知・可・行・伝の4ステップで研修効果を捉える階段図|知っている・やれる・行っている・教えられる

【結論】研修のゴールを「内容を理解した」で終わらせず、「知っている」「やれる」「行っている」「教えられる」の4段階で捉えると、次に必要な育成施策が見えやすくなります。理解度テストで確認できるのは主に最初の段階です。実務での行動や、他者への展開まで含めて確認することが重要です。

目次

1. 「知・可・行・伝」の4ステップとは
2. 「知っている」と「やれる」は違う
3. 「やれる」と「行っている」も違う
4. 「行っている」と「教えられる」も違う
5. 4段階を判定する質問例
6. 段階ごとに育成施策を変える
7. ビジネスゲーム研修が担える範囲
8. 既存の段階モデルとの使い分け
9. まとめ
10. よくある質問
11. 参考書籍

研修後のアンケートでは「よく理解できた」と回答しているのに、職場では行動が変わっていない。

本人に聞くと「やろうと思えばできます」と答えるものの、実際に行っている様子は見えない。あるいは、本人は成果を出しているものの、その方法を後輩にうまく教えられない。

人材育成に関わっていると、このような場面に出会うことがあります。これは、「知っている」「できる」「実際に行っている」「人に教えられる」が、それぞれ異なる状態だからではないでしょうか。

本記事では、マッキンゼーの能力開発プログラムA2E(Ability to Execute)をまとめた書籍で紹介されている「知・可・行・伝」という考え方を参考に、研修効果と人材育成を4段階で捉える方法をご紹介します。

「知・可・行・伝」の4ステップとは

A2Eは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した能力開発プログラムです。マッキンゼーの公式ページによれば、70カ国以上、500社超、65万人以上に提供されてきたとされています(出典:A2E : Ability to Execute|McKinsey & Company)。

その中で示されているのが、学びや実行の状態を「知・可・行・伝」で考える4ステップです。本記事では、研修やOJTで使いやすいように、次のように整理します。

段階 状態 確認したいこと
知っている 内容や理由を自分の言葉で説明できるか
やれる 必要な場面で、実際に再現できるか
行っている 職場で継続的に実践しているか
教えられる 方法を分解し、他者の実践を支援できるか

この4段階は、人に固定的なランクを付けるためのものではありません。ある人がプレゼンテーションでは「伝」の段階でも、財務知識では「知」の段階ということは十分にあります。人ではなく、具体的な行動やスキルごとに現在地を見ることが大切です。

「知っている」と「やれる」は違う

研修では、最初に知識を学びます。報連相であれば報告のタイミングを知る、傾聴であれば相手の話を遮らずに聞く重要性を理解する、といった状態です。

しかし、説明を聞いて理解したことと、実際の場面で行動できることは同じではありません。忙しい上司を前にして適切なタイミングで報告することや、反対意見を持ちながら相手の話を最後まで聞くことには、知識とは別の練習が必要です。

・「知」は、説明や理解の状態
・「可」は、具体的な場面で再現できる状態

そのため、「知」から「可」へ進むには、講義を追加するだけでは不十分なことがあります。ケーススタディ、ロールプレイ、ビジネスゲームなど、知識を使って判断し、行動してみる機会が必要です。

「やれる」と「行っている」も違う

能力があることと、その能力を職場で使っていることも別です。本人が「やろうと思えばできる」と考えていても、実際に行っていなければ、周囲や組織に変化は起きません。

たとえば、フィードバックの方法をロールプレイで実演できたとしても、職場で必要なフィードバックを先送りしていれば「可」の段階にとどまっています。実際の1on1や日常業務で繰り返し使われて、初めて「行」と評価できます。

ここでのポイントは、本人の自己申告だけで判断しないことです。「できると思いますか」ではなく、いつ、どの場面で、どのように行ったかを確認します。

「可」から「行」へ進むための支援

「可」から「行」への移行を、本人の意志の強さだけに任せると定着しにくくなります。上司の声掛け、チェックリスト、実践する場面の指定、1on1での振り返りなど、行動を起こしやすい環境を用意することが有効です。

研修直後に「明日から意識します」と宣言して終えるのではなく、「次の会議で一度使う」「今週中に上司と実践結果を振り返る」のように、場面と期限を具体化します。

「行っている」と「教えられる」も違う

経験を重ねた人は、意識しなくても上手に行動できるようになります。一方で、無意識にできることほど、他者に説明するのが難しくなる場合があります。

「自分のやり方を見て覚えて」「経験すれば分かる」という説明では、相手の再現につながりません。「伝」の段階では、自分の成功談を話すだけでなく、相手が行動できる形に分解する力が求められます。

・どの場面で使うのかを説明できる
・手順だけでなく、判断基準を言語化できる
・相手の実践を観察し、具体的にフィードバックできる
・相手が一人で再現できるところまで支援できる

「伝」は、個人のスキルを組織の能力へ変える段階とも言えます。一人のベテランだけができる状態から、複数のメンバーが再現できる状態へ移すことで、属人化の解消にもつながります。

4段階を判定する質問例

研修担当者や上司が「どの段階まで進んだか」を確認する際は、段階ごとに質問を変える必要があります。すべてを理解度テストで測ろうとすると、「知」より先の状態を捉えられません。

段階 質問例 確認できる証拠
重要なポイントを自分の言葉で説明できますか 理解度テスト、説明内容
このケースなら、具体的にどう対応しますか 実演、ロールプレイ、演習結果
直近では、いつ、どの場面で実践しましたか 業務記録、上司の観察、実践事例
初めての人に教えるなら、どの順番で伝えますか 指導計画、相手の実践、フィードバック内容

評価では、一度できたかどうかだけでなく、条件が変わっても再現できるかを見ることも大切です。簡単なケースではできても、時間制約や意見の対立が加わるとできない場合は、まだ支援や練習が必要かもしれません。

段階ごとに育成施策を変える

現在地が分かると、次に打つ施策も変わります。知識が足りない人に実践だけを求めても難しく、すでに実践している人に同じ基礎研修を繰り返しても成長実感を持ちにくいでしょう。

移行 育成の焦点 施策例
知へ 共通言語と判断基準を理解する 講義、動画、事例解説、理解度テスト
知→可 知識を使って判断・行動する ケース演習、ロールプレイ、ビジネスゲーム
可→行 職場で実践し、継続する 実践課題、上司の観察、1on1、チェックリスト
行→伝 暗黙知を言葉と手順にする 後輩指導、社内勉強会、指導案作成、相互フィードバック

研修を1回のイベントとして設計するのではなく、研修前・研修中・研修後に役割を分けると実践につながりやすくなります。この視点は、研修設計だけでなく、学びを行動に変えるリーダーシップを考えるうえでも役立ちます。

・研修前:現在の段階を自己評価と上司評価で確認する
・研修中:「知」を得て、「可」を試す
・研修後:「行」を観察し、振り返る
・定着後:「伝」の機会をつくり、他者へ展開する

ビジネスゲーム研修が担える範囲

ビジネスゲームとは、仕事の一部を疑似体験できる研修・教育用のシミュレーションゲームです。座学で得た知識を使い、限られた情報や時間の中で判断し、チームで行動する機会をつくれます。

詳しくは、ビジネスゲームとはをご覧ください。

「知・可・行・伝」で考えると、ビジネスゲーム研修が特に力を発揮しやすいのは「知」から「可」への移行です。知識として聞いた内容を、その場で使ってみる機会を提供できるためです。

ただし、ゲーム内でできたからといって、職場でも継続して「行っている」とは限りません。研修中の成功を、そのまま行動変容と評価しないことも重要です。研修後の実践課題や上司による観察を組み合わせて、初めて「行」への移行を確認できます。

研修でよく使われるビジネスゲームの定番7選|目的別の選び方と比較表つき

「知」から「可」への移行にどのゲームを使うかは、学ばせたい内容によって変わります。たとえば「財務の虎」は、「BS/PL」「売掛金」などの会計・財務の基礎が楽しく学べるビジネスゲームです。目的別の選び方と比較表は、上記の記事にまとめています。

財務の虎

既存の段階モデルとの使い分け

人材育成には、ほかにも複数の段階モデルがあります。どれか一つが正しいというより、確認したい対象によって使い分けるのがよいと考えています。

ドレイファスモデルで設計する新人研修は、初心者から達人へ進む熟達過程を考える際に役立ちます。

ドレイファスのスキル習得5段階モデル

プロチャスカの行動変容段階モデルとは?は、本人が行動を変える準備状態と、それに応じた介入を考える際に役立ちます。

行動変容を起こす5段階モデル

一方、「知・可・行・伝」は、特定のスキルについて、理解・再現・実践・他者展開のどこまで到達しているかを簡潔に確認したいときに使いやすい枠組みです。

まとめ

「知っている」と「やれる」は違います。「やれる」と「行っている」も違い、「行っている」と「教えられる」も同じではありません。

研修の満足度や理解度だけで効果を判断すると、「知」の段階に到達したことを確認して終わってしまいます。研修で試し、職場で行い、最終的には他者へ伝えられるところまで設計することで、個人の学びを組織の力へつなげやすくなります。

・知:知っている
・可:やれる
・行:行っている
・伝:教えられる

まずは、現在行っている研修のゴールが4段階のどこに置かれているかを確認してみてはいかがでしょうか。

よくある質問

Q. 4段階は必ず順番に進むのでしょうか?

基本的には「知」から始まりますが、実務経験を先に積み、後から理由や理論を学ぶ場合もあります。また、扱うスキルが変われば同じ人でも段階は変わります。人に固定的なランクを付けず、スキルごとに確認してください。

Q. 「行っている」はどのように確認すればよいですか?

本人の自己申告だけでなく、直近の実践事例、業務記録、上司や同僚による観察など、行動の証拠を組み合わせます。一度だけでなく、複数の場面で継続しているかを見ることも重要です。

Q. ビジネスゲーム研修だけで「行」まで進めますか?

ゲーム内で「やれる」ことは確認できますが、職場で「行っている」ことの証明にはなりません。研修後の実践課題や上司との振り返りを組み合わせて、職場での行動を確認する必要があります。

参考書籍

今回ご紹介した「知・可・行・伝」は、マッキンゼー・アカデミー編の同書で紹介されている考え方を参考にしています。この書籍では、A2Eを構成する12の仕事術が扱われています。詳しくはA2E公式ページの書籍紹介をご覧ください。


この記事を書いた人

千葉 順
千葉 順
株式会社HEART QUAKE 代表取締役
元法政大学兼任講師(キャリアデザイン論)
→ 詳しいプロフィール

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