ビジネスマンはどのように内省しているのか?
ビジネスマンはどのように内省(reflection)しているのか?廣松・尾澤(2019)「内省支援が必要な中堅社員の内省プロセスの特徴の質的研究」(日本教育工学会論文誌42巻4号)の知見をもとに、一般的なビジネスマンの内省は「問題解決の経緯を振り返ること」に留まりがちである一方、変革型リーダーや業務能力が高い人は「メンタルモデルの変革」「多様な視点からの捉え直し」まで踏み込んでいる、という対比を解説します。
また、自分の内省を浅く留めず深められるようにするための実務的な3つの工夫(1on1での問いかけ、振り返りフレームの活用、チーム対話型の学び)と、研修設計の観点からの取り組み例まで紹介します。
廣松ちあき・尾澤重知
日本教育工学会論文誌 42巻 4号 p.297-312
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/42/4/42_42087/_article/-char/ja
なぜいま「内省」が重要視されているのか
内省(ないせい)とは、自分の行動や思考プロセスを見つめ直すことです。1990年代以降、デイビッド・コルブの経験学習理論の浸透とともに、「経験を学びに変換するための必須プロセス」として人材開発分野で扱われてきました。
弊社の過去記事では以下のように触れています。
・変革型リーダーは内省する: 内省経験は変革型リーダーシップに強い影響を与える
・経験学習の診断を行うための16項目の尺度: 内省的省察の得点が高い人ほど業務能力が高い
1on1の普及、リモートワーク下での個人学習比重の増加、ジョブ型雇用の進展など、「言われたことをこなす」から「自律的に学び続ける」へのシフトが進んでいる現代では、内省の質が個人のパフォーマンスに直結する時代になっています。
一般的なビジネスマンの内省は「問題解決の経緯の振り返り」が中心
本研究ではとあるIT企業の中堅社員に対してインタビュー調査を行い、仕事における内省プロセスをモデル化しています。

画像参考:内省支援が必要な中堅社員の内省プロセスの特徴の質的研究
論文には以下のような記述があります。
第一には仕事の問題解決の経緯を振り返ることであり、
次いで他者からの働きかけによって、自己の内面的特徴を
多角的に検討することが分かった
つまり、中堅社員にとっての内省は「問題が発生し、原因分析→暫定対応→再発防止策を検討する」という出来事を思い出すことが中心になっているということです。モデルで言えば「仕事の振り返り」の太枠内です。
優秀なビジネスマンの内省はどこが違うのか
「問題解決の経緯を振り返ること」は有意義ですが、変革型リーダーや業務能力が高い人の内省と比較するとやや浅い可能性があります。
①メンタルモデルの変革まで踏み込む
変革型リーダーは内省するでは、「現実に起きている事象と、自分の持っているメンタルモデルの歪みを察知し、現実に合わせて自分自身のメンタルモデルを変革する」とされています。単なる経緯の想起ではなく、自己の認知の枠組みそのものの書き換えまでを含みます。
②多様な視点から捉え直す
経験学習の診断16項目には「経験したことを多様な視点から捉え直す」「様々な意見を求めて自分の仕事のやり方を見直す」といった行動が並びます。自分の視点に閉じない内省が、高業務能力者の特徴です。
③「問題が起きていないとき」にも内省する
インタビュー結果では、内省は問題発生をトリガーに行われる傾向がありました。しかし理想は、問題が起きていない段階で現状のプロセスを見直し改善策を考える予防的な内省です。これはいわゆる「セカンドループ学習」に相当します。
内省を深めるための実務的な3つの工夫
浅い内省から一段深い内省に移行するために、実務で使いやすい工夫を紹介します。
①1on1での「問い返し」
上司やコーチが「その時、どう感じていた?」「もし同じ状況になったら次はどうする?」「誰の視点で見直せば違う解釈が出てくる?」と問い返すことで、認知の枠組みに気づく内省に移行できます。関連: 1on1は意味ない?効果的な頻度や内容・工夫について
②振り返りフレームワークの活用
KPT、YWT、4行日記、リフレクティブサイクルなど、思考の切り口を与えるフレームワークを使うと、個人の内省が「問題解決の想起」から「視点の拡張」に広がりやすくなります。関連: 振り返りのモデル「リフレクティブサイクル」とは/新入社員研修で使える振り返りの方法(KPT)
③チームで対話しながら振り返る
個人の内省は認知の偏りから抜け出しにくいですが、チームメンバーの視点が混ざると多様な解釈が生まれます。関連: リフレクティング・プロセスを用いたチームでの振り返りのやり方/チームでの振り返りが活動の改善につながるという実験結果
内省に関するよくある質問
Q. 内省と反省はどう違いますか?
A. 反省は過去の失敗を悔いる感情的な側面が強く、内省は事実と解釈を切り分けて次の行動につなげる思考的な側面が強いと整理できます。反省は一瞬、内省は継続的な営みです。
Q. 内省するためのおすすめの頻度は?
A. 週次の軽い振り返り(週報・4行日記・チームの振り返り会)と、四半期単位の深い振り返り(1on1・キャリア面談)の2層運用がおすすめです。週次で事実を溜め、四半期で意味を問い直す構造になります。
Q. 自分一人だと内省が浅くなります。どうすれば良いですか?
A. ①フレームワークを使う(KPT・YWT・リフレクティブサイクル)、②他者の視点を借りる(1on1・メンター・チーム対話)、③「問題が起きていないとき」にも意図的に内省する、の3つが有効です。
まとめ
本記事では廣松・尾澤(2019)の研究をもとに、一般的なビジネスマンの内省が問題解決の経緯の振り返りに偏ることを確認し、変革型リーダーや業務能力が高い人との違いとしてメンタルモデルの変革・多様な視点からの捉え直し・予防的な内省の3点を整理しました。
関連テーマとして経験学習を学ぶ研修のやり方、経験学習サイクルとアンラーニング、週報を活用したリフレクション(振り返り)のやり方も参考になります。
廣松ちあき・尾澤重知
日本教育工学会論文誌 42巻 4号 p.297-312
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/42/4/42_42087/_article/-char/ja
