り返してきたり、場合によっては担当者への面会を強く求めてきたりします。
一次対応者の負荷が蓄積しやすく、特定の担当者に対して「あいつを出せ」と執着するケースもあるため、途中で担当者を交代する運用を決めておくことが重要になります。
暴言型
暴言型はそのままですが、侮辱的な発言・人格否定・大声で怒鳴るといった行為が該当します。「使えない」「バカか」「死ね」といった発言はもちろん、見た目や出自に関する差別的な発言もここに含まれます。
現場のメンタルヘルスに直接的な影響を与えるため、録音・記録を残したうえで、早めに上席対応へ切り替える判断が欠かせません。
暴力型
暴力型もそのままですが、殴る・蹴る・叩く・わざとぶつかる・物を投げつけるといった身体的な危害が該当します。傷害罪・暴行罪といった刑事事件に直結するため、この段階では警察への通報を含めた対応フローに入る必要があります。
従業員を物理的に守るため、カウンター越しの動線設計や、緊急時に他のスタッフへ知らせる合図などを事前に決めておくことも有効です。
威嚇・脅迫型
威嚇・脅迫型は、反社会的勢力とのつながりをほのめかす・必要以上に顔を近づけてくる・「お前の家族はどうなってもいいのか」といった発言などが該当します。また、「SNSで晒してやる」「ネットの口コミで徹底的に悪く書く」といった情報的な脅迫もこの類型に含まれます。
脅迫罪や強要罪に該当する可能性もあるため、発言内容は正確に記録し、必要に応じて法的対応も視野に入れる必要があります。
権威型
権威型は、正当な理由がないにもかかわらず特別扱いを要求してくる、「自分を誰だと思っているのか」と権威を振りかざして要求を飲ませようとする、といったタイプです。肩書きや取引関係を盾に「支店長を出せ」「社長を呼べ」と強く迫るケースも典型例です。
正当な顧客対応と線引きがしにくい類型なので、「どこからが特別扱いでどこまでが通常対応か」を社内で明確にしておくことが特に重要です。
店舗外拘束型
店舗外拘束型は、正当な理由なく顧客の自宅や喫茶店などに従業員を呼び出す行為、あるいは営業時間外や休日に対応を強要する行為などが該当します。「今から家まで謝りに来い」といった要求がこれに該当します。
従業員の安全確保の観点からも、「一人で訪問させない」「移動中の連絡体制を確保する」といった運用ルールが不可欠です。
SNS/インターネット上での誹謗中傷型
SNS/インターネット上での誹謗中傷型は、実名や顔写真・店舗名・個人情報を含む投稿を行ったり、名誉を毀損する投稿・プライバシーを侵害する投稿をしたりする行為です。近年は口コミサイトやX(旧Twitter)での晒し行為が急増しており、対応の優先度が最も高まっている類型の一つと言えます。
投稿が確認された場合は、スクリーンショットやURLを記録し、プラットフォーム側への削除申請や弁護士への相談を早めに行う必要があります。
セクシャルハラスメント型
セクシャルハラスメント型は、社内のセクハラと同様で、従業員の身体を触る・食事やデートにしつこく誘う・性的な冗談を言うといった行為が該当します。特に接客業では「冗談のつもりだった」と言い逃れされやすい領域ですが、受け手が不快に感じていればハラスメントです。
被害者が声を上げやすい窓口の設置と、上長だけで抱え込まない報告フローを整備しておくことが重要です。
9類型別・カスハラへの具体的な対応方法
9類型の共通項として、対応の基本となるのは次の3つのステップです。「まず一次対応で線を引く」「記録を残す」「上席・専門部署にエスカレーションする」の順に進めていきます。ここでは、類型ごとに特に押さえておきたい対応ポイントを整理します。
時間拘束型・リピート型への対応
時間拘束型・リピート型はいずれも「対応に時間を消費させる」タイプなので、一次対応者が単独で抱え込まないことが最優先になります。具体的には、一定の時間(例: 30分)を超えたら上席に引き継ぐ、同じ顧客からの連続した問い合わせは記録番号で紐付けて共有する、といった運用が有効です。
リピート型では、担当者固定ではなく対応窓口を一本化し、「会社として同じ回答を返す」体制にしておくと、担当者個人への攻撃を避けやすくなります。
暴言型・暴力型・威嚇脅迫型への対応
暴言型・暴力型・威嚇脅迫型は、刑事事件化しうる重いカスハラです。対応の軸は「早めに録音・録画などで記録を残すこと」と「暴力や脅迫が現実のものになった時点で警察対応へ切り替えること」の2点です。
録音の告知は必ずしも必要ではありませんが、「お客様対応の品質向上のため、通話を録音させていただいております」といった定型アナウンスを入れておくと、抑止効果と記録の双方を担保できます。
権威型・店舗外拘束型への対応
権威型は「どこまでが特別扱いか」の線引きが難しい類型です。あらかじめ社内で「取引規模や肩書きに関係なく、全顧客に対して同一の基準で対応する」旨をルール化しておき、現場が個別判断を迫られないようにしておきましょう。
店舗外拘束型については、訪問対応そのものを原則禁止とし、やむを得ず訪問する場合でも複数人での対応・移動ルート共有・緊急連絡網の整備を必須条件とします。
SNS誹謗中傷型・セクハラ型への対応
SNS誹謗中傷型は、早期発見と証拠保全が最重要です。エゴサーチを定期運用し、投稿が見つかった時点でスクリーンショット(URL・投稿日時・投稿者プロフィール含む)を保存しておきます。その上で、悪質性が高いものについては削除請求や発信者情報開示請求といった法的対応を検討します。
セクシャルハラスメント型については、性別を問わず誰もが被害者になり得ることを前提に、相談窓口と報告フローを整備することがすべての出発点になります。
企業として取るべき5つのカスハラ対策
ここまでは「起きた後」の対応を中心に整理してきましたが、実際にカスハラ被害を減らすためには、事前の仕組みづくりが欠かせません。厚生労働省マニュアルと、先ほどご紹介したJR東日本様・ヌーラボ様の取り組みを踏まえると、企業として取り組むべき対策は大きく次の5つに集約できます。
カスハラ対応方針の策定と社外公開
もっとも土台となるのが、「当社はカスハラを容認しない」という方針を会社として明文化することです。内部向けの対応マニュアルだけでなく、ヌーラボ様のようにWebサイトで対外的にも公開することで、「カスハラ行為を行った顧客に対しては毅然と対応する」というメッセージを社会に発信できます。
カスハラ対応マニュアルと現場教育
方針を実効性のあるものにするためには、現場スタッフ向けの対応マニュアルと定期的な教育が必要です。特に、「どの段階で上席に引き継ぐか」「どの行為が出た時点で警察対応か」といった判断基準は、個人任せにせず、組織として事前に決めておくべき領域です。
カスハラ対応は属人化させず、組織としての判断基準を共有しておくことが最大の防御策になります。
相談窓口の設置
カスハラ被害は、被害者本人が声を上げにくい領域でもあります。社内の相談窓口に加えて、必要に応じて外部EAP(従業員支援プログラム)や産業医との連携窓口を用意しておくと、早期発見・早期ケアにつながります。
記録・情報共有の仕組み化
カスハラへの対応では、「誰が・いつ・何を言った/行ったか」を正確に残せるかどうかが、その後の対応可否を大きく左右します。通話録音、対応履歴のチケット管理、店舗監視カメラの適切な運用など、日常業務のなかで自然に記録が残る仕組みを整備しておきましょう。
法的対応・外部専門家との連携
最終的には、弁護士・警察・業界団体といった外部専門家との連携体制がカスハラ対策の仕上げになります。顧問弁護士を持っていない場合でも、業界団体や商工会議所経由で相談できる窓口を事前にリストアップしておくだけで、いざというときの初動が大きく変わります。
カスハラ対策をさらに深く学びたい方へ(関連書籍)
本記事では厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルをベースに、9類型と企業対策の全体像を整理しました。さらに、企業実務・法的対応・研究ベースの知見を体系的に学びたい方には、以下の書籍が参考になります。
カスタマーハラスメント 働く人をどう守るか ─カスハラ対策の研究・実践・事例─(島田恭子・桐生正幸 編著/福村出版)
カスハラの実態解明から最新の研究動向・理論的背景・実践事例までを体系的にまとめた、実務者・研究者向けガイドブックです。組織として取り組むカスハラ対策を、研究知見に裏打ちされた形で深く理解したい方におすすめの1冊です。
カスタマーハラスメント撃退の教科書 小さな会社でも即実践できる!(加藤義樹 著/セルバ出版)
中小企業・店舗オーナー・店長・マネージャー層を想定し、現場で今日から実践できるカスハラ対応の基本手順を解説。社内でカスハラ対応マニュアルを整備する際の、たたき台としても使いやすい1冊です。
なお、2025年4月1日には「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されており、企業には従業員を守るための対応策の整備が一層強く求められるようになっています。今のうちに社内の方針・マニュアル・研修体制をアップデートしておくことをおすすめします。
まとめ
今回はカスタマーハラスメントについて、厚生労働省マニュアルに基づく9つの類型と、それぞれの類型ごとの対応方法、そして企業として取り組むべき5つの対策までを整理しました。カスハラは、サービス職の3人に1人が経験する身近な労務リスクであり、個人の頑張りでどうにかする領域ではなくなってきています。
大事なのは、(1)カスハラを容認しない方針を会社として明文化し、(2)9類型ごとの具体的対応をマニュアル化し、(3)記録・相談・法的対応までを一気通貫で仕組み化しておくことです。そして、そのうえで現場の認識をそろえるためのハラスメント研修を定期的に実施していくことで、被害の予防と早期対応の両方が実現できます。
より詳しい内容については、厚生労働省の公式サイト「あかるい職場応援団」から無料でダウンロードできるカスタマーハラスメント対策企業マニュアルも、ぜひあわせてご覧ください。
