新人や若手の成長が思うように進まない――OJTリーダー(OJT担当・指導員)を任された方なら、一度は感じたことがある悩みではないでしょうか。計画を立てて、面談を設定して、仕事を任せて……それでも育たない。原因は「教え方が下手だから」ではなく、効果のあるOJT行動に注力できていないことにあるかもしれません。

本記事では、日本の職場学習研究を代表する研究成果をもとに、新人の能力向上に実際に効く2つの行動と、意外にも効果が薄い1つの行動を整理します。2026年時点でOJTリーダー研修の設計に関わる方、これから後輩を持つ若手・中堅社員にとって、現場ですぐ使える指針になるはずです。

結論:新人の能力を伸ばすのは「協力」と「会話」

先に答えから書きます。新入社員の能力向上に強く影響するOJTリーダーの行動は、「協力」と「会話」の2つです。逆に、真面目なOJTリーダーほどやりたくなる「計画的な指導・委任」は、統計的に有意な影響が確認されていません。

出典は、中原淳氏・木村充氏らによる『職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究』(生産性出版)の第5章「新入社員の能力向上に資する先輩指導員のOJT行動」(株式会社ラーンウェル代表・関根雅泰氏による調査)です。2010年前後の研究ですが、構造的な示唆は現在のOJT設計でも変わらず通用します。OJTを運用する上でOJTのメリットと陥りやすい罠と合わせて押さえておきたい内容です。

OJTの現状:半数以上は「名ばかりOJT」に陥りやすい

厚生労働省・労働政策研究・研修機構の古典的調査でも、製造業等ものづくり系業種で「計画的なOJT」を実施している企業は約52%にとどまりました。残り半数近くは体系立った育成プログラムが無いということになります。

「計画的なOJT」という言葉そのものが、現場には“OJTという名の放置プレイ”が一定数存在することを示しています。実際、新人からは「何を聞けばいいかわからない」「忙しそうで話しかけづらい」といった声が上がりがちです。OJTを放置プレイにしないために必要なことでも整理していますが、放置型OJTは離職リスクにも直結します。

だからこそ、OJTリーダーには「時間を確保したうえで、何に使うか」という視点が欠かせません。ここで効いてくるのが、冒頭で挙げた「協力」と「会話」という2つの行動です。

1つ目の鍵:「協力」=新人を1人の指導員に閉じ込めない

研究では、OJTリーダーの「協力」行動として以下の具体的アクションが挙げられています。

・他部門と協力して仕事をする機会を与える

・他工場・グループ会社など、別拠点で仕事をする機会を与える

・他の職場メンバーからも指導を受けられるよう配慮する

・同行時に他部門や取引先など様々な人を紹介する

・会議や打ち合わせに同席させる

・新人の指導状況を、会議や報告書で職場メンバーと共有する

ポイントは、OJTリーダーが1人で抱え込まず、職場全体で新人を育てる「ハブ」になっていることです。指導員が自分だけで教えようとすると、教えられる内容は指導員のスキルセットに限定されます。逆に、意図的に他者とつなぐことで、新人は視野・ネットワーク・学びの多様性を一気に得られます。

これはOJTトレーナーに求められる3つのコミュニケーションスキルとも重なる考え方で、「教えるスキル」よりも「つなぐスキル」がOJTリーダーの本質だと言えます。

2つ目の鍵:「会話」=業務外の話を含めたコミュニケーション

「会話」の具体的行動は、驚くほどシンプルです。

・プライベートな相談にのる

・良かった点や成長した点を見つけて褒める

・新人の話をよく聞く

これら3つの行動は、業務指導そのものではなく関係性の土台をつくる会話です。「プライベートな相談にのる」は、近年のハラスメント配慮の文脈で距離感を取りすぎる上司が増えていますが、新人側から持ちかけてきた相談を受け止める姿勢はむしろ必要です。踏み込む/踏み込まないの境界は、知っておきたい2種類のフィードバックのやり方で紹介しているフィードバック技術を組み合わせると整理しやすくなります。

また、「褒める」「話を聞く」は、ただ頻度を上げるだけでは効果が出にくいスキルです。具体的に何を褒めるか、どこまで深く聴くかを意識的に設計することで、新人が安心して発信できる環境が生まれます。

意外な結果:「委任」は能力向上に影響しない

同じ調査で、「委任」は新人の能力向上に有意な影響を及ぼさなかったことも報告されています。委任に該当する行動は以下の2つでした。

・行き当たりばったりではなく、計画的にOJTを行う

・新人の立場に立った指導を行う

いずれも「良いOJT行動」として一般に推奨されてきたものです。それにも関わらず能力向上への寄与が確認できなかったのはなぜか。これは、松尾睦氏の『OJTの実践知:若手社員の熟達支援』(2010)にある以下の指摘と符合します。

若手が1年目の段階で「自律の支援」を過剰に要求することは、若手と指導者の関係を悪化させたり、成長を阻害することが明らかになった。

つまり、入社直後のフェーズで「自分で考えろ」「計画を立てて進めろ」と強く求めすぎると逆効果になりうるということです。「委任=育成の王道」と信じてきたOJTリーダーほど、このデータは受け入れにくいかもしれません。

そもそも「能力向上」とは何を指すのか

ここでいう能力向上とは、中原淳氏『職場学習論』P.83の17項目尺度を因子としたものです。具体的には以下の6次元で構成されています。

次元 概要
業務能力向上 担当業務を遂行するための知識・スキル
他部門理解向上 隣接部署の役割・業務への理解
他部門調整能力向上 他部門と連携して物事を進める力
視野拡大 仕事全体・組織全体を俯瞰する視点
自己理解促進 自分の強み・弱み・価値観の自覚
タフネス向上 ストレス下でも働き続けられる精神的な強さ

「協力」が他部門理解・他部門調整・視野拡大に効くのは直感的に理解できますし、「会話」が自己理解促進やタフネス向上に効くのもうなずけます。目標未達の部下へのフィードバック|4つのケース別の対処法と声かけ例なども参考に、会話の質を高める工夫を重ねたいところです。

OJTリーダー研修で盛り込みたい3つの要素

ここまでの内容をOJTリーダー研修の設計に落とし込むと、次の3点が重要になります。

1. 「協力」の可視化:新人を他部門・他拠点・職場メンバーにつなぐ具体アクションをチェックリスト化する

2. 「会話」の型化:1on1や日常会話で「褒める」「聴く」「プライベートの相談を受ける」3点を意識できる設計にする

3. 「委任」の抑制:入社半年~1年は自律を過剰に求めない。計画性よりも関わる頻度を優先する

より体系的なOJT研修を組む場合は、OJTトレーナー研修で取り入れたい7つの内容OJTトレーナー研修に使えるOJT疑似体験ゲームも参考になります。また、新人側の特性理解には新入社員(部下)の4つのタイプに合わせた指導方法が役立ちます。

まとめ:OJTリーダーがまず意識すべき2つの行動

新人の能力向上に効くのは、「協力」(職場全体で育てるハブになる)と「会話」(関係性を支える日常の対話)の2つでした。一方で、「計画的な指導」「新人の立場に立った指導」という委任的な行動だけでは、能力向上への直接的な効果は確認されていません。

OJTリーダーに任命されたら、まずは「自分が1人で教えなければ」という思い込みを外し、職場メンバーと新人をつなぐ機会をどれだけつくれるかに意識を向けてみてください。そのうえで、業務の話以外も含めた会話の機会を日常的に積み重ねていくこと。これが、研究結果が示す最短ルートです。

OJTリーダー研修やマネジメント層の育成研修を体系的に設計したい場合は、部下・後輩育成の意思決定を疑似体験できるビジネスゲーム型研修を組み合わせる方法もあります。HEART QUAKEでは部課長ゲームストーリーラインマネジメントゲームなど、管理職・OJTリーダー育成に活用いただけるゲームを提供しています。

参考:
中原淳 他『職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究』生産性出版(第5章 新入社員の能力向上に資する先輩指導員のOJT行動)
松尾睦『OJTの実践知:若手社員の熟達支援』(2010)
中原淳『職場学習論―仕事の学びを科学する』東京大学出版会
労働政策研究・研修機構 https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2007/documents/026_03.pdf


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